光と風と

私は、布団の中でうつ伏せになり、目に腕を押し当てた。
小学校の頃、目に映る星々の光が美しいのを発見して、感動してから癖になっていた。
他の誰にもしゃべってないから、私だけの秘密の宝だった。
青白い光の星粒、白っぽい星粒、時には、思いがけない動きを見せた。
光源のない真っ暗な部屋に、映るはずのない光だった。
私の中にある宇宙空間の広がりだった。それをもう一度やってみたくなくなった。
そして寝た。

そして、20日が来た。
昨夜は、義母が夜中の3時まで騒いで、少し相手をして、机に当ててガンガンと鳴らす、その瓶を取りあげた。まだ、騒いでいたが、私が寝入ったらしいのでどうなったのかは知らない。

昨夜は義母が遅かったから、多分、昼過ぎまで起きられないだろう。
表のブォーンという音で、気がついた。今日は、町内の敷地内で伸びすぎた樹木の伐採をする日だった。思い起こせば2009年からの願いが、やっと実行に移されるのだ。
作業衣に着替えて、マスクをして、軍手をはめた。
いつまでも使われないゴミ袋を抱えて、飛びだした。
私に気づいてくれた人に、挨拶をして行って、輪の中に溶け込んだ。大木を倒し、幹をチェーンソーで細かくし、枝を葉っぱごと大きなビニール袋に入れる。総勢14人も集まっ丸太は、リヤカーで所定の場所へ運び、枝と細い幹は、ビニール紐で結わえた。後は、クマ手でかき集め、それもゴミ袋に入れて、口を縛った。テキパキと手慣れた町内の連携プレーで、ゴミ袋の山が出来上がった。
葉っぱのごみ袋と、丸太と、小枝の束ねたのと仕分けられた山は、4トンぐらいになるらしい。
お昼近くなって、集会所で、お弁当が振る舞われた。ビールを飲む男性もいたが、ほとんどジュースとお茶で、一時になるまで休憩した。
午後は、南側にある、山法師と、ヤマモモの樹の6本になった。
ほぼ山師に近い男性が、ハシゴに登って、丈夫な黒と黄色のロープで、幹にくくり付けると、今度は、それを綱引きよろしく、みんなで身体ごと斜めにして引っぱる。
もう一度、その男性がハシゴに登って、高い位置の幹からチェーンソーで切り始める。幹を切り離されても、フェンスの方へ倒れないように、みんなで引っぱる。
下手をしたら、フェンスを越えて、駐車している車に倒れると弁償が大変だからだ。
「せ~の~」
息を合わせて、見事に望む方向へ倒れて、笑顔で歓声を上げる。見る間にまた、チェーンソーが、太い幹を分断して行く。女性は、主に枝を千切ってゴミ袋に詰める。手間で言えば、袋に入れるのに時間がかかる。
「山法師の樹は、粘るから折れにくいね」
「高枝バサミがあれば、早いよ」
それを聞いて、私が向こうにあったのを持って来て、上手く扱いながら、切って行った。
ボランティアでやった経験が活きた。
「真っ直ぐに切ると、大変だから、斜めに切ると力は要らんよ」
なるほど、力が少なくて、思ったよりも、サクサクと切れる。
いつもこんな仕事があれば、二の腕が引き締まっていいのだろうが。
こういう、ボランティアに集まるような人々は、他意がなく、さっぱりしてて気分がいい。
そんなことを繰り返して、夕方4時には、すべて終えた。また、集会所で集まって、お茶飲み会になって、私ら女性3人が改めて礼を言った。
私の部屋に、明日から、朝日が当たる光の量が、格段に違って来る。
「樹の日陰になっている当事者が、やっぱり手伝わないとね」
時が流れて、言い出しっぺは、3階に住む住人だった。樹の影には余りならないが、温かくなると、蜂が飛んで来て、ベランダの近くに巣を作る。
「今日は、こんなに出てくれる人がいたから、片付いた。明日も、となると出る人も少ないからね、一日仕事になったけど、終わって良かった」
年寄りが多いので、みんな「腰が痛い」と言っていた。
「陽が当たる分、今度は草ボウボウだよ」
樹の伐採のお蔭で、陽が当たり、風通しが良くなると、コケで覆われていた植生が変り、草花の生えやすい環境になるのだ。
私は、「じゃあ、ワイルドフラワーの種、撒けばいい」と叫んだ。「それが生えると、雑草が茂りにくくなるよ」
「じゃあ、それを撒いて…」
同じ組の女性からも、賛同を得たようなので、その日のうちに、ホームセンターへ行って、ワイルドフラワーではないが、それに準ずる混合の種を二袋買って、ばら撒いた。
ばら撒いた後で、今はまだ、2月の半ば、でまだ早いかも知れないと気がついた。やっぱり土の中に植えないと難しいのだろうなと思ったが、後の祭りだ。
朝は光が差し込み、少しは、風通しが良くなったのではないかと思っている。

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