歴史から抹消してしまった国防と国益 34
-壊れ行く北米社会(アメリカ編)-
世界は、経済と秩序の崩壊が一途をたどっています。特に経済の崩壊は、深刻で中国ばかりが注目されていますが、北米もスゴイ勢いで低迷に向かっています。若者の仕事が無く、4年制大学を出てもまともに仕事に就くことが出来なくて、スターバックスやUPS(宅配業者)などのパートの仕事をしながら仕事を探しています。
先日、連休だったのでアメリカのベイリンハム(Bellingham)というカナダの国境に近い街に買い物に行きました。多くの日本人は、国境を超えて買い物だけ行くという発想はないと思いますが。しかし、陸続きで国が繋がっていると、すごく簡単で誰もが国境を越えて日帰りで買い物や遊びに行きます。日本で言えば、栃木や長野から東京に行くのとさほど変わらない感覚です。今回言った町は、バンクーバーから2時間ぐらいの場所にあり、シアトルとバンクーバーの中間に位置していて、日用品や食材がだいたい揃う場所でもあります。(国境付近に住んでいる人は、その街まで30分ぐらいで行くことが出来ます。)その街から見えてくる、いまのアメリカの状況をルポしたいと思います。
この町は、多くのカナダ人が訪れて日用品や食料品を買いに来ることでも有名で、町の経済は外貨で回っている不思議な町です。コロナ前、特に目立つ買い物をしていたのはインド系カナダ人で、地元で買うよりもここで買っている感じでした。1つの例ですが、日用品(トイレットペーパーなど)・牛乳を20リットル・小麦粉を20㎏・ヨーグルトを何キロも買い付け、自家用車に満載にしてカナダに帰っていく姿をよく目にしました。(なぜか、彼らは乳製品を大量に買います。ヨーグルトは、チキンを漬けとくために使うのでしょう。)なぜ、インド系カナダ人が多くいるのか? そのヒントは、彼らの移民の価値観になります。
少し話しを脱線させます。Vancouverは、チャイナタウンだけでなくインドタウンもあり、彼らはアメリカの国境付近に住みインドタウンを作っています。次回、民族の移住と民族タウンを書こうと思います。Vancouverには、チャイナタウン・インドタウン・コーリアンタウンと民族経済圏を作って、独特の経済サイクルを持って自分たちの民族の生存権を担保しています。(日本もクルド人の移住が問題になっていますが、そろそろ民族問題を真剣に考える時期に来ていると思います。リベラル的「みんな仲良く」という思考だけでは、日本民族は自滅していくでしょう。民族問題は、後世に続く問題で単純なものではありません。)そのインド系の移民は、中国移民とは価値観や家族観は違い、中華系移民とは違うかたちでどんどん人口を増やしています。彼らは、国境付近に家を購入して次の世代につなげる家族基盤を作るところから始めます。そして、その家は4世帯~5世代が同居できる大きな家を構えて、総勢20人ぐらいの大家族の生活をします。一家が、下宿の付いた零細企業と見ると彼らの生活様式が見えてきます。彼らの発想は、エンゲル係数を下げるためにカナダだけの価格を見るのではなく、アメリカも含めた価格を常に見ています。誰か時間がある人間が、アメリカまで行って買い物をする独特の経済感覚を持ち、家計支出というよりは企業の仕入れと考えた方がいいかもしれません。そのようにして、自分たちの家族の生活基盤を作って、民族の集合体としてインドタウンを作っています。
話しを戻します。ここで、異変が起きたのはコロナ後です。かつては、いたるところにBC(British Columbia州)の車のナンバーがあり、インド系の人たちをよく目にしていました。どのスーパーに行ってもBC(British Columbia州)の車のナンバーがあり、地元の人より多いときがありました。今回それが、激減していました。その原因は、物価高騰です。アメリカの高騰は、異常なほどで食品の殆どが50~150%は上がっていました。(ディリー商品:牛乳・チーズ・玉子・ヨーグルトは150~200%は上がり、小麦や米は50~100%は上がっていました。)カナダで買った方が、ほとんどのものが安く、この物価高騰はアメリカ庶民を圧迫させている状況になっています。大きくは報道されていませんが、アメリカの庶民生活は大きく変わり、アメリカ社会が崩壊する1歩手前まで来ています。
それは、庶民生活を見ているとよく解り、以前は低所得者たちの味方であるスーパーのウィンコ(WinCo)やウォルマート(Walmart)が、コストコ(Costco)とあまり変わらない価格になっていました。日本風に言えば、成城石井がイオンやライフの商品価格とほぼ同じになったと考えたら、アメリカの物価高の異常さが理解できると思います。以前であれば、コストコで$100の食料を買うと、ウィンコやウォルマートでは質は落ちますが同量で$50~65ぐらいで買うことが出来ました。北米社会の物価高騰は、深刻な問題に直面して物価上昇と失業問題が同時に起きています。家賃が払えずに家を追い出される人たちが多発して、いま北米社会は本格的に壊れ始めています。会社の倒産とリストラが増え、次の職がなくホームレスになるしか選択がないという状況にもなっています。
このベイリンハムという小さな街は、特別な産業が在るわけでもなく人口1万人弱の片田舎の町です。ちなみに、日本で1万人の人口の街は:熊本県 球磨郡 錦町・三重県 南牟婁郡 紀宝町・長野県 上水内郡 飯綱町・岐阜県 加茂郡 八百津町・栃木県 塩谷郡 塩谷町 の規模です。ほとんどの人が、耳にしない町だと思います。それぐらいの小さな町に、ホームレスが何人もいる状況になっています。日本で1万人規模の町に、ホームレスが群れて生活をする光景は目にしないと思います。アメリカでは、それが起こり異様な光景と治安を悪化に繋がっています。この現象は、田舎に仕事が無くて大変だという話しではなく、北米の各地で不況の波が押し寄せていることです。さらに、目標を失った人たちがほとんどドラック漬けかアルコール依存症になって、人がゾンビ化していることです。
3年前は、小さな田舎町で住みよい街でした。ホームレスの姿はなく、Vancouverの近代化された都会とは一瞥した古き良き北米の庶民の生活が、この町にはありました。それが、コロナ後には町全体が暗い空気になり、若い人がホームレスになりゾンビのように徘徊している姿は、80年代の暗黒のアメリカに戻ろうとしています。こんな小さな町にホームレスが出るということは、シアトルやポートランドなどの大都市(300万人規模)になれば、さらにホームレスの数が増えて治安も悪化しているということです。いまYouTubeを見ていると、ロサンゼルスやサンフランシスコは失業者が増えて治安が悪化していることを訴えている人たちが増えています。かつては、時代の先端の街だったシリコンバレーが沈下してテナントが入らず、どんどん廃れてゴーストタウン化しているとも言われています。それに加えて、アメリカの方々で白昼堂々とブランドショップから量販店にいたるまで強盗が増えて、街がカオスになっています。
https://www.youtube.com/watch?v=iY_q0IfIJHY
https://twitter.com/shannonsharpeee/status/1686407639474008064
以前、書いていた北米の沈下が本格的にスタートし始めました。一般庶民にお金が回らなくなり、仕事も無くお金を中心にして社会を回していた循環が音を立てて崩れていっています。
―歴史と文明と英知の断絶―
マネーがもたらした人間社会の崩壊は、小さな田舎町ですら解決が出来ない状況になっています。この右の建物は、1904年に銀行として建てられました。ダウンタウンにあり、開拓当時は人と人を繋げる大事な役割を果たし、多くの人が出入りをしていたシンボル的な建物だったと思います。しかし、いまは誰も借り手がいなく、「借りて募集」というチラシだけが張ってありました。そして、道を挟んで反対側にはホームレスが群れて生活をし、モノと人が分断化された空間になっていました。建物は歴史的オーラを放し、人間だけが劣化しているという対照的な空間は何を問うているのか? この建物は、当時の人の尊厳や最高の技術を投入し100数年経っても古臭さを感じさせず、いまでも圧倒させる厳かさは風化せずに残っています。
「この建物を見ながら人類の英知とはなにか?」考えてしまいました。歴史と共に人類は、知の向上に邁進してきたはずなのに、生身の人間だけが劣化して建物(歴史と英知)だけが色あせずに残っている姿は、「どこに理由があるのか?」 アメリカだけでなく世界は、大きな岐路に立っていることは間違いありません。先人が残した英知を使いこなせていない、いま、人はどこに向かおうとしているのか。これから、さらに分断化された社会は進んでいくでしょう。人類は、人と文明の分断を止める英知を絞り出していかないと、ディストピアに突き進んで行くしかありません。
誰もホームレスを望み、アルコール依存やドラック依存を望んだ人はいないと思います。人の心と文明の掛け違いを解かない限り、人類は前に進むことは出来ないと思っています。この町は、シンプルで雑多なモノがないゆえに、いまのアメリカの現代の闇が露骨に見えました。しかし、この姿はVancouverも進行していて北米のどの街にも同じ問題を抱えています。大都市に行けば行くほど複合的になり深刻な問題になっています。
「人が作ってきた文明とは何なのか?」その大きな問いが、アメリカの田舎町のベイリンハムから聞こえてきた声でした。
そんなことを考えながら歩いていると、1匹のリスが突然現れてしきりに穴を掘り何かを埋めていました。たぶん、自分の宝物を隠していたのでしょう。その姿は、開拓がはじまった100~150年前も変わらずにリスは同じ生活をしていたと思います。自然と共にこの町で暮らし、いまも気後れせずにいきいきと生きる姿は、人間とは対照的に動物本来の生命の本質を見たような気がしました。
―腐ってもアメリカ。されどアメリカ。―
蛇足に1つ。アメリカ社会は、腐っていて壊れていることは事実です。しかし、アメリカの底力は小さなイノベーションでもする力があることです。これは、日本とは正反対でこの国の面白いところであり、イノベーションと新しいモノが好きであるということです。こんな小さな町にですら、電気を補給するシステムを置いているユニークさです。ここには1機しかありませんが、有名なスーパーや量販店の駐車場に充電システムが数台あり、常にお客さんが使えるようにしてあることです。日本の地方再生を考えたときに、「新しい技術イノベーションを常にしているか?」という根本の問題があります。ここが、日本の町設計の弱点になっているような気がします。未来を想定し、地方の底上をしていくグラインドデザインを日本はしているのか? ここが、大きな違いだと思っています。
電気スタンドの写真を載せましたが、電気自動車を推進しているのではありません。あくまでも、技術イノベーションの一例であり、アメリカと同じようにしたから日本の繁栄につながるとは思っていません。ただし、見習うべきは技術革新を小さな町でも進めている姿です。この国の繁栄させていく原動力になっていることは間違いありません。日本の地方は、継ぎ足しの都市設計をして未来予想図がないので、昭和に在った継ぎ足し旅館を連想し悪い意味での古臭さしか残っていません。これから日本の立て直しは、地方が鍵を握っています。小さな技術イノベーションをすることで、若い世代が地方に目を向けて新しい時代を作るきっかけになると見ています。カナダやアメリカの底力は、このイノベーションで、人類を前に勧めている原動力になっていることは間違いありません。