タケのバンクーバー通信

歴史から抹消してしまった国防と国益 41
-1人の女性から見る世界情勢と民主主義-

 日本では、政治資金パーティ―の裏金問題で政治が止まっている中で、世界は凄まじい勢いで動いています。戦後のパワーバランスが瓦解し世界の均衡が崩れ、いつ世界秩序が崩壊してもおかしくない状態が続いています。日本では大きく取り上げられませんでしたが、2023年12月に1人の女性が民主主義陣営対中国独裁国家の構図を明確にしました。これまで沈黙していた香港の民主化活動家アグネス・チョウさん(周庭 27才)が、突然カナダ亡命の発表が世界中に飛び回りました。これは、20代女性の亡命宣言という単純な話しではなく、民主主義陣営が中国に決別をする宣言であり、世界の図式を大きく変えてしまいました。この2年間、彼女は沈黙し、おもだった政治的なメッセージはしてきませんでした。日本のメディアは、香港が中国共産党に飲み込まれたときから彼女の消息はフェイドアウトしていました。

 彼女のこれまでの10年間の活動は:

2014 雨傘運動 → 普通選挙の実現を求めて戦った 香港民主化運動
2019 反香港政府・反中国共産党デモ
2020 8月 香港国家安全維持法 違反の容疑で逮捕 その後、無許可集会を扇動した罪 → 禁固10年
2021 6月 出所 沈黙を貫いた。→ パニック障害 心的外傷後ストレス障害 うつ病 診断された
2023 12月 カナダに亡命を発表
 
 本人自身、「自分は日本のアニメが好きなオタクで、特殊な人間ではない。」と言っていた普通の女の子でした。それが、中国の覇権と世界の動乱に巻き込まれ人生が大きく変わってしまいました。雨傘運動に参加した10代の少女は、純粋に自分の街を守りたいという気持しかなかったと思います。しかし、日を追うごとに言論弾圧と自由がなくなり、いままで普通とされていた日常生活は出来なくなり閉塞社会に変貌してしまいました。
 2020年には、香港で無許可集会を扇動した罪として逮捕され収監までされてしまいました。いままで普通のこととして、自由な言論や発言をしていましたが、共産党支配がはじまったとたんに世界が変わってしまいました。雨傘運動をしていた多くの香港人は、どこに収監されているかもわからず、消息すら不明になっている状態がいまも続いています。
 その中での逮捕は、恐怖と不安の中で「明日はない」という心境だったと思います。突然に特別行政区政府が香港に設置され、抵抗する庶民を一瞬で抹消する政治が、どれだけ恐ろしい社会なのかを目の前でまざまざと見せられました。
 数か月後に彼女は釈放されますが、精気はなく無感情になり雨傘運動の時とは別人になっていました。その後の生活は、常に監視され思想言論の自由を奪われ、絶望しか見えない心境だったと思います。過度のストレスは、精神疾患を発症して心も身もボロボロになっていきました。言論弾圧と個人の信条・思想を奪われた生活は、自己否定でしかなく、生きる屍として人生を送る現実しかなかったと思います。
 毎日数人が監視し、「誰と会ったのか。」「仕事はどこに履歴書をおとしたのか。」すべて見られ、仕事もまともに就くことが出来ず、友人とすら会うことが出来ない牢獄の様な生活がはじまりました。その闇しか見えない中で、彼女がかすかな望みとして外国の留学を申請しました。
 彼女は、この申請は門前払いで却下される前提で、最後の賭けだったと思います。しかし、ここで奇跡が起こりました。それは、香港特別政府は幾つかの条件を呑み込むのであれば、留学を許可する返答が返ってきた、ということです。まさに映画のような、人生の大転換が訪れました。
 故郷を捨てる悲痛な思いと、自分の未来に賭ける交錯の中で苦渋の決断だったと思います。はっきり言えることは、この機会を逃したら一生屍から抜け出すことは出来ないと感じていたと思います。
 周さんのパスポートは、当局に没収され海外渡航が出来ない状態でした。まずは、そこからの交渉からはじまり、人生を懸けた最後の闘いがスタートしました。
 特別政府は、幾つかの条件を出してきました。
  
1)これまでの政治活動の関与してきたことを、後悔し再び関わらない。
2)民主活動家たちと連絡を取らない。
3)中国本土の深圳に行き、改革開放の展覧会を見て中国のいままでの歴史を見学すること。
 そのときに、中国共産党や歴代指導者の業績を学び、称賛することを書面にサインすること。

 彼女は、その条件をすべてのみ、深圳から香港に戻ったときに、自分の感情や信念を封印し「祖国の偉大な発展を理解させてくれた警察に感謝します。」という文章を書かせられました。それを公の場に出し、公開の踏み絵をさせられました。香港特別政府は、彼女は今後中国にたてつかないと判断し、周さんにパスポートを渡し往復の航空券のチケットを許可しました。そして、9月カナダ・トロントに渡り再び自由の空気を吸うことになりました。
 香港警察は、報告義務を条件に「12月末には香港に戻る」ことで許可をしましたが、話しは一転します。彼女は12月の初頭に、カナダの亡命を発表し世界に激震を与えました。当然彼女の後ろには、CIAやMI6などの情報機関が身辺擁護をしています。ただ1人で、大国中国と戦うことは出来ません。

 彼女は、カナダに亡命の声明を発表した後に、こんな心境を語っていました。
「香港の状況や自らの安全・健康などを考慮して戻らない。おそらく、一生もどることはない。」
「この数年、恐怖から逃れる自由がどれだけ貴重なのかを切実に実感している。」
「(カナダで生活出来れば)言いたいことも言えるし、したいことも出来る。」
「自由は、得難いものだ」 
 日本で生活をしていたら、当たり前のことでありこの言葉の重さに、ピンとこない人が大方だと思います。しかし、この状況は決して日本人は関係ないという話しではありません。いま、中国で留学や仕事で行っている邦人は、いつ拘束されて収監されるかわかりません。独裁政治の怖さは、昨日までの普通のことが突然に違法行為になり、逮捕されることが簡単に出来てしまいます。
 20代という貴重な青春期は、夢や希望を抱いて天真爛漫に過ごせる時間です。それが、一瞬にして生と死の境界に変わってしまう残酷な状況が、世界のあちこちで起きています。周庭さんが特殊な例ではなく、これは誰もが大きな力に巻き込まれて、予測不能な社会がはじまってしまいました。
 彼女は、いまはカナダに滞在して民主主義圏にいますが、これは序曲であり生命の安全が保障されたことではありません。彼女にとっては、巨大な大国と対峙しながら終わりのない戦いがスタートしました。いまは一時期的に、カナダに亡命宣言をして自由主義圏にいますが、生と死の狭間にいることは違いありません。

 

―敗戦後のイデオロギーは虚構の民主主義―

 中国の覇権に対して、日本の政治やメディアはどれほど深刻な問題として取り上げ日本人に問うてきただろうか。アベガーと言い続けていたリベラル活動家や大手メディアは、安倍政治には敵意をむき出しにしてきたが、中国の独裁に対して何も口にしない彼らの姿勢は、どこから来るものなのか? その代表が現職の沖縄県知事です。彼は、中国の優位になる県政をして、中国の暴挙や侵攻(海域の侵略)に対し日本人の立場から国家観をまともに発していません。国政もメディアも彼の県政に対して、賛否の意見すら言わない不思議な社会(空間)を作っています。リベラルと称する人たちは、安倍政権下では森友や加計学園で騒いでいましたが、中国や朝鮮半島が後ろにいると報道すらしないという体質は、どこから来るものなのでしょうか?
 いま日本は、ひとりの芸人の過去の素行不良と国会議員のお金の問題に国民の関心ごとが一極に集中して、すべてポピュリズム一色になっています。世界という軸で見たときに、どれだけくだらないことで政治が止まっているのか。いまの日本は、激変する国際情勢に追いついていない民族生存競争の後進国になっています。
 安倍晋三元首相の暗殺以後の日本は、どこか意図的に仕組まれた民族の弱体の方に向かっているような気がしてなりません。政治は、裏金問題で機能せず。大衆は、1タレントのスキャンダルに熱狂し世界的有事に目を向けようとしません。この異常さは、情報操作で操られているとしか思えないほど、日本人が愚民化しています。別の見方をすれば、この民族はいくらでも安いスキャンダルで操られる体質に国民がなっている証でもあります。他国から見ると、この国の侵略はすごく簡単で、ポピュリズムになりやすいスキャンダルを流せば、簡単に有事が判断できない体質になっているのが世界に知れてしまいました。いまの日本は、何が政ごとの優先順位なのか分別が付かず、世界が壮絶な生存競争になっていることを理解していません。
 先日、元Foxのアンカーだったタッカーカールソンとプーチン大統領のロング・インタビューが突然行われました。いままでは、ウクライナ侵攻はロシアの覇権の拡大とプーチン大統領の独裁体制とし、世界はロシアを批判していました。しかし、あの対談で一瞬にしてロシア側の正義とウクライナの闇が表面化してしまいました。数日前までは、世界の空気はロシアが悪でウクライナは犠牲者とう図式でした。しかし、たった1日のインタビューで世界のパワーバランスが一変してしまいました。プーチン大統領の歴史観・国家観・民族観は、西側諸国のトップでは敵わないほど明確なイデオロギーを持っていました。そして、アメリカの覇権による悪事と民主主義の闇を暴露しました。いかにアメリカのディープステイトとウクライナの主導者が、この惨劇と茶番を作ったのか。ロシアの国家観をフィルターにかけることで、アメリカが歴史的悪事を続けてきたことが明確に見えてしまいました。(ただし、普通に暮らしていたウクライナ庶民の殺戮と悲劇は事実であり、ロシア軍がやったことは正当化できません。)
 これまでは、正義とされていたゼネンスキー大統領が、巧みなパフォーマンスと世界の情報機関を使って、うその正義を作り出し虚構の民主主義を作ってきたかを、プーチン大統領は淡々と語っていました。そんな中、日本はG7でウクライナ追加支援を表明したばかりでした。
 世界の裏では、巧妙な工作と民族の熾烈なバトルが繰り広げられています。その中で、一体日本のメディアと政治家は何を正義の軸に置いて動いているのか? 世界は、1日で正義が真逆になってしまう現実と虚構の交錯の世界情勢になってしまいました。その中で、何を軸にして日本は正義を決めていくのか?
 いまの日本の政治家は、財務省と検察の目を気にして、国際情勢に目を向けることすらできていません。その中で日本の政ごとは、どこに向かって進めていくのか? そして、第三の権力と言われた日本のメディアは、ポピュリズムに流され思考が小粒になり、タッカーカールソンのような大胆なジャーナリズムをする人がいないという現実。そんなことで、第三の権力になり国際情勢の荒波を判断することはできるのか。いまの日本民族の生命力を落としているのは、民族観と国家観と歴史観を時間軸で見る人がいないという、人知の空洞化になっているからです。政治家・学者・メディアが、民族観と国家観のグラデーションを持っていないから、他国の国益に振り回され日本の正義を見失って政ごとが出来ていません。日本は、勤労精神と匠の世界(高い産業技術)を持っています。これを貴重とし、民族観と国家観のグラデーションを持てば、世界の動乱に振り回されない富国強靭の国を作ることが出来ます。2024年は、近代文明が瓦解する大きな節目になっていることは理解しないといけません。