歴史から抹消してしまった国防と国益 23
-防御と国防の概念がない国家と民-

 2月から続いているウクライナ侵攻は、日本の平和思想を大きく変えました。そして、平和は願っていても相手国の意志によっていくらでも壊すことが出来ることが証明されてしまいました。いま世界は、戦国時代に入ったと見ることが正しくて、世界の均衡バランスがいたるところで壊れています。ヨーロッパ圏では、EUとロシアの攻防がどのように展開していくか? ヨーロッパ経済と軍事バランスはガタガタに崩れています。その裏では、アメリカやヨーロッパのエネルギー利権争いの争奪戦がはじまっています。極東アジアでは、中国・朝鮮半島が軍事の均衡を壊して世界の秩序を独裁主義に変えようとしています。日本はその渦中に巻き込まれ、何が起きているのかを理解できずに、ただ脅威に怯えて国家の指針を出さない不思議な国になっています。隣国のミサイルが日本に向かって飛んできても、「遺憾」という言葉だけを発して世界の平和秩序に対して何もしない国家になっています。
 中国では習主席が3期目を実現させました。アメリカは中間選挙の結果がでたことで、世界のパワーゲームの役者がすべて揃い2023年からの世界の情勢と経済が、どこに向かっていくのかが決まった瞬間でもありました。
 いま最新の北米社会の流れから言うと、民主党は惨敗し共和党の勝利といって言いでしょう。たった2年間で、アメリカ政治は政権が大きく変わってしまいました。いまアメリカ社会は、大きな課題を抱えながらバイデン大統領は国を動かしています。この2年間、政治も経済も大きな指針がないまま「国の運営」をしてきました。今回の選挙結果は、庶民は非常に不安定な社会であることに不満を持ち、闇から抜ける光すらない状態だということを選挙の結果に残しました。
 どこにアメリカ社会は向かっているのか? その不満の最大理由は、経済政策をまともにやらず、ガソリン価格の高騰と物価上昇が生活を圧迫して普通の生活が出来ないからです。この夏まで北米経済は、2年半のコロナ規制によって虐げられていた感情が、規制緩和によって観光需要と外食需要がすごく伸び経済は一瞬よくなりました。日本では、北米は好景気になっていると報道をして経済の回復したような印象を与えていますが、実体は労働者不足が原因で労働コストが上がりインフレになるという不思議な経済構造になっています。この異常なまでのインフレは、好景気によってインフレになっているのでなく働き手がいない人件費の高騰と、過去にないガソリン価格の高騰が経営者を圧迫させて、すべての商品が最終消費者の生活を圧迫する経済状態になってしまいました。
 そのような事態になっているにも関わらず、バイデン政権は何1つ経済政策をせずに「FRBの利上げ」をして物価抑制をしただけでした。さらにアメリカ社会の最悪な事態は、大手メディアは真実を報道せず何が起きているのかを正確に伝えず、正確な実体社会を庶民が捉えられないことです。景気が回復しているように見えていましたが、実体は観光特需によって一瞬だけの景気が拡大しただけにすぎません。コロナ後の北米経済の正体は、10月から本格化して景気後退にすすんでいっています。

 北米社会の近々の課題は、あまりの物価の高さに所得格差が開き普通に家(アパートなどの賃貸も含む)に住めない人たちが増えていることです。各主要都市ではホームレスが増えて、公園などでテント生活をしている人たちが急激していて、コロナ前の社会に戻すことが出来なくなっています。若い世代はワゴン車を購入して、家賃のかからない車中生活者している人も出てきました。
 日本はそれほど深刻になっていませんが、北米では大学を出ても職がなく専攻をした技術を活かせずにカフェなどでバイトをして、その日暮らしをしている20代が増えています。さらに、定職を持っていた中間層もコロナ前とは、まったく違う状況になっています。結婚をして子供を持ち普通に暮らしていた人たちが、物価高によって支出の方が多く家計費が回らなくなっている人たちが増えています。
 今回、FRBの利上げは何を意味するのか? 「あまりの物価高騰を抑えるために金融引き締めをする」政策ですが、非常に危険を伴う政策に踏み切ったと見ています。経済理論からすれば、ダブついた市場のお金を引き締める政策であることは間違いではありません。しかし、この政策はアメリカ社会にとって劇薬で、とんでもない北米経済の幕開けになると見ています。なぜなら、利上げによって家を失う人たちが大量に出ることは避けられないからです。
中間層や若年層が家庭を持ち、家を購入することは普通のこととしてコロナ前は誰もがしていました。しかし、個人の貯蓄率が低く、今回の利上げによって支払いが出来ない人たちが大量に出てきてしまいました。2008年にサブプライムローンで住宅ローンが払えない人たちが出たことがありましたが、あれは低所得者に向けた住宅ローンで投資家のマネーゲームでありました。しかし、今回の場合はアメリカの中間層の支払いができなくなり、サブプライムの時とは比較にならないぐらいの問題になるはずです。一般的な中流家庭が、来年から貧困者に転落する事態がはじまるからです。転落した中間層は、家を手放しローン返済は残り賃貸にするといっても賃貸料金の高騰によって、地方に住むしか劣悪環境に住むしかありません。そうすると、70~80年代にあったスラム街が至る所にでき、格差は貧困が貧困を呼ぶ負のスパイラルになり、治安の悪化やドラックが蔓延する社会になっていくと見ています。
 2023年からの北米社会の経済は、すごい勢いで景気後退に進みしばらく景気回復は見込めないでしょう。アメリカの労使関係は、終身雇用と年功序列賃金でないので、景気が悪くなればすぐに労働者をレイオフして中間層が一瞬で壊れて大量の失業者を出します。

 この中間選挙は、いままでにないほど世界は注目をしてアメリカの動向を見ています。その理由として、アメリカ経済が失策をすれば5~8年は大不況が続き、上手くいっても1~2年の不況は起こると関係者は見ているからです。世界同時不況が、短期で終わるのか長期化するのかアメリカの政策によってすべてが決まります。さらに最悪のシナリオは、大恐慌も視野にいれて世界経済を見ています。
 今回の中間選挙は、共和党が勝ち大統領と議会のねじれが起こることが決定したと言っていいでしょう。そうなれば、アメリカ政治は機能不全になり2年間まともに国家運営ができなくなるでしょう。さらに経済政策も遅れて、景気対策もできないまま北米社会が進んでいくと見ています。
 日本にとって深刻なのは、経済側面と安全保障の側面がダブルで関係してくるからです。日米安保がどこまで機能するか? 国防と安全保障は、日本にとっては近々の課題です。多くの日本人は、中国が台湾・尖閣有事が起これば、アメリカが軍事作戦をして守ってくれると思っていますが、いまの大統領では中国との対峙は厳しくウクライナ情勢も想定しなくてはいけないと見ています。前政権のトランプ大統領は、北朝鮮や中国に対峙し威嚇した外交を展開してきました。しかし、バイデン大統領になってから対中政策や対半島政策は非常に曖昧なものになってしまいました。
 日本は、憲法9条問題をどうするのかの議論すら国会で出来ていません。8月に中国までが、弾道ミサイルを撃ち込み、北朝鮮に至っては9月の下旬から凄まじい数を連打しています。大都市に1発でも落下すれば、日本はパニックになり政治機能を失い防衛出動ができるかも曖昧な状態になっています。
 国会中継を見ていても、危機として捉えている議員がどれだけいるのか? コロナの発症時もそうでしたが、世界が危機として国策で動いているにも関わらず、「事なかれ主義」で「社会や経済を止めるな!」という個人利益を優先する空気の方が強い社会が日本です。
 感染が拡大して世界が恐怖に陥ったとたんに、社会の空気が変わり政治に委ねるようになりました。結果的に他国よりも対応が遅く、規制緩和も遅くいまだにマスク着用やPCR検査をして、コロナ不安から拭えない社会構造になっています。(外国人観光客の緩和も日本が一番遅い政策をしています。これによって、経済復興と通常社会の復帰は他国とは遅れを取ったと思います。)どこか日本人は、「政ごと」の本質を個人の権利と国家の権利の区分けが出来ない民族になってしまいました。
 話しは戻しますが、軍事は侵攻がはじまってからの対応では遅く、大量の血と領土奪還に相当の尽力を使わなくてはいけなくなります。国会で首相が、「先制攻撃」をすると言っただけでも、相手国に対しての抑止になります。たった1つの言論空間で、相手国に牽制をする度胸がいまの首相にあるのか? いま岸田首相は、国のトップとしての資質が問われていて「国を護る」覚悟があるか、が問われています。そして、いまの国会議員は、自分の地元にいつでもミサイルが撃ち込まれることを有権者に伝えて議論を起こすことの覚悟があるとは思えません。
 この憲法や政治体制では、自衛隊が軍事オプションになった時に何が出来て誰が責任を持つのかが明確になっておらず、隊員に「命を懸けて」国防をしてくれと国会議員は言えるのでしょうか。憲法は国際法とはかけ離れて、法設備も整っていない状況です。軍事衝突になれば、隊員たちの生命や権限の保障も出来ない法体系になっています。さらに、敵陣に危害を与えた後の隊員たちの身分や生活の保障すらされていません。いまの政府は、いったい何を考えているのか? 岸田首相は、「国家が権力を持つ意味とは何か?」それを明確に示すことが、最大の国防になるはずです。
 いまの日本人が考えなくてはいけない問題は、庶民レベルの政治をするのではなく国家という単位で政治をすることの意味を理解することだと思います。敗戦後、日本人は、GHQによって国家という単位で思考しない民族になってしまいましたが、これを取り戻す時期に来たということです。