Vol.586

仮想通貨

ビットコインのような複数の仮想通貨の取引所を運営している会社で、数百億円の価値があるとされるNEMという暗号通貨が何者かによって、奪われるという事件が話題になっています。
ドルという通貨が、金本位制を捨てても、世界経済が回っているのは、アメリカという世界最大の経済を持つ国の通貨であり、ドルなしでオイルが買えないという現実に、世界の誰も異議をとなえなかった結果に過ぎないことは、誰でも知っていることでした。いまある世界の金融秩序は、ロスチャイルドが中央銀行制度を発明し、民間銀行が、国家にマネーを供給するという金融資本主義とでもいうものです。リーマン・ショックの時点で、世界の金融システムは連鎖的に崩壊し、空虚なペーパーマネーの時代が終わるかに見えましたが、巨大すぎて潰せないという理由で、国家が金融機関を救ったのは、記憶に新しいところです。
インターネットが普及し、瞬間的に国際間での決済が可能になる時代に、現行の銀行間決済のシステムは、早晩、行き詰まることがはっきりしていますが、いま、世界的に問われはじめているのは、中央銀行制度を含む、現行の通貨のあり方そのものなのです。
仮想通貨は、いうまでもなく、国家や中央銀行という根拠を一切、持たないバーチャル空間におけるマネーの概念に過ぎません。
ところが、実際に運用をはじめてみると、普通の通貨と同様に、機能してしまうことがわかりました。
そこで、はっきりしたのは、通貨というものは、もしかすると、国家や中央銀行の存在なしにも通用するということです。そして、いまのところ、最大の利益を得ているのは、一番最初に、この仮想通貨を生み出した人間グループだといわれています。ということは、しばらくの間、この仮想通貨は、無数にあらわれては消えていく、ある種のバブルの時期を迎えることになるはずです。
精神学の立場からいうと、人間の意識が価値あると信じることでしか、マネーに根拠を与えることはできませんから、多くの人間が、仮想通貨に価値があると信じる限り、そのムーブメントは止まりません。
その先にあるのは、国家と中央銀行というこれまでの制度そのものの価値の崩壊です。ここで、いまの基軸通貨となっているアメリカドルの価値が、今後も維持できるかということを問題にすると、誰も、その価値が揺るがないとはいわないはずです。前大統領のオバマが、世界の安全保障の役割を縮小させる方向に舵を切り、現大統領のトランプは、アメリカファーストのために、いま一度、軍事強国の道を進もうとしていますが、すでに、アメリカという国家は、世界からの余剰資金の流入なしには存続できないというのが現実の姿です。このアメリカの衰退を狙って、世界に出ている共産党の中華人民共和国も、本質的には、外国からの投資なしに経済運営ができないという欠点を持っています。つまり、アメリカドルも中国元も、先行きは暗いといえます。
いまの世界で、日本という国家のみが、マネーという面だけでいうなら、突出した安定感を持っています。
ここで、日本語脳がきちんと働いている、エコノミストがいれば、日本および、日本文化に由来する仮想通貨のあり方の検討がはじまるはずです。
明治百五十年というものが、日本列島が出会った西欧の資本主義文明を克服するタイミングになるというのが、私が知らされている精神界の仕組みなのですが、ほんとうにそれがプログラムされているとしたら、このタイミングで、金融資本主義の次のモデルの提示が、この日本で生まれることになります。
日本の面白いところは、かつて、世界最大の産金国でありながら、金銀の交換比率の国内基準の不備をつかれて、国内にあったほとんどの金が流出したことに関して、西欧諸国に不満をのべたという歴史がないという点に示されているように、失った富に対する執着心がきわめて薄いのです。それが、近未来への日本のために、大きなアドバンテージを与える日本文化なのかも知れません。いまある富を失っても、日本は、次の富を創造する立場にいると考えれば、次の基軸通貨を円にすると考える人間が出てくるはずだからです。

二千十八年二月一日 積哲夫 記