type②お水

義母が、ご飯を食べてくれなくなって、とうとう自宅に医者に来て貰って、点滴を頼んだ。
「中身は、ポカリスエットみたいなものですよ」
「それよりも、エンシュアの方が栄養がありますよ」
「わかっているけど、食べてくれないんです。ゼラチン入れて、ゼリーにしても豆腐は嫌だって言うし」
「薬は飲んでくれないし、このままじゃあ、栄養失調で弱るばっかりで…」
最近は、家で死んだら、疑われると聞いた。
「病院とかへ入れたら、よけい悪くなるって知ってるじゃないですか、それにうちは介護する人がいないから。市民病院へ行きなさい」
旦那に、介護タクシーは、保険が効くのかと聞けと言われて、相談した。
ところが、市民病院は、もうじき立て直した新しい病院へ引っ越すので、入院患者は入れない方針だそうだ。
おまけに、ケアマネージャーの話では、朝の9時半に、ある老人と受け付けに行って、看て貰えたのが、夕方だったと聞いた。
「そんな、夜中にガンガン音を立てる患者は、周りに迷惑だから入れない」
そう、レイターの音が怖いから、音で紛らわすのだ。
食事時間も朝の10時、昼の2時~3時、8時~夜中の12時ぐらいだから、食事時間内に食べるとは思えない。
「家が一番いいんですよ。食べれる時間に食べさせてくれて」
それに、「食べないのは、自業自得です」と言われた。
訪問医療の支払いを済ませる為に病院へ行って、イザと言う時には、入院ができるかと聞いたのだが、見事に却下された。

介護施設では、マイペース過ぎて、ほとんどお手上げだったようで、その事情を聞いている医者の口から、「施設側が、追い出した」ということを聞いた。
食事時間に食べてくれないから、一食しか、食べてくれないといい、本人からは、食事を2度も出してくれなかったと言った。もちろん、その点では施設側を信じる。

どっちが本当のことかと言えば、寝て起きるたびに、「朝ごはん出してくれた?」と聞き、「食べたじゃない」と言うと、強く否定する。
「ほら、外をみてごらん、明るいでしょ、今は昼だよ」
そう言うと、「嘘だ」と言う。
地球の営みさえ、否定するのか?と言いたいところだが、逆のパターンもある。ほら、夜中の3時だよ、外真っ暗でしょ」
本人は、昼間だと思ってる。
「この時計間違ってない?」
「間違ってない」

とうとう旦那も困って、「レイター(霊が多い)を、一回で切ってくれたら、10万円出す」と言い出し、その金額でも決して高くないぞと思いはじめたようだ。
それで、私は、積事務所に電話して、聞いてみた.。もちろんぶしつけには聞けないから、一回で、消えることはあるのか?と。
「前も、言った通り、老人性の被害妄想で、治ることはない」
「でも、いい水があるから、送ってあげるよ」
と言われた。
「レイターが、伊東警察に電話して切って貰えるそうだ。頼んで~」と懇願するのだが、そんなことしたら、私らがバカにされてしまう。
あんまり言うから、旦那が芝居して、「切ってくれるんだって、今切ったって」と言うと、安心する。しかし、また「かかって来た」と言うから、きりがない。
「息子は、なぜ、警察に電話して頼んでくれない!」と怒り出すのだが、「言ったよ」と言っても、切れないからすぐバレてしまう。

②と印してあるお水が届いて、一杯分だけお湯を沸かし、お茶を入れると、一口しか飲まない。
「ほら、伊東警察から、今忙しいから、レイター退治のお水をくれたよ」
「嫌だ」と言って寝てしまう。

痴呆になる前も、変わり者だったけど、人に迷惑をかけることに関しては、とても自重してたのに、困ったもんだ。私のコメカミが切れないのは、この人の独自の思い込みと頑固さを知ってるから、期待していないからだ。よく、一緒に暮らせると、自分を誇りに思う。
義母があれだけ「家に帰りたい」と懇願していて、いざ「家に帰れるんだよ」と私らが迎えに行った時、車椅子のまま連れ出そうとすると、手で柱や手すりに掴まって、願いと裏腹に、さんざん抵抗した強者だからだ。
私は、車椅子を押し、旦那に「その手をはがして」と言い、強攻突破したのだ。

1 thoughts on “type②お水

  1. pekapeka 投稿作成者

    考えてみると、過去の自分のありようによく似てる。
    そう思えると、心なしか静かになったような気がした。
    私がまた落ち込むと、騒ぐ気がするので、様子見とする。

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