歴史から抹消してしまった国防と国益 72
―日本の復活と戦後体制の脱却 (上)-
「武骨の精神」と「日本のエスタブリッシュメント」
北米から日本の国を見ていて感じることは、政治家や有識者(メディアや学者)が、アメリカ国家を80~90年代の大国の姿でみていて、いまのアメリカの姿を見ていないことです。
いまアメリカは、かつてのような世界を覇権する力はなく、どんどん弱体に向かって、かつての威厳もなくなってきています。アメリカ人自身も自国が、どこにむかっているのか理解していません。かつてあった誇りや勢いはなく、国家として分裂と分断に向かって進んでいます。そして、日本では報道されない水面下の内戦状態が起きています。その内戦は、戦後から続いていた既得権とトランプ政権の熾烈な戦いが繰り広げられています。
いまの日本の政治家は、「世界を覇権する大国」と「経済大国」として見ていますが、実体はボロボロの体を鞭を打って虚勢しているのがアメリカの姿です。このトランプ政権は、アメリカを大国としていられる最後の大統領のような気がしています。
このアメリカの覇権の終焉は、日本にとっては喜ばしいことで、戦後続いてきたアメリカの属国から抜け出す最大の機会になっています。それにも関わらず、日本の政治家はアメリカと向き合わずに逃げて、まともに外交をしていません。少なくとも、バイデン政権以前のアメリカとは全く別の国家になって、他国に干渉する力がどんどんとなくなってきています。トランプ大統領によって、戦後、続いてきた「世界を覇権してきた政治」と「既得権」が壊されて、普通の国になろうとしています。USAIDの解体は、想像以上にアメリカの国の方向を変えています。
この最大のチャンスに、「何もせず」「何も言わず」の引きこもり状態を続けて、トランプ大統領と向き合うことの出来ない情けない日本のトップが、石破首相です。
いまトランプのアメリカは、戦後体制を壊して新しいグランド・ストラテジーを作ろうとしています。ヨーロッパと中国とは距離を置いた国づくりを、どんどんと進めていきます。高いタリフ(高関税)をかけているのは、世界の警察から孤立主義(モンロー主義)に向かい、世界とは距離を置いてアメリカの繁栄だけを中心にする国家に変わろうとしているからです。
そして、ロシアのプーチン大統領に近づいて、ヨーロッパ諸国(西側諸国)とは距離を置いて、世界のパワーバランスを大きく変えようとしています。
そのときに、日本は独自のグランド・ストラテジーを持てば、アメリカと対等に交渉できる絶好の場になっています。世界は、日本という国を注目しています。アメリカにしろ、ロシアにしろ、中国にしろ、インドにしろ、欧州にしろ、日本がどこに付いてグランド・ストラテジーをしているかを静観しています。なぜなら、日本の「国家のブランド」と「民族差別をしない民族観」と「モノ作り文化」を誰もが手に入れたいからです。
これだけ、政治が壊れていながら「もの作り文化」が廃れずに、常に邁進している国はアメリカと日本以外はないでしょう。量子コンピューターにせよ、レールガンにしても少ない予算で、開発する技術は日本人にしか出来ません。そして、その産業を支えている日本の底力は下町の零細工場の技術者から、大学の研究機関、大企業の社員を含めた普通の庶民の誠実な勤労精神です。アメリカにせよ中国にせよ、日本の技術と日本製の部品が無くては製品(車・飛行機・ロケット)を作ることは出来ません。
先日も書きましたが、高関税になって価格が上がっても北米で日本車を買わない人は出ないでしょう。いま、北米は内燃エンジン車に戻りつつあります。なぜなら、電気自動車の欠陥が表面化してきているからです。その1つは、高い割りには下取りが出来ないこと。2つめは、電気自動車の補助金のカットで、買う人が減っています。2年前から北米では、Teslaは在庫が余っていて売れていません。ヨーロッパの電気自動車も、販売は減っています。その逆に、トヨタは在庫がなくて半年~2年待ちの状態がいまも続いています。
日本人は、すぐに日本の感覚で世界を見ようとしますが、アメリカ社会は日本車がなくては成立しないぐらいに、市民権を持っています。一度日本車を乗ったら、アメ車には戻れなくなってしまいます。いいモノを持ったら、レベルを落とすことは出来ません。それは、人間の真理です。いま、北米で起きている現象は、日本車が買えない人たちが、韓国車を買っているのが1つの現象です。北米では、安くてもアメリカ車を買う人はどんどんと減っています。
さらにアメリカの現実は、日本車を現地生産しているので、売り上げが落ちたら、自分たち国民の首を絞めることにもなります。トランプ政権の高関税は、外交の1つの手段としては効果を示しましたが、庶民レベルではいくつも弊害が出てきています。いま、アメリカ国内でも問題が出てきています。
なぜ、世界は日本を注視しているのか?
その答えは、日本のモノ作りと労働精神は、仕事のコンテンツを自国に入れることで経済が上がり、現地の雇用にも繋がり、国を繁栄することが出来るからです。日本では、あまりその価値を理解していませんが、世界はその仕組みを日本人に作って欲しいのが本音であります。
中国やロシアは、アメリカで成功体験を知っているから、かつては自国に工場を誘致して現地生産をしました。日本の凄いところは、「モノ作り文化」を輸入すれば富国することが出来ることです。この「モノ作り文化」を、世界の神秘として世界は見ています。ただ、これを日本の政治家や経団連は意味を理解せずに、昭和の貿易論(モノとお金のやり取り)としてみて、日本のモノ作りが精神界(勤労精神が、人が豊かに暮らすメソッド)に繋がっていることを理解していません。
日本の政財界の不思議なところは、世界がこれだけ動いているにも関わらず、その状況を捉えていません。相変わらずに、昭和の頭(戦後の価値観)で世の中を見て、60代以上の人達が日本社会の実権を握っていることがこの国の不幸になっています。
日本が、「個人所得の低迷」や「国としての活気が薄れている」のは、業界のトップが高齢者になりすぎて未来に繋げることをせずに、過去にしがみ(個人の名誉や地位や団体のしがらみ)ついているからです。さらに最悪なことは、次世代の人たち(20~50代)が過去に引きずられた精神から抜け出せずに、昭和のレールに乗ることが正しと信じていることです。これでは、次の世界を創造ことはできません。
日本の政治家の劣化は、状況認識すらできず既定路線(過去の状態を維持すること)を守り、耳ざわりの良い虚言癖で政治をしているからです。住民や国民の命を護る覚悟すらなく、収入と知名度を目的にして政治家になっているからです。これでは、激動の社会の中で民族生存競争の中で生きていくことはできません。
日本は、世界を変えるポテンシャルを持っています。それにも関わらず、与党も野党も骨太の政治家がいなくなり、世界と戦う気概を持った人はいなくなりました。そして、経済界は技術の発展が文明を豊かにしていることを語る人がいなくなりました。(「モノ作り」は、文明を作り社会を変えていく力を持っている。その夢を語る人がいなくなりました。)
経済が、技術開発の精神を維持する。「モノ作り精神を経済の柱にする」
政治が、日本人の精神(魂)を護る。外国と命を懸けた交渉をする政治
この柱を両輪で回せば、日本は簡単に復活できます。日本は脈々と「モノ作り精神」は生き続いています。いま最大の問題は、政財界のトップが自分の人生を懸けて国家観や民族観を語り、日本民族の信念を曲げない強靭な政治家や経済界のリーダーがいないからです。かつては、本田宗一郎氏や井深大氏のような偉大な技術であり武骨な精神を持った人がいました。
いまも技術面では、世界トップクラスの人は日本には多くいます。ただし、夢を語る技術者は出てきません。政治家にも激動の中で、日本の国を護った人たちがいます。それは、幕末の志士です。下級武士が、西洋列強と立ち向かい、日本民族を世界と対等させた志士(政治家)がいました。
その反骨精神に立ち戻ることで、日本は復活をします。いま日本の最大の病は、過去と現在と未来をつなぐ人が、国の中心にいないことです。本来は、日本の有識者(メディアや学術界や知識人)が権力批判するのですが、静観して自分たちの権威と地位の保持だけに生きて、日本人に事実を伝えていません。これでは、時代を切り開いて子々孫々に繋げる「国づくり」には、なっていきません。言論でメシを食べている人たち(政治やアカデミック)が、深い哲学を取り戻して「過去・現在・未来」をつなげる人知を持った人が出てくれば、浅い知識を並べて言論で食べている人たちは自然淘汰していきます。
いまは、あまりにも単調で軽薄な情報に振り回す人が、メディアやアカデミックの中心にいて、日本人を愚民にする社会になっています。深い造詣と日本文化を一致させる知識階級が、日本文化(勤労精神・「民のかまど」の精神)を柱にした世界観を伝えるだけで日本人は覚醒します。いまの日本社会は、愚民か売国奴になる社会システムの上に乗っています。そのことに気づき、日本文化を取り戻すことで日本は光に進んでいきます。