タケのバンクーバー通信

歴史から抹消してしまった国防と国益 54
-周回遅れの日本人留学生・ワーホリ-

 これまでは、メディアをはじめ政治家や有識者が世界情勢と周回遅れであることを書いてきましたが、今日は一般人に至るまで周回遅れになっている話しをします。そして、それはどのように影響をしているのかを、海外からの視点で書いていきます。世界は、コロナ以降すごい勢いで社会が一変してしまいました。多くの日本人は、その事実を知らずに海外留学やワーホリを考えて、コロナ前の感覚で海外での生活を望んでいます。若い人が好奇心や異国での挑戦をする衝動は、否定するつもりはありません。多くのワーホリや留学生は、いまの国際情勢をまったく理解せず、政治や経済に無知なまま、海外に出ていく彼らの姿勢に危惧しています。これまでのワーホリや留学生は、淡い海外生活が出来て人生のアクセントとして考えていた人が多かったと思います。語学学校と現地の仕事さえすれば、日本とは違う非日常と海外で充実した時間が過ごせると思っている人が多いと思います。それは過去の話しで、今はそんな状況ではなくなっています。その実態を知らないで、日本から夢だけを抱いてきた人は、悲惨な状況で帰国しています。これから話すことは、現地からでないと見えない事実なので、10~30代は参考にしながら海外で何が起きているかを見ることを勧めます。
 今年になってから、カナダでは親規留学生学生ビザの発行数を、2023年比で35%減にすると発表をしました。新しい法律を施行したことで、留学生を約36万人に制限しました。以前までは、学校を決めて手続きをすれば誰もが学生ビザを取れて、簡単にカナダでカナダ・ライフをすることができました。しかし、この法律が通ったことで人員限定をして、外国人流入の規制を明確にしました。
 いままで留学生の受け入れに寛大だったのは、留学生やワーホリの学費がカナダ経済の大きな外貨の収入源であり、若い人たちが労働者にもなったからです。カナダは、国家ぐるみで教育産業を貿易収支の一環として捉えていて、世界中から多くの留学生を受け入れてきました。ある意味、第2~3次基幹産業と言っても過言ではありません。
 では、「なぜこの産業の収入をカットしてまで規制をするのか?」
 多くの日本人や留学エイジェントは、この一連で何がおこっているかを理解していません。さらにエイジェント業務をしている人たちは、日本にいる人たちに過去の情報だけを提供して、海外生活のバラ色の事しか言っていません。国際情勢や政治経済から、海外情勢を伝えない彼らの仕事は、日本の大手メディアの「報道しない自由」と同じことをしています。真実を隠して、海外留学やワーホリを推奨していることは、日本人にお金と時間を奪う日本人を貶めることをしているのと同じだと思っています。
 多くの10~30代は、エイジェントの話しだけを信じて、自ら国際政治や経済を知ろうとしない姿勢にも問題があり、自分の足で真実を見ることをしないことも原因だと思っています。この負のスパイラルが、エイジェントと留学・ワーホリの関係で成り立ち、悲惨な状況で帰っている人を増やしています。

 「いま、カナダで何が起こっているのか?」

 留学システムだけを見ていても、全容を掴むことができません。やはり政治・経済から複合的に見ないと、北米の社会はどこに向かおうとしているのか見ることは出来ません。いま北米は、外国人の締め出しに本格的に乗り出しています。アメリカにしても、移民・難民問題が大きな問題になり国が傾きはじめています。次の大統領は、外国人流入問題が大きな争点になり、外国人の規制を徹底的にしていきます。ヨーロッパでも、移民や難民の流入によって治安が乱れ、外国人の規制に動き始めました。オランダでは、最近になって国策として移民・難民の締め出しに舵を切りました。また、イギリスではすでに5月から難民・移民をルワンダに強制移送することを実施しました。いま、西側の諸国では民族の移動を規制するブロック化を進めています。その大きな流れが、カナダにも押し寄せてきました。 
 いままでカナダは、移民・難民を多く入れて外国人に対して寛容でした。しかし、近年のトルドー政権は外国人に不動産購入を禁止したり、不透明な外貨の流入を禁止したりと外国人に対して厳しい処置をとるようになってきました。さらに、2024年は留学ビザと就労ビザにハイレベルな規制をかけて、ビザを簡単に取得できないようにしました。この大きな流れは、景気低迷と外国人流入が多すぎたことで、カナダ社会が壊れいままでの体制では続けられないことを意味しています。この世界同時に起きている国際情勢は、日本人留学生やワーホリに直撃して、悲惨なカナダ生活をおくる事態になっています。
 
 日本の大手メディアは、ニュースで海外就労は日本よりも高収入になると特集を組んでいました。しかし、それは1年前のことで、現在は仕事を見つけられない人がほとんどです。去年の暮のことですが、ワーホリでVancouverに来た20代男性は、2ヶ月間探したけれどもどこ相手にされず、30社以上のレジュメを配っても1つも連絡がなかったようです。偶然に私の店に来て包丁を購入して、「どうしたらいいのか?」その悩みの相談から、彼との付き合いがはじまりました。私も何かの縁だと思い、私の料理仲間に電話をかけて彼の仕事先を一瞬で決めました。さすがに、彼も驚いていましたが。去年の暮れから年始にかけて、5人のワーホリが似たような状況で私のところに相談に来たので、彼らの相談にのり仕事に就かせることができました。
 これは、偶然に彼らを仕事に就かせることが出来たのではなく、信用とネットワークのつながりがあったからこそできたことで、海外とて人と人の繋がりを大切にします。特に、料理界は職人気質のところがあるので、一度お互い認めたら強い信頼でつながります。北米で職探しは、想っている以上に保守的でコネの世界です。現地での職歴がないと職に就くことが出来ません。あとは誰が後ろ盾になって推薦してくれるのか、これがほとんどと言っていいかもしれません。
 いまワーホリのパターンは、語学学校の1~2ヶ月の期間を終えて、仕事が見つけることがルーティーンのようになっています。しかし、語学学校を出てから仕事が決まらず金欠になり数か月で帰る人が増えています。ある人は、1年滞在するプランで来ましたが、語学学校とホームステイを2ヶ月して、そこから仕事を探したのだけども、どこにも仕事がなくお金が無くなり急遽帰国したようです。数年前とは違い世界は、大不況の波がはじまっていて現地の状況を知らないで来ると、海外で何もすることもなくお金と時間だけが無駄にして帰ることになります。
 これから海外に働きにくることを前提で、ワーホリや留学ビザで考えている人は、いま一度立ち止まって国際政治と経済を見る必要があると思っています。その上で海外生活をしたいのであれば、従来の語学留学とワーホリをセットにしたプランでなく、自分がしたいことに時間を使うべきだと思っています。例えば、語学学校に行かずに中古車を買って北米を一周するとか、自分の興味あることに時間とお金を使った方が、次の自分のステージに立つことが出来ると思います。(去年会った20代女性は、ビールが好きで醸造学校を出てVancouverの地ビールの会社で働いています。)そろそろ、エイジェントがパッキングしたプログラムで時間を過ごすのではなく、独創的で自分がしたいことを持ってから海外に行くことを勧めます。若いときの衝動は、1生に1度あるか無いかの貴重なチャンスです。その機会をプラスに変えるのは、正確に状況判断をして、その後の行動だと思っています。周回遅れの状況判断は、決していい方向にはいきません。

 

―留学生は金のなる木―

 「政治・経済で見るということは何か?」

 経済面から留学システムを見ると、カナダの国益と社会構造が見えてきます。北米の留学システム(アメリカも同様)は、産業として捉えていて地域経済の基幹産業になっています。なかなか日本では、大学や短大を産業として見る人はいないと思いますが、海外は違った発想で見ています。留学生が増えるということは、人口と消費が上がり街に外貨が落ち地域経済の活性につながります。さらに、地元住民の仕事も増えるので、すその広い経済圏を作ることになります。留学生の学費は、現地の人の3倍の費用がかかり、そこに生活費(家賃収入)を入れれば、莫大なお金が落ちることになります。さらに、ほとんどの学生は生活費を稼ぐためにバイトをするので、現地の就労者にもなり経済循環の歯車の1つになっています。この構造は、出生率が低くても海外から若い人口が増えて、景気が常に上がっていく仕組みになっています。
 具体的に数字(アメリカは、さらにプラスした額になります。)を見ていくと、留学費用(語学留学は除く)は年間250~500万円(カナダドル:2万~4万)かかります。これが4年間続くとなれば、1000~2000万のお金が学費として落ちることになります。加えて、そこに生活費が入ると毎月20~30万円近くかかります。いまの北米は、家賃も食費も高くなっているので、切り詰めても最低、18万円ぐらいの生活費はかかります。生活するだけでも年間240万~360万円かかり、学費+生活費になると年間最低でも500万円の費用がかがかかることになります。さらに、海外から来るほとんどの人は、カレッジや大学にすぐ留学をするのではなく、前段階の語学学校に留学をします。そこで、半年~2年ぐらいかけて入試の勉強をして、合格してから正規の大学やカレッジに入学をします。大学に入るまでに、1~2年はプラスされることを考えると、4年制大学を卒業するまでに1500~3000万円はかかることになります。
 これが、北米の海外留学の実体で、国はビジネスとしてやっています。各大学には、各国に勧誘するスタッフを置いて、「日本からは何人」「インドから何人」とノルマが決まっていて、海外からの留学生にむけて広報活動をしています。これが、北米の留学システムであり2~3次産業と言われるゆえんです。

 少し脱線しますが、北米のほとんどの大学は、留学生を収入源にして大学が自立経営をしています。日本の大学のように国に依存せずに、経済的な独立をして学問の自由の理念を立てています。いま、日本では外国人留学生を多く入れて、外国人に安く学費を提供して日本人には奨学金という学生ローンを組んで、金銭面で日本人が不利な状況で大学教育が成り立っています。さらに地方では、定員が満たない大学は国ぐるみで留学生にビザの発給を簡単にして、優秀でもない人に補助金を出して外国人に日本の税金をバラまいています。北米の感覚からすると、いったい日本は国家主導で何をしているのか、まったく理解に苦しみます。国益という点から見ても、日本の若い人を厳しくして、外国人に甘くする構造は、国の繁栄に繋がっていくとは思えません。だからと言って、北米の大学のシステムをすべて肯定する気はありません。しかし、この体制は日本民族を弱体化させて日本人を貧困化にさせていく社会構造になっていることは間違いありません。経済的にも教育機関としても破綻した構造で、未来の国を背負う人を作る機関になっていません。
 学問の自由を柱に置くのであれば、経済的な独立をしていかないと、中央集権の出先機関になってしまい中央官庁からの天下り機関になってしまいます。大学は、独立した人間を育てる大事な機関であり、教授含めて中央集権からの独立でなければなりません。その独立していない体制の中で、次世代の若い人たちの独立精神が育っていくのか、 根本から考える必要があると思っています。本当に独創と独立した人間を育てる機関であるならば、経済的独立をした上で学問の自由の精神になると考えています。

 話しは戻しますが、
 「それだけ経済効果があるにも関わらず、留学生のカットしてまで守るモノとは?」 
 23年は56万人の留学ビザを出していました。それを1/3の収益が減る政策にするということは、20万人前後の留学生を削減するということであり、最低でも2000億円(100万円×20万人とすると)の外貨が減ることを意味します。そこを蹴ってでも削減する意味は、教育産業の収益以上に社会損失が出ているからです。その闇は大きく分けて、2つです。

  • 人口流入 (留学生は移民の入り口になっている。子供に留学をさせて、卒業後に移民を取らせて、後に家族で移住をするパターン。先住のカナダ人が、仕事に就けなくなっている。)
  •  

  • カナダの大都市の住宅不足。カナダ人が住む家がなくなってしまった。(急激な人口増加によって、家賃が高騰してしまい異常な賃貸料になっている。これによって、いままで普通に働いていたカナダ人が家を買うこともできなければ、賃貸料を払えない人たちが増えている。それによって、ホームレスが増加してアメリカ同様に、ゴーストタウン化が進んでいる。)

 留学生の定員削減の裏にあるのは、政治と経済が深く繋がっていて、不況を外国人の留学生だけでは経済復興の限界があるという視点です。コロナ前は、大量の留学生や就労ビザを発券して、外国人を多く入れて消費拡大を推奨してきました。中には、子どもたちを留学させて家を購入して、不動産投資をする外国人も出てきました。これによって、住宅が不足しているところに、さらに不動産バブルを起こして、賃貸価格まで上げてしまいました。この異常な住宅インフレとカナダ人の失業者が増えたことで、庶民生活の社会保障がコントロールできなくなってしまいました。家に住めない人が増えホームレスになり、セーフティネットだけでは保護できなくなりました。この大きな社会構造が、留学生の削減につながっていることを知ると、日本でこれから外国人留学生を増やそうとしていますが、何を意味するかを考えないと次世代に大きな負を背負うことになります。
 <この話しの続きは、次回にします。>