いまこそ日本の時間軸に戻し、国づくりが求められている
-世界が一瞬にして、グローバルから鎖国に-

 いま各国は、次にどんな世界が来るのかを沈黙を保ちながら状況を伺っています。鎖国状態になっている状況下で、いままでのパワーバランスがどう崩れ、新しい秩序が構築されるかを、各国はしたたかに見ながら、どこに自分たちの縄張りと利権をつくっていくのかを冷静に探っています。表面上は、武漢ウィルスの危険を謳いながら、水面下では軍事・経済・金融・次世代通信技術G5・統治機構(民主主義体制対独裁体制)の壮絶な覇権争いになっています。
 まずは、自国経済の立て直しと国民生活をどう担保し、国内の現状と余力を見ながら、国富と時間軸の天秤にかけて、国家・民族を消滅させないように次の手を探っている状況です。日本国内にいると民族間の動きがよく見えないが、海外にいると民族のしたたかな動きを目にします。まさに民族生存競争がはじまっています。いま、世界各国は、経済を支えるための財政支出で社会を回しています。しかし、それは実体経済ではない虚構の世界なので、期限と上限がある仮の経済循環で、時限爆弾を抱えながら社会循環をしているに過ぎません。このシステムは、長く保つことは出来ず、毎日が崖っぷちの国家運営をしている状況で、垂れ流しの財政はどこかで終わりが来ます。世界は、国家・民族の貧困耐久レースに突入し、キャッシュが枯渇したところから自国崩壊と民族消滅に繋がっていく存亡の危機がはじまっています。いままでのように、軍が前面にでる戦争ではなく、知らないうちに生活や資産が奪われる新しい戦争になっています。そして、誰もがこの状況を戦争だとは思わない不思議な空間に入ったと見ています。
 いま、北米の状況を話しますと、いろんなものを失って見通しの立たない状況になっています。日本のメディアや経済評論家は、「アメリカ経済(株価を含めて)の冷え込みはない」と言っていますが、果たして事実と報道・知識人の見識が一致しているのか、疑問に思いながら見ています。依然として、国境が開かれず5カ月が過ぎてしまい、過去に前例がない現状になっています。この状況は、北米史に残る大きな歴史の1ページになり、北米社会の大きな分岐点になることは間違いありません。世界の最強国と言われたアメリカの社会を、疾病が簡単に壊し、国民感情を恐怖と不安に陥れ、国家の迷走をさせたということは、アメリカがはじめて経験した本土決戦がはじまったと言ってもいい状況です。いまは、国富の貯蓄を使い北米の社会を回していますが、必ず終焉が来ます。アメリカとカナダの国境を閉じたことで、いま何が北米で起きているのかを知ることで、グローバル社会の実態が見えてきます。
 まずは、アメリカとカナダを語る前に簡単な国家論から話したいと思います。この2国の関係は、大陸国家でありながら、言語も同じで生活習慣や法律も類似している関係であります。それに加えて、民族・人種形成も同じで、歴史的な背景も類似している国家であります。それにも関わらず、国家は別という特殊な大陸国家であります。日本は、海洋国家で領土内に国境がないので、大陸国家をイメージするのは難しいと思います。(国境が陸続きで「人の往来・経済の自由化・国防」を、自分たちの生活環境にあてはめて創造することは難しいと思いますが、日本人も国家というものを考える1つのきっかけになればと思っています。)
 今回の国境閉鎖によって、北米人たちも「国家とは何か」「国境がある意味」を考えたことは間違いありません。ある意味、グローバル社会の弱点を目のあたりにしているのが北米社会の実態です。この鎖国状態によって、カナダとアメリカは何を壊したのか。そして、何が起きているのか? 日常生活の目線で話していこうと思っています。 
 アメリカとカナダは、国家としては兄弟のような関係で、日常生活も経済活動も相互関係で成立している社会になっています。言語・生活習慣・生活水準も変わらないので、人の往来が頻繁にできる環境になっています。しかし、今回は国境封鎖によって、北米経済の弱点が浮き彫りになり、北米の経済が大きく傾いています。
 日本では、国境をまたいだ経済的な負の連鎖と言えば、中国依存の大企業や一部の中小企業が、サプライチェーンをしたことで大きな打撃を受けました。それに加え、一部の観光地区で中国マネーが入らずに悲惨な状況になりましたが、日本全体で見たときに国家が傾くほどの問題までにはいきませんでした。しかし、カナダとアメリカの国境封鎖によって生まれた負の連鎖は、庶民の生活・仕事・資産が直接つながり、北米の人たちの生活を一変してしまいました。日本では、国境を挟むということは、言葉・文化が違い人の往来や資産の行き来も特殊な行為で、普通の庶民の生活には関係ない世界です。例えば、外国に行くことや海外に資産を移すことは、非常にハードルが高く特別な人しかできない富裕の行為であります。が、アメリカとカナダの国境においては、言語が同じで生活習慣が同じことから、普通にカナダ人が日帰りでアメリカに牛乳や卵を買いに行き、アメリカ人が晩御飯をカナダのレストランに食べにくるという、庶民レベルの日常性になっています。人によっては、カナダに別宅を持ち休みになれば、そこで過ごし。逆にカナダ人が、アメリカで週末過ごす人もいます。それだけ人の往来とキャッシュのボーダレス化が、北米の経済を循環していました。日本の感覚で言えば、「京都の人が大阪に買い物に出てくること」や「埼玉の人が東京の有名ラーメン店に来る」のと同じ感覚で、地元で補えない嗜好品や満足度を他県に求めている行為と同じことを国境またいでしていました。今回の国境封鎖は、突如はじまり大半の人は戸惑いと予定がたてられない不自由さを感じ、すべての人が困惑をしています。そしてなによりも、経済循環にも大きな支障と庶民の生活にも影響が出てきます。いま、カナダとアメリカの国境を閉めたことによって、いままで見えなかった問題が表面化してきています。
 一番の大きな問題になっていることは、庶民生活と北米経済を支えてきたアミューズメント産業がすべて止まっていることです。言わば、北米の基幹産業と言っても過言でない産業が機能していないことです。北米のアミューズメント産業は、巨大なマーケットを有し、ありとあらゆる産業に繋がっています。その内訳は、スポーツ業界(スタジアム運営)・音楽業界・テレビ局・ホテル・レストラン・航空会社・空港・観光会社・etc. 広大な土地に拡散して主要都市があるので、移動手段はほとんど飛行機であり、宿泊施設と空港は1つのセットになっています。地元以外の街に行けば、市中のレストランや日用品の購買に派生し、人とキャッシュの循環が、北米経済の大動脈になっています。
 誰もが知っている北米の4大スポーツである、メジャーリーグ(MBA)・アメフト(NFL)・バスケット(NBA)・アイスホッケー(NHL)が、すべて試合が出来ず止まっている状態になっています。そして、アメフト以外はリーグのなかに、アメリカとカナダにチームがあるので、国境を封鎖したら出来ないこともわかってしまいました。それに加え、テニス・ゴルフ・インディー(カーレース)などを含めたイベントがすべて出来ない状況になっています。これらのイベントに、カナダ人とアメリカ人は自由に国境を往来し観戦・観覧し、資本のボーダレスになっていました。その経済効果は、直接収益と間接収益を換算したら、とてつもない経済循環になっていて、北米人の巨大な市場と雇用にもつながっていました。それが、5カ月にわたって機能しないということは、何を意味するのか?それに加え、北米のアミューズメント産業は世界の放映権を持ち、莫大な収入源になっています。その外貨獲得する手段を、すべて失っています。
 そして、4大スポーツが開催されないことは、アメリカ人の精神面でもあるアメリカ文化(アメリカの歴史の中で作ってきた、スポーツ文化と娯楽文化であり重要な文化・財産だと思っています。)の破壊にもつながってしまいました。いま、メディアも取り上げることができない深刻な問題が、北米で起きています。
 大量の失業者と日常生活を奪い、混とんとしているのが北米全土に漂っています。いまは、感染症の恐怖で矛先がウィルスに向いていますが、どこまで経済的・精神的な閉塞に耐えられるのか? 北米人が、本土においてこんな凄惨を味わったのは、9.11以来のことです。あの悪夢の9.11でも、数日間の社会機能を止めただけで、数日後には社会復帰しました。ここまで社会機能を停止して、恐怖と危険をつくり将来の希望を奪った過去はありません。この状況を、どう社会を立て直し回復までもっていくのか、北米の人知でも見通しがたっていません。
 日本の経済構造は、モノ作りが主体になっているので、そこまでアミューズメント産業が国家の主要産業になっていませんが。北米社会においては、交通機関(飛行機会社・空港)と観光業(ホテル・レストラン)と娯楽とスポーツが1つのセットになっているので、アメリカ社会の文化と経済が一体と言っても過言でありません。この産業に代わる新たな産業を構築しないと、北米経済は崩壊していくと思います。(蛇足ながら。ジャニーズの嵐が、地方公演を4日間したときに、90億円以上の経済効果がありました。その地区の宿泊施設は、数日間にわたり予約が出来ない状況になり、飲食業・交通機関を含める間接的な経済効果は、その地区の特需にもつながりました。それが、北米全土で常にイベントが開催されていると考えたら、とてつもない経済効果が各地方都市で特需を生んでいることがわかります。)
 さらに問題なのは、カナダ経済です。アメリカは、産業を多種にわたり自前産業だけで回すことができる経済構造になっています。しかし、カナダは自前産業が乏しいので、自立経済力がないため国境閉鎖によってどれだけの経済被害がでるのか見当もつかない状況に来ています。カナダの主要産業は、農業と鉱物資源の輸出であるが、鉱物資源に関してはアメリカの開発業社(ディベロッパー)が利権を握っているので、カナダ国内に入ってくる内需は少ないです。カナダでの外貨を獲得する主要産業は、観光と留学生の学業産業と移民産業で、これが基幹産業になっています。それが枝分かれをして、庶民の雇用につながっています。学校(語学学校や公立大学)やレストランやホテルや弁護士やコンサルタント業務など。外国の人の来加によって、人口増加(留学人口+移民+観光人口)で内需の拡大と経済を回してきました。しかし、国境閉鎖によって外貨が止まり、経済活動が止まってしまいました。カナダも同じように新しい産業を作り、外貨獲得するシステムを作らなくてはいけない状況にきています。カナダ政府も、手元にある現金(国富)の底が着こうとしています。いまは、政府が助成金という形で、市中に金をバラまいているが、それも応急処置の対応なので期限付き限定的な経済活動にしかなっていません。その先に、何が起こるのか誰も見えていない状況の中で、社会保障だけを頼りに庶民は日常生活を送っています。
 世界の中でも経済的に優位な北米の2国がこの状態だということは、もう1つの先進国が集まる大陸国家はどうなのか? ヨーロッパは、さらに深刻な問題を抱えていると見ています。EUという巨大な市場を作ってしまい、国境をなくし言語と文化と国内法が違う中で、この苦境をどう乗り越えていくのか非常に興味深く見ています。北米の2国間ですら深刻な問題になっているにも関わらず、EUは十数カ国の国家の溝をどう埋めて社会の構築をしていくのか。マネーだけでつながった共同体は、民族・文化・宗教・歴史が違う国と、どう難局に立ち向かいグローバル社会の負を解決していくのか。グローバル体制を堅持しながら、鎖国状態という矛盾の中で、彼らが持っている英知だけで乗り越えられるとは、私は見ていません。世界中の至る所で、歴史の分岐点であることはまちがいありません。
 日本も深刻な状態になっていますが、それ以上に深刻な問題を抱えながら、グローバル社会の崩壊と、崖っぷちの国家運営の2局面の中で、「存亡をかけた」耐久レースになっています。

 

―日本のもの作り文化が、世界を設計する―

 世界が、壊れている中で、外から日本の政財界の行動をみていると、何がしたいのか全く理解できません。日本の最高学府の結晶が集まった、官僚の政策にも、それは見えず、日本の国づくりをしているはずのトップも、いま世界で何が起きているのか、まったく理解できていないように思います。海外から見ていると、政財界のトップの英知が、このレベルの創造性しかないのかと不思議に思ってしまいます。有事にも関わらず、平時の対応で誰も責任を負わない「事なかれ主義」で動いているのが丸見えで、彼らはコロナ後の世界情勢をどう見て、何を柱に国づくりをしようとしているのか、まったく見えてこないのです。はっきりしていることは、古い体質の経済団体の既得権益と省益に目が行き、無駄な投資と政策をして日本を滅亡に導いていることだけです。
 ほとんどの国は、グローバル社会という人工的なイデオロギーをもとに、マネーという接着剤で国家間をつなぎ、国づくりをしてきました。今回のマネーの循環ができなくなったことで、そこから社会の崩壊がはじまろうとしています。本来、国や民族は大きな時間軸の流れで国づくりをして、文化文明の育みで「民族の英知」を作らなくてはならなかったはずです。しかし、敗戦後はどの国もイデオロギーによって人造の国家を作って、文化と歴史の分断の国家を作ってきました。歴史の大きな時間の流れではなく、短絡的に作ってきた国家は、国の枠はもろく壊れやすい国家にしかならなかった。そして、即席国家は「覇権」と「マネー支配」による歪んだ社会を作って、自国と民族を翻弄させ存亡の危機に追い込んでしまった。いま、世界の紛争の根幹は短絡的な人知がもたらした結果です。
 その中で日本は、世界の潮流とは違う時間軸の中で、自然との共存で国づくりをしていきました。そして、文化と文明の蓄積から人知をあみ出してきました。敗戦後の75年は、WGIP(戦争責任洗脳プログラム)によって日本人の価値観を壊し、大きな時間軸を断片的にしていびつな社会を作ってしまいました。日本は、閉ざされた時間軸の中で、洗脳教育が日本人のアイデンティティを壊していきました。バブル経済を作り、利益至上主義を作り、世代が変わるにつれ、洗脳プログラムは日本人の骨まで浸透してきました。しかし、壊されなかったモノもあります。それは、「もの作り文化」の精神です。日本のもの作り文化は、「自然との共存」と「利益至上主義とは別世界」の人知で残されてきました。いまは、「技術」と「勤労・勤勉」という文化に変化して、「もの作り文化」を壊すまでにはいたりませんでした。これは、敗戦後の日本を語るに当たり、絶対に目を背けてはいけない事実だと思っています。日本の国づくりは、もの作り文化を中心に自然と一体になって社会を作ってきました。近代国家の形成にあたり、日本だけ世界では稀な国づくりになりました。自然との共存社会は、いまでは少数民族や秘境の地の部族でしかされていません。
 日本という国の面白さは、古い文化と新しい文明が混在して、お互いが共鳴しあいながら存在していることです。現代文明が、過去の歴史や文化を否定するのではなく、常に共存と共鳴の中で社会を作って特異な民族国家になっています。いま、世界各地の大きな問題になっているのは、現代文明が過去を否定して、過去の歴史を抹消して社会を作ろうとしていることです。いま、アメリカで問題になっているBLM(Black Lives Matter)は、先住民を殺害・排除をして白人社会を作ってきた、即席による国家形成が原因になっています。新天地を求めて、白人の利益至上主義を達成するために、黒人を奴隷にして人造国家をつくった結果がBLMの根幹です。自然との共存の中で社会を作るのではなく、白人の至上主義による人種の移植を不自然な形で作ってしまったことが、アメリカの歴史のはじまりです。いま、シアトルを中心にBLMを掲げて、イデオロギーで国づくりをしようとしていますが、必ず同じ結果にしかならないことを彼らはわかっていません。現状を否定して、社会を作り変えても黒人至上主義に変わるだけで、断片的な社会は大きな時間軸の中では、英知にはつながりません。
 かつて、中国の文化大革命も同じ経路で、歴史を否定して断片的な国づくりをしてきました。そして、いま共産主義の中国という人造国家は、漢民族の至上主義によって国が崩壊しはじめています。
 その中で日本は何を取り戻し、国づくりをはじめるのか? 空白の75年の歳月の中で、失われたものを取り返す時期に来たと思っています。そして、その答えは敗戦後の利益至上主義にとらわれない「もの作り文化」に帰依するべきだと思っています。地域社会にコミットし、匠を賞賛し勤労の精神性でつながる社会を作る時期に入ったと思っています。先にも言ったように、日本は大きなチャンスが巡ってきています。世界は鎖国状態に入り、外部から閉ざされた地域密着型の経済循環になりました。まさに、日本社会が作ってきた、勤労と匠で人の心を豊かにする社会の土台が、世界の各地に同時に出現しました。道具と生活をつなぐ社会を世界に伝え、匠(技術)とものを無駄にしない精神を広げる時期に来ています。
 ひとつの実例ですが、私の関わっている包丁の世界も、北米の中で大きく変わろうとしています。いままでは、切れなくなった包丁は捨てていました。それが、研ぐことで包丁が甦えることを知りました。メンテナンスによって、ものが命を吹き返すことを理解しはじめました。日本の食文化にしても、刃物文化にしても、日本文化(自然と共存する価値観・質素でありながら豊かな生活)の浸透がはじまったと見ています。実は、ここに次の日本人の役割があると思っています。人間社会は、衣食住を中心にした道具と仕事(勤労精神)で、生活空間を作ってきました。日本の匠の世界は、自然と共存の中で編み出されたものがほとんどです。北米のように、大量消費社会の歴史からでは生まれない文化が日本には存在し、その文化に憧れを抱いているのが北米の人たちです。北米社会は、いま自分たちの価値観に限界を感じ、新しい価値観と歴史から生まれた英知を求めています。(BLMにも代表されるように、アメリカ人自身が迷っています。)それは、オーガニックやエコに代表されるように、自然との共存社会を彼らは望んでいます。世界の中で、唯一その答えを持っているのは日本人だけです。
 日本という国は、2000年以上の歴史の中で勤勉・勤労精神と道具を進化させて、人の心を豊かにしてきました。もう一度、大きな時間軸の中で日本人の生きる道を考える時期に来ていると思っています。そして、先人の英知を取り戻す時期に来ています。