日本文化の逆襲
―パン・スィート編-

「パン」は、日本の文化か? 疑問を持つ人も多いと思います。パンは、紀元前に中東で始まり古代エジプトに渡り、ヨーロッパで普及した食べ物です。パンが、はじめて日本に入ったのが1500年代のポルトガル人によって伝えられ、400年以上も経ちました。国内初のパン屋が出来たのは、1860年代とされ、155年間時代とともに日本文化の中に浸透してきました。西洋のものとして入ってきましが、日本の中でパンは進化を遂げ、西洋のモノとは違うパン文化になってしまいました。「あんパン」にせよ「カレーパン」にせよ、日本が生んだオリジナルのパンであります。そして、日本国内で常にパン文化は発展してきました。
 日本式パンが、なぜ世界に出て行かないのか? 長年の疑問でもありました。日本のパン業界が、北米進出に躊躇しているのか解りませんが。日本の製パン業者は、カナダに進出してきていません。いま日本で作っているパンは、西洋文化とは違うものになっています。ラーメンもそうですが、カテゴリーで言えば中華料理です。しかし、本場の中華料理とは違うものに進化してしまいました。中国人もラーメンを自国の食文化とは扱っていません。世界のいたる所でラーメンは、日本の食文化として見ています。国内にいると、そういった日本文化がいろいろとあることに、日本人は気づいていません。
 日本のパン文化も西洋のモノとして扱うのではなく、進化を遂げたオリジナルのモノとして海外に出て行けば、北米で新たな日本文化の浸透がはじまります。日本の食文化は、寿司・天ぷら・ラーメンばかりが注目されますが、次に来る日本の食文化はパンとスィートだと見ています。
ただし、日本のパン文化を進出するにあたり、基本的なことをおさえることが必要だと思います。日本人は、西洋というとヨーロッパと北米を1つにまとめて、1つの文化圏にしますが、これはまったく別ものであります。国内にいると、その違いをイメージするのは困難かもしれません。乱暴な例えではありますが、アジア人と言って、中国と日本とフィリッピンを一緒の文化圏に括ってしまう日本人はいないと思います。同じくらいに、ヨーロッパと北米を1つの文化圏に括ってしまうのは、日本人の悪い体質かもしれません。その考えを払拭して、ヨーロッパと北米の文化圏の違いを明確にし、立体的にすることが北米進出の大きなカギになると思います。
 パン文化から見るヨーロッパと北米の違いは、明確に違うのが見えてきます。それは、歴史的背景が大きく関係しています。ヨーロッパは、伝統と具材(地産地消)を重んじ新しいものを受け入れず、保守的な食文化の中でパン文化が繁栄してきました。バンクーバーでも、ヨーロッパ人街などはソールフードとして長年、民族の食文化の1つとしてパン屋が存在しています。
それに対して、北米のパン文化はヨーロッパ系とは違い、オリジナルの具材(フォカッチャなどのハーブなどを入れるパンやライ麦)や食感をベースに置かないパンが主流になりました。歴史や文化が浅いぶん、食パンやハンバーガーに合うモノが中心で、空腹を満たすモノが北米のパンです。マスプロデュースを主体とした、大量生産と物流から生まれたパン文化が背景にあります。なので、パンの特殊性よりも均一性の企画になっているので、北米どこのスーパーでも同じパンが売られています。
その状況の中で、近年面白い動きが出てきています。それは、バンクーバーの庶民のパンに対する意識が変わってきました。食文化の高まりと多様性が求められるようになり、この数年パン業界がいろんなパンを販売するようになりました。北米の人たちは、基本的に「カーボーイ・フード」が食文化の原点になっています。味覚音痴であり、食感や味覚に関心がない人たちが大半でした。その彼らが、食文化に目覚め。ドイツ系やフランス系やイタリア系のパンなどを選ぶ時代になり、巨大スーパーでも多様なパンが売られる時代になりました。以外かもしれませんが、15年前まではスーパーにヨーロッパ系のパンは、ほとんど置いていませんでした。
時代の変化によって、北米のパン(大量生産で作られているパン、個性のないパン)からヨーロッパ系のパンや中国系のパンが庶民の中に浸透していきました。大衆の多様性と個性を求める時代になったことで、パン文化は顕著に変わってきました。このパン文化の大きな変化によって、日本式のパン文化も入りやすくなったと見ています。日本のパン文化を技術とコンセプトをパックにして輸出すれば、北米に大きなパン文化のイノベーションがはじまることは間違いないと見ています。
 
 

Vancouverのパン市場

パンの販売状況は、大きく分けて3つに分類される。

1. スーパーでの販売 ➡ 大量生産型
2. ヨーロッパ系   ➡ 少量生産型
3. アジア系(中国系) ➡ 少量生産型

パン業界は、大量生産型と少量生産型の2つのモデルに分かれます。大量生産型のモデルは、食パンやバゲットなどを生産して大手のスーパーや業務用として卸しています。それらのパン屋は、卸しを中心にして菓子パンなどの行程のかかるパンは生産していません。スーパーによっては、各店舗にベーカリーセクションを持っているので、オリジナルブランドとして販売しています。
それに対して、少量生産のパン屋は、店舗を持ち多種多様のパンを作り菓子パンにも力を入れています。小規模のパン屋でも有名になれば、スーパーなどに卸し委託販売しているところもあります。Vancouverのパン市場は、日本とはちょっと違っています。日本のパン屋は、どの町に行っても大きな違いはなく、似たり寄ったりのパンを置いています。しかし、ここは民族によって購入するパンが違うので、最寄りのパン屋で買う発想がありません。中華系のパンが欲しいときには、中華系のパン屋に行き。ヨーロッパ系のパンが欲しいときには、ヨーロッパ系のパン屋に行きます。地域によっては、アジア人が多いエリアにヨーロッパ系のパン屋を開けてもニーズはないので、ロケーションと消費者の関係がタイトな関係になっています。この特殊性は、日本人の発想には無いのでイメージするのは難しいです。
 
 
パン工場型 大量生産型:パンを大量生産して卸し販売している形態。食パン・バゲット・クーペ・フォカッチャ等を作っている。菓子パンは、作っていない。

http://labaguette.ca/
https://www.canadabread.com/
http://pane-e-formaggio.com/
 
 
パン屋型 少量生産型:各店オリジナルの国のパンを作っている。フランス系・ドイツ系・オランダ系・ロシア系・カナダ系など。サワー系のパンやハード系のパンやライ麦系のパンなど、各店舗によって特徴がある。食パン・バゲット・クーペなどをメインにしながら、ヨーロッパの菓子パンも作っている。
 
 
https://www.mixthebakery.com/
http://www.terrabreads.com/
https://www.purebread.ca/
http://www.eastvillagebakery.com/
https://uprisingbreads.com/
https://www.cobsbread.com/

http://www.beaucoupbakery.com/
https://www.thomashaas.com/
http://www.fratellibakery.com/cakes
http://faubourg.com/
 
 
アジア系 (中華系のパン屋):お客の中心は中国人で、蒸しパンから中華マン・と幅広くしている。菓子パン・ケーキ・食パンを販売し、日本の70年代の菓子パンをモチーフにしたのが主流である。Vancouverのパン屋の半分以上は、中華系のパン屋である。中国人の人口が多いことが、市場に反映している。
 
 
http://newtownbakery.ca/
http://annascakehouse.com/home/
 
 Vancouverのパン市場は、民族によって明確に分かれていて客層も別である。
ヨーロッパ系のパン屋は、クロワッサンやバゲットやフォッカチャなどが置いてあり、食感を大切にしたものがほとんどである。菓子パンは、上の写真にあるように、焼き菓子(デニッシュ・クロワッサンにチョコやジャムを入れる)がほとんどで、中国系の柔らかい生地の中に具を入れる菓子パンは、ほとんどない。ヨーロッパ系パン屋にも食パンはあり、ライ麦や精白されていないパンなども販売しています。中華系の食パンに比べると、密度が濃く重いパンが多い。白人の富裕層が中心だが、近年は中国系の富裕層も来店している。

中華系のパン屋は、日本の70年代をモチーフにした菓子パンや蒸しパンが主流で、柔らかい生地にいろんな具材を入れるパンです。あんパンやチャーシューパンやココナッツパンなど、(あんパンに「あん」のかわりに、チャーシューを入れたりチキンを入れたりして、甘いパンとお惣菜パンが存在する。)中華系のパン屋は、どこも同じモノで、サイズと値段は違うが差別化はない。食パンに関しては、日本の食パンと同じものを作ります。客層は、中華系がほとんどで白人のお客さんは少ない。
 
 

■ Vancouverのパン屋の基本

 日本で個人経営のパン屋の売り上げを聞くと、耳を疑うほど売り上げが低い。日本のデフレの影響によるものか解らないが、Vancouverのパン屋の方がはるかに売り上げはあります。今回は、大手の大量生産型モデルは省いて話します。

ヨーロッパ系のパン屋
  菓子パンの単価 CAD4~7ドル
  食パン     CAD5~10ドル

中国系のパン屋
  菓子パンの単価 CAD1.5ドル~3ドル
  食パンも、CAD5~8ドル

1日の売り上げは、3500ドル~7500ドル/1日にはなっています。ほとんどのパン屋が、ケーキも販売しているのでパン屋とケーキ屋が組み合わさったかたちになっています。
12月のクリスマス・シーズンになると、スィートの販売が多くなるので、1万ドル~1.5万ドル/1日の売り上げになります。小麦の原価も安く、日本の3分の1ほどで入手でき、光熱費等も日本の半分のコストなので、商品の生産コストは安くできる。しかし、Vancouverの人件費が毎年上がっているので、人件費は大きな問題になっている。(13ドル~15ドル/時給)人件費は高いが、原価コストが抑えられ、機械化にすることで人件費のコストダウンをすることができます。カナダは、店舗面積が大きいので多種の機械を置くことは可能です。
そして、日本との大きな違いはパンのサイズです。多少のボリュームがないと、この国では売れないので、日本から見ると大きいサイズになっています。それによって、値段設定が高くなっています。原料は小麦や乳製品なので、多少ボリュームがあっても、原価的には変わらない。日本は、原料が高いのでポーションを小さくしないといけないが、ここではその心配はない。

 <参考までに> 

 8年前に出来た、「Meat & Bread」というサンドイッチ屋ですが、面白いコンセプトでやっています。多種多様のサンドイッチを置くのではなく、5品のメニューしか置いていません。目の前で作るシステムにして、高級版サブウェイのスタイルでやっています。CAD10~12ドルの価格で、パンをチャパッタにすることで白人をターゲットにしたビジネスモデルで作られています。オフィス街にあるので、ランチを中心にして売り、完売制にして夜の営業はしない時間設定にしています。連日行列ができ1日の売り上げは、CAD5000~7000ドルの前後になっています。

 https://www.meatandbread.com/

 厳選したメニューにすることで、仕込み時間を激減させた。それに加えて、営業時間を短くすることで、人件費を抑えて短時間で売り上げを出す設定になっています。日本のパン屋の営業モデルを見ていると、長時間の営業と多品種を作ることで作業工程が増えて、人件費がかさむシステムになっている。シンプルにして、作業工程を減らし人件費を減らす面白いビジネスモデルである。
 
 

■ 日本のパン屋の2つの道

 かつては、日本人が経営するパン屋はあったのですが、20年近く日本人経営のパン屋はありませんでした。それと対象的なのは、中華系のパン屋で昔からあります。商業エリアの場所に必ず存在し、Vancouver市内だけでも40~50店舗はあります。先にも話したように、そのパンは日本の60~70年代の菓子パンのスタイルで、中に入れる具材は中華系なので日本とは少し違いますが、パンの生地は日本と同じ食感のものです。(パンの味や食感などは、日本人と似ています。)なぜ、日本のパン屋が出てこなかったのか、いまだに答えは見つからないのですが、日本のコンビニに置いてあるパンとは類似していることは間違いありません。
私の推測ですが、日本人がパン屋をしたときに2つの道に別れると分析しています。

■ 中国人をターゲットにした市場
■ カナダ人をターゲットにした市場

 どの方法をとってもVancouverに日本人のパン屋が出来たときには、必ず話題になります。そのときに、パン屋のコンセプトとマーケットを考えなくてはいけない。どの市場を取っていくのか? この発想は、日本の人には理解できない市場原理があります。それは、先ほども話したロケーションと民族の関係があります。どこの民族をターゲットにするかで、コンセプトとロケーションが変わってきます。中国人の中で話題性にするのか? 白人の世界で話題性にするのかで、2つの市場に分かれます。

中華系の客層をターゲットにする場合は、お惣菜を中心にした普通の菓子パンを販売し、彼らのネットワークで話題を作ります。彼らは、日本信仰があるので日本のパン屋が進出すれば、富裕層の客を掴むことができます。くり返しになりますが、アジア系の人は柔らかいパンを好むので、あんパンやクリームパンやカレーパンといったコンビニに置いてあるレベル(ヤマザキパン・神戸屋など)のパンで充分に差別化はできます。さらに日本を意識するのであれば、具材を日本の食材にアレンジすることで、中国系のパン屋とは一線を画すことができます。それをコンセプトにした場合には、中華系のお客さんは増えますが、白人系の客層が付くかは疑問であります。

 カナダ人をターゲットにしたビジネスをするときには、ヨーロッパ系のパン屋とは違うものをやる必要があります。カナダ人は食感を大切にするところがあるので、硬いパンや弾力のあるパンを好みます。菓子パンにおいては、チョコ・クロワッサンやデニッシュに代表されるように、「パッリ」とした食感を求める節があるので、あんパンやクリームパンが流行るかは疑問が多い。ただし、カナダ人はサンドイッチ文化なので、具材を日本のお惣菜を入れて差別化をしたときに、話題にはなります。
 例えば、カツサンドがまだないので、美味しいパンとカツを組み合わせれば、面白いパン屋が出来ると見ています。そこに、日本のパン粉とんかつソースと日本のマヨネーズを使うことで、北米の人の好きな味のサンドイッチができます。そして、ここはベジタリアンの人口が多いので、ベジタリアン用に「ゴボウサラダ」のサンドイッチなどは、必ず話題は作れます。(近年は、ゴボウという食材に注目をしているが、調理方法が普及はしていないので、面白い食材の1つではあります。知識としては、栄養価が高いことと健康に良いことは知っているが料理の仕方がわかっていない。「きんぴらごぼう」は、居酒屋やすし屋で食べるお客さんが多いので、ゴボウサラダのサンドイッチにすれば、彼らの中に浸透していくことは間違いありません。) 

日本人が気づかない北米においての差別化は、単純なところにヒントがあります。とんかつは、衣にこだわり「サクッ」とした食感にして、彼らの中に日本のサンドイッチをイメージさせていく。北米は、良質の生パン粉がないので、そこでも差別化が出来ます。それに、ゴボウの歯ごたえがある食感は、彼らがいままで経験したことのないサンドイッチの食感になると思っています。その些細な違いをすることで、ヨーロッパ系のパン屋とは一線を引くことができます。これは、あくまでも1例であり、他にもたくさん食材は潜在しています。
日本式パンを北米で展開していくには、既存のパンと対立軸を明確にする必要があります。すしや天ぷらは、ここで類似メニューが無かったので、明確な差別化をすることができました。パンに関しては、既存にあるのでインパクトになるパンを作らなくてはいけません。そして、中華系のお客をターゲットにするか、カナダ人のお客をターゲットにするかで、ビジネスモデルが変わってきます。
 
 

■ 北米で日本のパン屋とスィート店の大きなメリット

 日本の企業があまり知らない、大きなメリットがあります。

■ 1つ目は、北米の食文化は日本の流行りより数年遅れています。
■ 2つ目は、原価コストが安いのに対して販売価格が高いので、利益が日本の倍は出ます。
■ 3つ目は、競争相手が少ないことです。

北米は、小麦と乳製品は現地で入手できるので、輸入に頼らなくても安定供給が出来ます。しかも、日本の3分1もしくは4分1で入手できます。小麦に関しては、大雑把な精製技術なので日本ほど質の安定性がないデメリットもあります。(日本の製粉メーカーは、1社で10~30種類の製品を持っているので、成分が厳選して分かれている。それによって、ユーザーのパン製造のコントロールはし易い。)それに対して、ここは日本のレシピで、同じ品質のものを毎回作るのは難しいです。小麦粉の精製の繊細さ厳密さがないので、独自のレシピを作る必要があります。薄力粉、中力粉、強力粉にはわかれているので、グルテン粉や違うメーカーの小麦を混ぜて調合すれば、独自のレシピができます。レシピがマネされなければ、それも1つの差別化になっていきます。日本人であれば、そこは成分を分析して技術でカバーをしていくことができると思っています。

 原料価格 (2015年のデータ)

小麦 (Whole Wheat)   20kg $11.99
小麦  (Silver Star)薄力粉 20kg $11.99
小麦 (All Purpose)中力粉 10kg $6.49

砂糖            20kg $18.99
上白糖           10kg $10.49
Yellow Sugar        2kg  $3.59
Icing Sugar (粉砂糖)    1kg  $1.99
 
 

北米に展開する意味

 カナダの人たちが来日して、まず驚くのはコンビニの存在です。コンビニは、アメリカから始まりましたが、オリジナルとは違うものになってしまいました。日本独自のスタイルになり、菓子パンやサンドイッチ・お弁当・お惣菜の充実した店は、北米のコンビニにはありません。そして、彼らがさらに驚くのは、手軽に日本の菓子パンとサンドイッチを手に入れられることです。価格の安さとクオリティの高さに感動し、必ず話題にします。カナダで、5~6ドルで菓子パンを購入したら、1つしか買えません。日本で500円あれば、2~4個買えて違った味を楽しむことができます。その感覚は、いまの北米の人たちにはありません。あの感動を北米で再現したらどうなるのか? 日本では当たり前とされていることが、北米では存在していないことが、実は仕事のヒントになっていきます。

日本のパン業界も進化したゆえに、パン屋が飽和してしまいました。成熟社会が抱える、消費出来ない時代がパン業界にも負の産物として出ています。日本の持っている技術は、すごく価値があり世界においては希少なものであります。ここに、日本人は立体的に世の中を見る必要があると思います。国内においては飽和しているが、世界においては希少な存在であることは、何を意味するのか? 私が、海外進出を推奨する意図は、ここにあります。パン業界も例外ではありません。海外で展開し市場の拡大をする時期にきていると思います。日本のパンは、海外で充分に展開できると見ています。
 日本には、世界最先端の調理器具があります。ありとあらゆる調理が機械化でき、調理を平均化することで職人がいなくてもできるシステムを持っています。人件費の高いノースアメリカにおいては、機械化によってコストをカバーすることは必要不可欠です。アメリカ製や中国製の調理器具は、きめ細かな調理行程が出来ないものがほとんどです。日本の調理器具と日本のパン文化と日本の若い人(労働者)のマッチングをすることで、特別なイノベーションをしなくても仕事場を作ることができます。日本国内は、狭い市場でお互いが価格競争に巻き込まれ共食いしている現状があります。その流れに終止符を打ち、共倒れのビジネスモデルではなく、日本の文化を世界に売っていくモデルに変えていく必要があります。北米には、受け応えてくれる受け皿があり土壌があります。

北米に展開するにあたり、日本の常識を捨てることからはじめる必要があります。日本の市場原理を持ってきても、必ず成功するわけではありません。現地の市場原理とカントリーリスクから、スタートをして広い見識と洞察力で展開する必要があります。

 
 私が提案するビジネスモデルは、昭和的な「腕自慢」ビジネスの否定であります。私の年代も含めて、いままでの日本人は、自分の技術ばかりを過信して店を開けてきました。一人の「オーナーシェフ」体制で、平成はどうにか経営することができました。しかし、そのスタイルは過去の産物だと思っています。これからのビジネスモデルは、パン屋を志したい若者と調理器具メーカーと現地の市場を知っている3者が、役割を分担して展開するモデルを作ることだと思っています。
 少し話しは、脱線しますが。Vancouverのレストラン業界の話しをします。白人のビジネスモデルから、日本人は少し学ぶ必要があると思っています。白人のシェフたちが独立するときに、決して自分一人の自己資本ではしません。4~5人でチームを作り、ビジネスを立ち上げます。個人の自己資本で立ち上げているのは、日本人ぐらいしかいません。どのようなスタイルで立ち上げるか? まずは、ヘッドシェフのコンセプトを柱にして周りを固めていきます。1人目は、ヘッドシェフ。2人目は、フロント・マネージャー。これは重要な役目で、以前働いていた店の顧客リストを持っているので、この人材がいるのかいないかで、立ち上げ時の売り上げはまったく違ってきます。それに加え、フロントを仕切る技術が要求されます。日本だとサーバー(ウェイトレス・ウェイター)は、あまり地位が高くありませんが、海外は重要視されます。なぜなら、サーバーの良し悪しで客足はまったく違い、店の売り上げ雰囲気にも影響してきます。どのレストランもサーバー教育には力を入れます。日本の場合は、味を重視されますが、海外は味とサービスを同等に重視します。レストランによっては、「味」以上にサービスに重点を置いています。
3人目は、ウェイブデザイナー兼ビジネスデザイナー。この役職が、店のスポークスマンになり、宣伝とイベントなどをブッキングする役割をします。
4人目は、地主(レストラン用の土地又は店を持っている人)。いまは、Vancouverの家賃が高いので不動産を持っている人をチームに入れて、出費を抑えることで社内留保をし、次の店舗の投資資金を作ることに特化しています。
 チームで動くことで、迅速に実務をこなしキャッシュを作ることで、次の投資を考えたビジネスモデルからスタートをしています。日本の会社組織のトップダウンの仕事形態ではなく、プロのチームを編成することで、仕事とキャッシュを迅速に回すことで、無駄な仕事を無くしています。それらのチームは、1店舗が成功すると、すぐに2~3店舗の店を開けて北米進出を前提にしています。

このビジネスモデルを日本人は学ぶ必要性があります。かつての様に、オーナシェフの個人事業は厳しい時代になりました。レストランをするときには、日本人のチームをつくり北米に進出する時代に入ったと思っています。  
1人目は、ヘッドシェフ・作り手の代表。2人は、調理器具メーカー。3人目は、現地のビジネスデザイナー。4人目が、フロント・マネージャー。5人目が、不動産投資をしている日本人か、それと同等の投資家。このように分業体制にすることによって、不要な仕事がなくなり、迅速なビジネス展開ができます。
 いままでのやり方は、ヘッドシェフの自己資金だけで展開してきました。フロント・マネージャーを高額で雇用し、WEBや宣伝の費用などの出費がかさみました。場所を借りれば、レント代の出費もあり、自己投資をしても、回収に時間がかかり大きな事業展開には発展しませんでした。それは、カナダ人でもチームを組まないで独立した人は、ほとんど失敗しています。近年は、投資と回収の時間がより短くなり、迅速なプロジェクトをすることが経営を成功させるカギになっています。
 これからは、投資家と技術を持っている人たちのチームの編成だと思っています。昭和の会社システムでは、成り立たない時代がはじまっています。トップダウン体制は、パーソナルマネージメント(従業員コントロール)と不要な仕事ばかりが増え、迅速性に欠けた仕事形態になっています。サラリーマン的(タイムカード的)な仕事の仕方では、実利を取っていくことは難しい時代になりました。プロジェクト・チームで対処していくことで、迅速に対応ができ多角的・多様な仕事をこなすことができます。これからの次世代の仕事・経営モデルになっていくと見ています。
このパン企画は、レストランほど体制を大きくしなくていいので、チームはもっと小さくして出資額も小さくできます。このビジネスモデルが確立すれば、北米の多店舗化はすごく簡単にできます。

 <作り手 + 調理器具メーカー + 現地スタッフ>
 
 
パンに関しては、もう1つの利点があります。それは、どこの場所に行っても原材料が入手できることです。これは、日本人が見落とす盲点であります。日本国内は、どんな田舎にいても配達システムが発達しているので、配送のことで頭を抱えることはありません。北米は、広大な面積と物流コストが高いうえに、内陸に行けば行くほど物流システムが発達していません。一例ですが、内陸のすしや居酒屋は、いつも悩みの種は魚や日本食材の確保です。1~2週間に1度の配達に、問屋の納品間違えが重なると、営業がまともに出来なくなることあります。それに加え日本食材は、輸入品なので為替の変動で原価コストがすぐに変わってしまい、粗利益がいつも変動します。外食産業は、地産地消をモデルにした経営体質にすることが一番の課題であります。その点からみても、パン企画はメリットがあるビジネスであります。
 人材面から見てもパンは、利点があります。レシピや製造の体制ができれば、職人を雇う必要がないので日本のワーキングホリデーでも回せることができます。そこで、ワーホリのシステムを使うことで日本の若い人に、還元することもできます。将来、カナダに残りたい人には、経営や製造の教育をするプログラムを設定して、新店のオーナーとしての独立をさせるシステムを作ることもできます。(日本の外食産業の給料の安さと労働条件は、日本の若い人たちの意欲を落とし絶望しか持てなくなってしまっています。それは、国全体の国力を落としています。いまの日本経済体制からは、この循環を変えることは出来ないと見ています。)
 
 この企画は、ただのパンの出店ではなく。「日本のパンの市場拡大」と「日本に停滞している資本の流動」を組み合わせることで、日本の若い人たちに投資をするシステムができることです。実利を取る投資であり、日本の国力を上げる投資にもつながると見ています。外貨をかせぐことによって、国内の経済循環もしていく。
ここに調理器具メーカーが、チームとして参入するのには意味があります。これからの日本の調理器具メーカーは、国内需要は落ちていきます。米中経済戦争が悪化すれば、中国・韓国の輸出は減っていき、新たな市場を作る必要が出てきます。その市場は、海外であり北米だと見ています。そして、メーカーは従来とは違う経営のかたちを作ることが急務だと思っています。いままでは、海外からオーダーをもらって機械・器具を送っていました。製造と国内営業ばかりに重点をおいた結果、北米の販売ルートを確立してきませんでした。いまから北米の現地部門を立ち上げて、オフィスと駐在員のコストをかけた場合、どれだけの費用と業務が必要になるのか? そして、短期的に回収ができるのか? 規模にもよりますが、年間2000~3000万投資したところで、回収は不可能だと見ています。その結果、経営をさらに悪化させ、機械は売れずデフレスパイラルに落ちてしまう危険をはらんでいます。調理器具メーカーのこれからの仕事は、製造と営業それに投資がプラスされます。その投資は、自社の機械を使用するエンドユーザーと共同で市場開拓することです。
調理器具メーカーとタッグを組む意味は、エンドユーザーに出資をして共同展開をしていくことです。メーカーは、単独で北米に進出するのではなく、共同で北米に進出する体制を作ることで、無駄な投資をせずに、確実に実利を取っていく事業展開することです。エンドユーザー(共同経営店)が、新店が開くときには自社の機材を導入すれば、営業せずに卸すことができます。メーカーが一番大変なのは、海外市場の営業です。この仕事が無くなることで、コストダウンにもつながっていきます。そして、海外のメンテナンス部門を充実させ、現地の不安を払拭することが、販売促進にもつながっていきます。(海外の人が、日本製を使うときに、一番悩むのが壊れたときの対応です。アフターケアーの対応の悪さが、日本製を選ばないカギになっていることを日本のメーカーは理解していません。) 共同展開には、もう1つのメリットがあります。それは、共同経営店で自社の機械のプレゼンすることで、低予算で販売促進ができることです。機械のメンテナンスをしたときに、現地の食品関係者と関係を密にし、自社の機械を紹介し市場調査もすることもできます。 
 いままでの海外営業は、フードショウなどの展示会に出店して、それなりの金額を投資してきました。その金額とリターンが適正だったのか、メーカーは考える時期に来ていると思います。

 いま、日本の問題は企業にしても労働者にしても、昭和的な発想のもとでビジネスモデルを作っていることです。上のチームを作ることで、企業間の垣根を取っ払い、いらない仕事を無くし新しいモデルに編成することです。そうすることで、無駄な投資と不要な仕事をなくなり、海外においてスピードあるビジネス展開が出来ます。

このモデルは、労働者にも利点があります。それは、転職の自由化であります。若い人たちが調理器具メーカーから転職を考えているならば、エンドユーザーの仕事に就く選択肢を設けることで、20代後半~30代でも新たなスタートができることです。それは、逆のパターンもできます。日本は、退職すると次への仕事に就くことが難しく、再チャレンジが難しい仕組みになっています。閉鎖的な会社の枠でくくるのではなく、企業間で連携すれば人材の流動にもつながっていきます。そして、個人の能力は多角的になるので、過去の経験は無駄にはならず、転職先でも付加価値になります。これは、いままでとは違う労働のセフティーネットにつながると見ています。

 パンの企画から、少し脱線した話しになりましたが。人と仕事と投資をどうつなげるのか。これが、令和の時代の大きな課題だと思っています。今までの仕事の組み合わせを少し変えるだけで、日本は世界に通用する技術と仕事が潜在していることに、気づかなくてはいけません。昭和や平成の終身雇用や年功序列型賃金体系に依存するのではなく、自分の能力と時間をどのように空間デザインをしていくのか? その発想の転換が、労働者にも経営者にも問われています。一人一人が、その発想に立った時に、決して暗い未来ではなく明るい未来が見えてきます。世界が激変している中で、日本の再編は急務であることは間違いありません。