16の巻<大切なもの>

「おふだを盗られました。」
「一体何があったんだ?」
「昨日の夜、そんなに遅くない時間にほろ酔い気分で歩いていたら、いきなり一方通行を逆行してきた原付の二人組みにバッグをひったくられました。一瞬何が起こったのかわからなかったのですが、ニタニタ笑う若者の顔が見えて、やられたとやっと気付いたのです。それから走って交番に行くと、怪しい若者を職務質問しているから、犯人かどうか確認しろといわれパトカーに乗せられて、公園に連れて行かれたり、調書をとられて夜中までかかって、鍵もないので家にも入れず、タクシーで実家に帰って、銀行やカード会社に連絡したりしてほとんど寝ていないのですが、何が一番ショックかと言うと、おふだや初めて上昇したときから今までに書いていただいたメッセージなどが入った手帳までなくなってしまったことなのです。今からおふだを作ってもらいに伺っても宜しいですか?」
「それは大変やったね。どこかで何かを受けてきたんやろうな。怪我はなかったか?」
「はい。バッグを握ったせいか、爪は折れていましたが、それだけです。何を受けたかは分かりませんが、どこでもらったかは分かります。前からたまに行く店なんですが、おいしいけどママがちょっと癖のある感じで・・・。」
「来客はあるけど、いつでも来ていいよ。」
「ありがとうございます。」
当時は、まだ今のようなおふだというものがなく、Sekiさんの名刺をおふだにしてもらって持っていた。1枚しかないので、手許にないとさらに酷いことが起こりそうで、来客中のお客様には怪訝な顔をされながら、名刺をもらって帰った。
「お金だけを盗られたほうが、ずっとマシですよ。」
「現金だけを抜いて、バッグはどこかに捨てるはずだから、君の日ごろの行いが良ければ、バッグは見つかるかもしれないし、怪我しなかっただけでも良かったじゃないか。」
「そうなんですけど、本当に残念です。おふだが無くなったのもショックですけど、いろいろなメッセージは、もらったときは全く意味が分からなかったけど、少し能力が上がったら分かるようになるかもと思って、大事に持っていたのに・・・。こんなことになるなら、家において置けばよかった。」
「なくなるということは、もう必要がなくなったということかもしれないし、あまり気にするな。」

それから2年ほど経った頃だろうか、会社から帰って玄関の鍵を開けようとして、何か様子がおかしいことに気付いた。ドアについている新聞受けがめくれ上がっている。
もしかして・・・。
やっぱり、鍵がかかっていない。
部屋の中は足の踏み場もないくらい散らかっていた。
元々かなり散らかっていたが、ここまで酷くない。
急いで、最寄の警察に電話すると、何かなくなっていますかと聞かれた。
何がなくなっているか分からないと答えると落ち着いてくださいと言われた。
落ち着いてるにきまってるでしょ、110番じゃなくて、最寄の警察の番号に電話をかけているくらいなんだから、と思いながら、落ち着いているけど散らかりすぎてるので何がなくなったか分かりませんと言うと、近くに警官がいるからすぐに行くとのこと。数分で5~6人やってきた。随分早いなと思っていると、同じマンションで数件が被害にあったという。そうこうしているうちに妹が帰ってきた。調べてもらうと、貴金属やバッグなど高価なものはほとんど盗られていた。
頂き物の限定品の時計など、もう手に入らない大事なものも含めて、ひとから貰った高価なものは全てなくなっていた。
以前から感じていたことなのだが、落としたり、忘れたり、盗られたり、人から貰ったものは、どんどん手許からなくなっていくのだ。
もう、人からモノを貰うなということなんだろうか?

「今度は空き巣に入られました。ほとんどのものが盗られたのですが、なぜか、自分で買ったバッグや時計など一通りのモノは残っていたので、すぐに買い足さなければキチンとした格好ができないという訳ではないのが不幸中の幸いです。」
「空き巣と鉢合わせしてたら、モノを盗られるだけではすまなかったかもしれないよ。必要なモノなら、また買えばいいじゃないか。」
「そうですね。何でも必要なモノは、自分で買えるようにならないとだめですね。」
「モノやお金は、簡単に盗まれるけれど、モノやお金を作りだせる能力は盗まれてなくなることはないんだ。必要なものを必要なときに手に入れようと思うなら、お金やモノを貯めるのではなく、自分の頭の中に創造力を蓄える金庫を作るんだね。」

なるほど。でも、頭の中に金庫を作るのはなかなか難しい。家に金庫は要らないけれど・・・