歴史から抹消してしまった国防と国益 68
―ウクライナがEUを解体の恐れ―

あまりにも世界が大きく変わっていくので、激変に追い付かない状況です。今日は、あまりにも衝撃的なゼレンスキー大統領とトランプ大統領の対談に起きたことについて書きます。そして、いまヨーロッパで何が起きているのかを見る必要があると思っています。

 まずは、2月28日に公開の場で、アメリカの首相とゼレンスキー氏の、なんとも不思議な口論がありました。しかも、今回の対談は全世界に同時に流れ、アメリカ政治を世界に共有させるすごい対談でした。本来であれば、事前に担当閣僚で決めてあったことを、お互い話してサインをするだけの儀式でした。両者の合意は、戦争終結とレアアースの採掘権をアメリカに渡すことが、盛り込まれていました。戦争嫌いのトランプ氏にしてみれば、早く戦争を終結させたいのは当然のことです。レアアースの採掘権は、これまでアメリカがウクライナに支援してきたお金を返せという意味も含んでいます。この権利は、略奪という見方もできますが、これまで莫大な金額を払ってきた側の、当然の権利と言えばそうなのかもしれません。どちらに立つかによって、意見は分かれますが、アメリカ国民からしてみたら、自分たちの利益にならないことに使ってきたお金を返せというのは、国益から見たら普通のことです。さらに、アメリカに採掘権を渡せば、なんかしらのカタチでウクライナに関与をすることにもなるので、ロシアからの均衡バランスをとることにもつながります。

 両国の閣僚クラスでは合意されていたものを、1人の意志ですべて打ち壊してご破算にしてしまったことに、ゼレンスキー氏の真意がどこにあるのかが解りません。少なくても、ウクライナには軍事力もなければ資金もありません。このまま続ければ、ウクライナはさらに多くの人が亡くなり、国を追われて難民になり国としては存続できなくなるでしょう。ウクライナの国家にとっても、この戦争の永続はプラスにはなりません。

 ゼレンスキー氏は、アメリカとの対談が破断になったら、すぐにヨーロッパに飛んでイギリスのスターマン氏やフランスのマクロン氏に会って、ヨーロッパに支援を訴えました。
 各国のトップは、 
「よくアメリカとやりあってくれた。」
という歓迎ムードでありました。しかし、ヨーロッパ庶民は冷たいまなざしで見ていたと同時に、関わってくれるなというのが本音だと思います。

この対談の破綻によって、ヨーロッパはウクライナと共に人生を歩む覚悟があるのか? 

 要は、いまの生活を壊してまでゼレンスキー氏に付いていくことが、自分たちのためになるのか、庶民レベルでは答えが出ています。しかし、上の人たちだけが、職権乱用の政治をしている空気になっています。仮に、EUがウクライナの後ろで戦争を支援するとなれば、今度は、ロシアは小型核弾頭を使って、泥沼の戦争に向かっていくでしょう。そうすると、EUにとってさらに経済も政治も壊れてしまい、EU全体の秩序がカオスになっていきます。

 日本では、またトランプ氏の強権ぶりを報道していますが、今回の最大のテーマは「戦争を止めるのか続けるのか」が焦点です。それ以上もなければ、それ以下でもありません。ゼレンスキー氏を支持するということは、戦争を続けるということでもあります。だから、EUで彼を迎え入れた人たちは「戦争を継続させて」戦争利権を担保したいという人たちが彼の側に付きました。
 スターマン氏・マクロン氏・EU委員長フォン・ディア・ライエン氏にしても、ゼレンスキー氏を支援して反米主義を主張してEUの結束をしていましたが、EUの中でも分断を起こしています。
 これを日本の大手メディアのように、トランプが悪いと見てしまうと、まったく逆の世界観になってしまいます。この欧州のトップの無責任な行動は、この先のEUの未来のGrand Strategyをまったく考えていません。そうでなくても、中東からの移民問題で苦しんでいるのに、さらにウクライナの移民や戦禍が拡大すれば、EUは崩壊していくでしょう。
すでにアメリカは、ヨーロッパの治安には興味がなく、ウクライナとも関わりたくないというのがトランプ政権の本音です。アメリカとロシアが対談をして平和合意をすれば、EUが宙に浮いてウクライナと共に没していくでしょう。そうすると、アメリカはNATOの加盟の意味がなくなり脱退して、いまの民主主義陣営の国際秩序は壊れて、新たな枠の秩序形成になっていくと見ています。先日のミュンヘン安全保障会議で、アメリカが意志表示をしたことは、大きな意味を持っています。そのストーリーが現実になっていけば、前回書いたGrand Strategyの話しにも繋がってきます。
https://note.com/takefuyu/n/n2985d9af31a6

  いま世界は、戦後続いていた欧州と北米の民主主義基盤が壊れようとしています。トランプ氏が、ゼレンスキー氏に言った
「ギャンブルで第三次大戦をする気か?」
という問は、冗談でなくいまヨーロッパの中で起きる可能性すら高くなりました。いま、EUの首脳陣はゼレンスキー氏をかついで民主主義を謳っていますが、それは綺麗ごとで戦争の拡大を煽るなにものでもありません。

―軍事バランスから見る世界の平和-

日本は「軍と平和」を分けて考える傾向がありますが、軍と平和は密接な関係があることを見ておかないと日本の将来を見誤ります。NATOの軍事比率を見てもわかるように、圧倒的にアメリカが拠出しているのが解ります。アメリカ・カナダが抜ければ、EUはロシアと対峙する力もなく、ロシアと対等の交渉すらできなくなるでしょう。今回、EUの首脳陣に対してイタリアだけが非難をして、イタリアはグローバリズムから自国中心の政治に舵を切りました。

さらに、アメリカはウクライナに軍事支援をしないことを発表して、衛星のデータ通信をしている「スターリンク」の遮断を発表しました。これによって、ウクライナの軍事力はほぼ無力化に向かっていき、ウクライナ人だけが亡くなっていく悲惨な状況になっていくことは逃れられません。
 今回のウクライナ戦争で、どれだけバイデン政権の下で支援を受けてきたかが、これから解明されていくでしょう。トランプ政権の主張は、このまま続けていけばヨーロッパ内部で分断が起こり、EUの中で民主的政治が成立せず内戦が始まるという助言です。それが、いま起きようとしています。
 この一連の動きを見ていて思うことは、EUの首脳陣も日本の政治家と同様に、Grand Strategyがない政治をして、その場限りの政治をしていることがよくわかります。その状況の中でも、EUで大きな動きが出てきています。

 それは、ミュンヘン安全保障会議の後に、ドイツでは選挙がありAfd「ドイツのための選択肢」というドイツの保守と言われる政党が、飛躍的に伸びてドイツ政治も大きく舵を切りました。いままでEUは、イタリアだけが保守政治に舵を切っていましたが、ドイツも自国ファーストになったということは、ヨーロッパの中でも分断が起きています。ドイツもイタリアも、グローバリズムとポピュリズムの政治に決別して、独自の国づくりに舵を切りました。図を見てもわかるように、ドイツはEUの中でNATOに1番拠出しています。このドイツとイタリアが抜けたら、さらにEUの軍事力は落ちてロシアと対峙する力はなくなります。いま注目すべきことは、第二次大戦の敗戦国の両国が「独自の国づくり」に動き始めたことです。

 この一連の動きは大きな地殻変動として、EUでも始まっています。ドイツは、いままではアメリカの核の傘の下で国防をしていましたが、アメリカの異変に気付き軍のGrand Strategyを変えようとしています。次の首相のメルツ氏は、ドイツ独自の核武装をする準備に入っていくでしょう。
 EUでは、戦後のイデオロギーの枠でない新秩序に向かって、敗戦国から国づくりを始めています。今回、日本の人たちが見ておく必要があるのは、ゼレンスキー氏に付いている人たちです。
 フランス人の民族学者のエマニエル・ドット氏は、いまのヨーロッパの首脳陣を「綺麗ごとの政治をして何もしていない。」と非難をしています。その部分は、アメリカの副大統領のヴァンス氏が演説で言っていたことと同じことを言っています。これが、偶然なのか意図的なものかわかりませんが、少なくてもリアリズムで物事を見ていかないと、国を大きく見誤った方向に進めていく主旨を両者は言っています。その意味を庶民は、生活的な皮膚感覚で感じています。
 リアリズムということに関して言うと、日本の報道ではロシアの方がウクライナ人より戦死していると報道しています。しかし、実際は逆でウクライナ人の方が多く亡くなっています。アメリカ軍の試算では、ウクライナ人は60~70万人が亡くなっていると見ています。
 トランプ氏が、先日「ウクライナは70万人も死んでいる」という発表は、出鱈目でなくアメリカの情報機関から出た数字です。日本では、ウクライナ兵は5~6万と報道されていましたが、実際はロシア人の兵士の5~6倍は亡くなっていて、報道も出鱈目なことをしています。今回のゼレンスキー氏の対談も、この事実から見ればトランプ氏が言っている、停戦の意味は違って見えてきます。
 日本も独自の調査や機関を作って、実態を調べる必要があると思います。ただ単に、お金をばらまけばいいという敗戦後の悪しき慣習では、世界秩序は保てません。敗戦国のドイツもイタリアも、民族生存競争に向けて独自の外交政策と軍事政策を打ち出して、「国護り」と「国づくり」に向かって進みだしました。 同じ敗戦国の日本は、いつ目覚めるのか。待ったなしの時代が始まりました。

Takefuyu|note