No.70/モノヌシさんの話

地津神札、物主(モノヌシ)・大物主神もお怒りで…
 
 
「心得違いをしているものが多すぎるのだ」
「……あの、何のことでしょうか」
「正会員どものことだ」
 ひぇっ、と首がすくむ。
「何が「己はちゃんとやっているから神も認めているはず」だ。まったくもって嘆かわしい。なにを以てちゃんとやったことになっているのか。何も世に出しておらぬではないか。(神の意志を受けたうえで)金が動いたか? 人が動いたか? 何か物事が前に進んでいるのか? 解決しているのか? 全く動いておらんわ、たわけものめが」
「うわぁ……申し訳ございません……」
「おまえが謝らんでよい。そら書け」
 はい、書きます。
 
「宗教家は罪いっとう重い(と伝えてあるはず)。神にでもなったつもりか。神にさせるのは神が認めた時だけと書いておろうに。会員ならば一通りは知識にも目を通しておろう。それなのに己の心得違いで勝手に得心がいったつもりになって、呼んでもおらぬのに社に顔を出し、これこれ勝手なことをするので認めてくださいとしゃべりだす。やかましいわ」
………………………………渋面で顔が凹みそう……。
「傍ら痛いです……」
「そなた、なぜ三輪に参らぬのだ」
「……呼ばれていないですヨ」
「呼べば来るのか?」
「行かなきゃダメな用事ありますか? 今、忙しいんですけど……まぁ、暇といえば暇ですけど……時間は工面はできるか……」
「それだ。おまえの方が変わり者だがまだ静かだ」
「ヤメテクダサイ私ハタダ出不精ナダケデス」
「本音を言えい」
「必要以上ニ神社ニ関ワリ合イニナリタクナイデス。カミサマコワイ。祟リコワイ」
「愛いやつめ」
「今の話のどこに、そんな反応する要素がありましたか!?」
「神を正しく畏れ敬っている証拠だろうに。あやつらはな、えー、ここではおまえを何と呼べばよいのだ?」
「huyutoriでお願いします」
「面妖な名前だな」
 バサッと言われた。ごめんなさい適当につけた名前で。
「ではトリとでも呼ぶか。トリ、よく聞いておけよ、あやつらはな、へりくだっているふりをして付け上がっておる」
「ヘリクダッテイルフリヲシテツケアガッテイル」
 頭の悪いオウム返ししかできなかった。
「自分が偉いと思うておるのだ。偉いと思っているうちはダメだ」
「えー……私だって自尊心なんかいっくらでもありますけど……」
「そなたな、それをちゃんと自覚して戒めたり弁えることができるなら何もないが、問題はそれを弁えぬのだ。自分が「できる」と思うておる。勘違いしていたと恥じて反省するならまだしも、厚顔無恥にも、自分がこうしようと決めればあとはするするとことが勝手に神の助けで運んでいくと勘違いしておるのだ」
「……するする進むどころか妨害だらけで石もぼんぼこ飛んできますけど……」
「それを堪忍してきちんと神からいただいた仕事を終わらせるなら、まだいい。途中であきらめるか、放置するのだあやつらは。言い出したあれはどうなったのかと思って様子を見たら忘れておるのだ。阿呆か。カラスでさえもう少し物覚えがよいわ」
「いや私もいくつか忘れたり取りこぼしありますけど」
「暇がないのならば仕方あるまい」
「みんな、忙しいと思います!」
「庇うな見苦しい」
「すみません」
「とにかく、だ。仕事をしたいと言うのなら、最後までやろうと思ったことをモノとして出すぐらいの気概はなくてはこの道は務まらん。形やモノにしなければモノにはならぬのだぞ。そのためには金も人も時間もいるのだ。ビジネスの基本というやつだ。それが分かっているのになぜこの学となるとそれときちんと結びつくものがおらんのだ。人間界と精神界が体の中で首と胴のごとく泣き別れでもしておるのか」
「頭の中で実学として結びついていないという可能性はありそうですね……」
「ホワイトコードどもがまだ実地に出すノウハウを教えているから、やっと三輪のまわりは物事が動き始めたわ」
「あれ、ホワイトコードたちはそんなに仕事をしているんですか」
「レイカイでも人界でも面目躍如の活躍ぶりよ。こまごまとよく働いておる」
「うーん……形にして出すためにはやることを細分化して目に見える化しなくてはいけません。その困難さと複雑さを単純化してひたすら消化する作業が必要です。が、その分解をする前に別のことに気をとられていると忘れたり、できなかったなぁと思いながら時間を過ごしてしまいます。こういう時におそらく頭の中に魔が差しているのです」
「それよ。そこまで言語化できるなら話は早い。そこに来て、「でも、魔なんて自分に取り付いているのか? 気分も特に悪くないし、今特に問題ないし、このままでいっか。頑張っているし、神様も認めてくれてるはず!」とか考えている声が聞こえてくる。わしはなトリ、喜劇を見に来た覚えはないのだが、自分が見ているのははて、喜劇だったろうか、それとも阿呆なのだろうか、と思い悩んだぞ」
「うーーーーーーーん……」
 自分が聞いているのは愚痴なのだろうか、それとも怒りなのか、呆れなのか、嘆きなのか……全部か……。
「これではあまりにもあまりだ。さて、どうしたものかと神も頭を抱えておるわ」
「あぁー……」
 ご苦労が偲ばれる……。
「仕方がないので神札を作って、ようやくいろいろと埒が明くようになった」
「もう、どういう順番でお姿をおつくりしたのか覚えていませんが、そんなこともありましたね……」
「宇津神札を見て、ああそうかこの形ですべて出せばよいのだと思ってな。体の中を個々に神がそうじすれば少しは埒がつくだろうと。果たして目論見は成功であった。やっと自分の勘違いに気づくものも多くなった。その分働いた料金分は、きちんと協会が潤うようにもできた。やれやれ、これだけのことをするのにこんなに苦労するとは思わなんだ」
「ほかの神々にも体の中の浄化をお手伝いいただいたおかげで、ずいぶん私も楽になりました。……何が入っていたのかいまだに分かりませんが」
「そなたの体に入っておったのは呪殺の力と悪魔の力、ほかに地の闇と祟り……モノヌシとクニヌシが反応しなかったのはな、財布ですべて事足りていたのよ」
「ああ、レイカミーレのおかげだったんですね……」
「全く、よくもまぁ人の体にあそこまで詰め込めたものだ」
「私がため込みすぎだったんですかね……」
「それもある、が……」
「が……?」
「ハタリというのは聞いたことがあるか」
「ハタリって、最終知識の中に出てくる言葉でしたっけ? ハタリは魔である、でしたか」
「そのハタリは、地津神札に三つに分割されて吸収された。それを日本のハタリというのだ」
 国主、物主以外の三枚の神札、かけることの三枚なので、合計九枚の神札を費やして、やっと吸収できた何か、ということになる。一日一枚、あるいは一分も持たないという速度で神札は黒く染まった。
「ええ? そんなの入ってたんですか、私。他の人にも入っていますか?」
「おまえが一番強烈だった。厄介なものを抱えてよくもあれだけ仕事をしたと思うたわ。ほかにも欠片ぐらいはあったが、やはり、セキの近くにおるというのが一番大きいのであろう」
「悪魔業界もね、私を適当に会長への砲台にするのはやめてほしいんですけどね、お台場かって思いますから。入ってこられるたびに焼き捨てて切り捨てて、キリがない」
「あちらも国がかかっておるから命懸けよ。その命懸けの戦いが起きている現場が物理的な戦いだけではないことを、理解しておらぬものが多い」
「……ホワイトコードたち、大丈夫かな……神すら死ぬ戦いですよね、これ」
「今さら負けはないであろうよ。精神学を学んだのだ、光の軍で言えば、霊としては眷属界の中でも格上の方だ」
「すっかり忘れていたんですが、そういえば、モノヌシさんのお使いとかいろいろしてたんですよね、彼ら」
 
(ここで、ハタリが気になり、最終知識を読んでいて)
 
「ここだと、ハタリは富士の結界が切れたところに登場している……? 伊勢に渡ってきたのは日本の記紀の結界が切れたから、日本のハタリってことですか」
「そう言うことになる。地が出るまでハタリを捕えておくお役目だったのかもしれん」
「いや、でっかいおふだ扱いじゃないですか、それ……そうだとして、誰がそんなこと指図したんです」
「そんなことができるのは一人しかおらんだろうに」
「シラヤマヒメ…………」
 ああ、うん……やりかねないですね……。
「長くなったので、この辺りにて終いにしたいのですが」
「最後に。心得違いを正した者から、きちんと神格を授けてやるから、キリキリ働けと誰彼となく申し伝えておけ」
「働くってお仕事が見えない人がいっぱいいますけどね……」
「頭が働いておらんか、身のそうじができておらんのだ。できれば自ずと見えてくるはずのものが見えぬのはまだまだ未熟の証よ」
「はぁ……」