No.65

セミナーが終わったらここで公開してもいいよ、と白山比咩から許しが出たので。

この数週間、私は、伊勢と日本列島の形代のようなことをやらされていたらしい。……と、ヒメから聞いた。
 
 
*伊勢、奪還す

二千二十四年の暮れに、記紀の結界は人知れず切れた。それと共に、アメリカにいた闇の本体、王のようなものは、日本に移ってきた。
それは、伊勢を目指した。
日本神界や天皇に縁が深い場所。そこをとれば、日本の上に立てるとでも、思ったのか。
いずれにせよ、伊勢は深い闇の中に包まれた。

伊勢に行かねばならない、と会長が言った。

同行したはいいが、いろいろな要因が重なって、体調が絶不調だった。

ここ数ヶ月、ずっと家の、私が座る定位置に謎のエネルギーがかかっていたからだ。

今から思えば、それは闇にかかられた日本列島と、伊勢の様子を極小規模で表していたのかもしれないが、とにかく家にいるだけで体調が悪くなった。

「君、その波動、悪魔の手先やないか」
「これでも一所懸命処理し続けてるんですけどねー……ああー、伊勢が見える…悪魔だらけの伊勢がみーえーるー……」
「伊勢を呑み込んでるのか、君……」

助手席に座ってへばっていたものの、なんとなく予感はしていた。伊勢で私は何かの役をするんだろうと。
しかし、この会話、実は重大な意味を持っていたことがのちほど判明した。

内宮に着いた。

鳥居をくぐっても、境内に神気はどこにもなかった。下界と同様の場と化していた。結界が破れている。分かるものにしか分からない惨状が広がっていた。伊勢は悪魔の手に落ちていた。

一周した。
参拝した。祈っても、何も起きない。光が立たない。

これがうまくいかなかったら、精神学の存続レベルの危機……と会長から語られていたのに。

休憩所で二人してどうしたものかと思案中、お通夜よりひどい、重苦しく深刻な空気が落ちていた。

一案、捻り出した会長がすっくと立ち上がったので、私も立ち上がった。

数分後、境内を再び歩く私の黒いコートの陰、ズボンの端にはこっそり伊勢神宮のお札が挟まれていた。

道すがら会長が説明してくれたことには、私は今、小宇宙の中に伊勢をすっぽりと呑み込んで、闇の化身と同様の状態になっている。
そこに伊勢のお札を持たせることで、伊勢神宮と同じ状態を再現した。

そこにも光を通して、伊勢に光の柱を立てる。

という作戦らしい。
なんでそれで通るのか。精神界における相似形と型の原則がそれで一応成立するからだ。大本教の出口王仁三郎が説明していた、大本は日本の雛型、日本は世界の雛型だ、という話の極小版である。

果たして、再び拝殿の前に立てば、伊勢の境内に無事に光は立った(闇に汚染されているせいであんまりよく知覚できなかった)。

十二月二十三日のことであった。
 
 
*地津神札、増える

「年内に2枚、追加で少彦名と大山積とを描いて欲しいんだけど」
それから数日もしないうちに、訪れた会長がこんなことを言った。

私は半眼で事務所のカレンダーを睨みつけた。十二月二十五日。年内の仕事終いまで今日含めて残り三日。

「あと年内何日あるか分かって言ってます……!?」

少彦名改め知主は、幸いにもすぐできた、が。

「線が太いし黒すぎんか」
「分かりましたよ薄くして細くします」

大山積が難航した。
本神が地味好きであったのが災いしている。
できた線画に会長が渋い顔をした。

「着流しじゃ威厳が出ぇへんやん。もっとこう、鎧とかさ」

会長でなければああ゛ん!?と言っていたかもしれない。

鎧と軽々しく言うものの、日本鎧がいかに手間暇かかる職人芸によって作成されたもので、イラストに起こすだけでどれだけ構造をしっかり予習しなければそれらしく描くことも難しいかもご存じの上で言ったんでしょう、か?
このカツカツのスケジュールで鎧なぞ工数のかかるものをご所望と、なるほどなるほど……。

間に合うわけあるかーーーーーーーーーー。

「年内間に合いませんし原稿落とすこと確定しますけど。イイデスヨネ」

押し殺したけど立ち上らざるを得ない怒りのせいか、会長はさっさと立ち去った。
鎧と鎧直垂と籠手の模様の面倒さと言ったら……さらに私の家や作業場所には、地津神札を出すのを妨害しようとするように、すさまじい力がかかった。肩が強張り、交感神経が暴走する。心臓に負荷がかかり、血圧も上がった。もはや呪殺の波動に近い。怒りと恐慌に振り回される。その度に審判の層まで上がって焼き尽くす。キリがない。

ほとほと嫌気がさすも、やらないことには終わらない。
年明け、ラジオを収録しにきた私に会長はさらに無情な一言を告げる。

「大国主も追加になったからよろしく」
「はぁ!?」

積み上がった作業量を思って遠い目をした。間違いなくいろいろと割り込みが入る中、一月のセミナーまでにすべて仕上げて終わらせることはまあ、週末を返上すればなんとか…余裕持たせつついけるか…?と頭がそろばんを弾く。

会長の要望反映の修正の時間も入れてギリギリか。原稿は間違いなく進まない。フザケンナ。波動の攻防で一人日本にかかる闇本体の波動とアンチ精神学どもと心臓を力ませ動悸に襲われ血管ブチ切れ寸前の戦争しながら描いてるのに、この上このスケジュールでさらに追加だと?

でも描かなきゃこの波動も処理できないんだろうなぁと分かってしまった。卵が先か鶏が先か。本当にフザケンナ。

あれだろ、伊勢の結界が切れなきゃこの神々出せなかったんだよな。それで年明けの発表題材にそら選ばれるわよね。
スケジュール的にそうなるよねぇ!!!
分かるよ!でもこのスケジュールは絵描きにはギルティ(有罪)!

無茶なスケジュールをぶん投げてくる精神界の神様方に「もっと前から決めて言え」と本気の泣きを入れて凄みつつ()絵を描くつもりだったが……悲しいかな、一月五日に事件が起きる。
 
 
*アンチ精神学、ついに解析される

――長らく会長や私や数々の会員を悩ませ思考を妨害してきた闇の力。それは会長いわくアンチ精神学と呼ばれている。

二千二十五年一月一日、つまり元旦。年明けに集まる親族をおもてなしするために予約していた和菓子を取りに行きがてら、近所の寺社に初詣をしていた私は、どうなんだろうと思いながら効果もあるわけなさそうな身代わりお守りを手に取っていた。

すると頭に白山比咩の声が響いた。

「神棚にお供えしてくれれば、光が出るようにしてあげますよ」

果たしてご利益がある感じになるのだろうか?
ダメならダメで、話の種に会長に見せてみようか。
そう思い、買って帰った身代わりお守りをそっと家の神棚に乗せた。数分で済み、お守りからは何かの波動が出ていた。

あとから思えば、白山比咩の結びの力で、その寺社の宗教波動が出ていたのではないだろうか、と思う。

その数日後、五日になると、会長や他の会員さんが数名事務所に集まった。私はふと、そうだ会長に見せようと思っていたんだったと思い出して、お守りをバッグの中に入れた。

もうよく覚えていないが、それなりに皆さんが持ってきた議題が消化され、なぜ精神学が受け入れられないのかという話と、現世利益の話になった時、満を期してお守りを取り出した。

「これ、なんか入ってるよ」

会長が顔をしかめたので、とりあえずお守りとしてはダメダメである。知ってた…。

なぜ、精神学が興味を持たれず、なぜ、スピリチュアルや他の宗教や都市伝説はもてはやされるのか。

私はそれを精神学を目指す魂の「ふるい」だと表現した。
「信号が特に強い人以外が精神学に辿りつかないように、興味をそこで他のものにそらして、現世利益だけで話が終わるように、足切りやふるいがあるんです」

そして、ふと気づいた。最近、波動戦争に対抗するために護身でかけている波動ネックレスから光が失せていた。またネックレスが死んでいる……。

会長にも確認してもらい、とりあえず話題に出ていたこのお守りの波動を処理してみなければならない、という流れになったような気がする。

そこで、宇宙から降りてくる波動が最初に使われた。過去の宇宙由来の暗黒や反暗黒のシールが使われたりなどしているうちに、宗教的な寺社で感じる波動が最初に再現された。
次はこれ、これ、と進んでいくうちに、信者が集まり、集団幻想が生じ、そのエネルギーが集められる、波動の変化の過程が再現された。

お守りに反応する波動シールは、宗教の作られ方、成立の仕方を教えてくれていた。
次にこれ、次はこれ、と、指先が吸い寄せられるように教えてくれる。お守りに貼る場所すら、波動シールに指定される。

「最後の審判、地獄シール……」

そして、最後に、最初と同じようにオメガポイント。
そうすると、自分の中にあったアンチ精神学の思いの根がとれた気配がした。体がいくらか楽になってきている。

「お守りを処理したのに、なぜhuyutoriさんの波動が解消されるんですか?」
「身代わりお守りだからだと思います。形代、ということかと……」

そして、会長が「つまり、宗教すら、アンチ精神学の迎撃システムだったというわけだ」と分析結果を説明してくれた。私の波動ネックレスの光は復活していた。問題が認識され、解決されたからだ。

宇津神札がなにか喋っている。
もしかすると、この波動にも対応することになったのかもしれない。

「今日、これが解決されることになっていると天から伝えられていたんだよ」

会長が言った。

元旦にしょうもないお守りを興味本位に買って神棚に供えたという行動が、地球レベルの問題を解決する重大な伏線になると誰が予想しただろう。神業でしかありえない。

しかも会長は、ほぼほぼ関与していない。
横で解析される様子を眺めて、問題の全体像を理解しただけである。

精神学をやっていると、こんな物語的な方法で、精神界としての現状への対応は進行する。

なお、十二月中までに二枚できていた新しい地津神札は、波動の処理がされて大変楽になると概ね好評で、しかし全ては出来上がっていないので処理を完了できず、残りの完成が待ち遠しいと期待の目を向けられた。やめてそんな目で見ないで。今必死に頑張ってるノ。

しかし、この日、私にはそれどころではない問題が持ち上がっていた。

――横浜で親戚の家族が亡くなったと、訃報が飛び込んできたのである。

さよなら三連休、と私は遠い目をして呟いた。移動やもろもろで、平日は二日、潰れることになる。
地津神札の完成はさらに過酷なスケジュールとなった。ホワイトコード戦記の原稿、いつ書けるんだろう。
 
 
*地津神札、完成する

「十四日中には全部ないとまずいんやけど」

金曜日の夕方にそんなことを言われても聞いてないんですが??
あと数日あると思っていたのに。
十日の夕方、恨めしい目で会長を睨む。この三連休、いや二日でほとんどの作業を終えなくてはならないのに、まだ大山積の大鎧が完成していない。本当に手間暇がかかっている。フザケンナ。

翌日はラジオの収録で一日潰れる計算なのであった。そのラジオの収録中、会長がやっと私の現状に正しく気がついたらしかった。

「君、そうか、十二月からこっち、ずっと闇に乗られた日本列島と伊勢の役割を続けてたのか」

やっとお気づきになったんですか…と私は心の中で遠い目で呟いた。地津神札を世に出すために描いている間、ずっとここ数ヶ月、この波動と戦争してきているんですけど…(なんだったら諸事情で並行して別の問題も耐久戦で処理していた)。常人なら下手したら発狂するか死んでいる。これが精神学だからそうなっていないだけで。
光文書に公開された六六六の状況が、体の中でずっと継続していたというわけである。

これを処理できるように地津神札が完成して、そのあとはたぶん、この地獄の三段目に落ちて闇にどっぷり占領された日本列島や伊勢と同期するとかいうふざけたお役目から解放され、会員さんや世の中にこの状態が段階的に適用されていくことになっているんだろうな……アーアー……。

据わった目で月曜日の夜、大山積を描き上げて、「ちょっとこの剣違うんだけど」とまたも言われて時間がないのになーと、十四日火曜日の朝に修正した。
大国主はぽっちゃりかわいく描いてね、と言い残して会長が事務所に出かけていく。

荒んだ目と頭でやっと最後の神札を描き上げて、「ちょっと、刀は日本刀じゃなくて別の刀にしてほしいんだけど」と言われて流石に心身の限界を感じ、コーヒーを淹れながら少し泣いた。あれこれ指図されながら直した。やっと終わった。

本当に本当にフザケンナ……と思いながら、ぼろぼろの心で家に帰って寝た。
翌日、年末に三枚目、年明け以降に新しく完成した残り二枚が加わった地津神札で、ひとまず、闇の波動との凄惨な戦争状態から、心身はやっと解放された。
すさまじいことに、毎日使っても、地津神札は満杯になっては信号を発した。ただ、使うごとに体の負荷は減り、心臓はゆるみ、感じる血圧も下がっていった。

セミナーまでの辛抱です、と白山比咩の涼しい声が、日本列島と同期をとるなんて、んなアホな、な状況の終わりを告げる。

あとは戦記の原稿だけだが、第三部のエネルギーは、この地球的な闇の波動の根や、アメリカの闇と深く繋がっていることがもうすでに分かっている。
伊勢の事件など、順に波動的に解いて処理していかなければ、原稿の完成も難しいという時系列であるのだろうと見ているが。

そろそろ、アメリカに働いている力を完全に切るために、頭の中のデータを出力しにかかる時が来た……と思いたい。

今度こそ邪魔を入れられたら、すでに予定した締切から原稿の完成が一カ月遅れになる見込みだというのに、癇癪を起こして泣き喚くかもしれない。誰がそのスケジュール引いたと思ってるんだ。それをぶっちぎらざるを得ない状況にしたの誰だと思ってるんだ。

もう誰もパソコンを壊さないでほしいし、余計な仕事も投げてこないでほしいし、事件を起こさないでほしい。

浄化力が…………足りない…………。