地津神札、地祇(チノカミ)・大山積(オオヤマヅミ)さんとの話
「……えー、地津神の他の皆さんとりあえず一通り喋っていったので、なんか喋っていきますか?」
「とはいっても、私から特にそれほど言うことはない……が……」
「ええー……地の怒りとか天の怒りの代弁者だって書いてあるんですけど……」
「天変地異の情報なんて、知ったとして、別に大したことはない」
「なぜですか?」
「防ぎようもない、対策をしたとしても、死ぬ者は死に、生きる者は生きる」
「……それ、防災対策!って人間界で言っている意味がないということですか?」
「神のやることを見ていれば分かる。信じられないような死に方をする一方で、奇跡のように生き残る人間がいる。それはほとんどの場合、神が生き残る人間を選んでいる」
「怖い話じゃないですか……」
「津波が出る。そうすると海に吞まれる。だが、吞まれない人間は、吞まれないよう導かれる。初めからその場にいなかったり、居合わせても不思議と逃げられる場所が見つかる」
「んん、それなら、予言や予告はなぜ出るんですか?」
「知っておくことで逃がすこともある。信心深いならそれで神の道に入る時もある。予言や予告をするのはなぜかというと、先のことを証することで、いつから決まっていたことなのかを示す意味もある。二千年の契約があり、千六百年の契約がある。百年という契約もある。なら、始めに契約書として示しておくことは大事だろう」
「あれって契約書だったんですか」
「新約聖書、旧約聖書、と訳されたのには意味がある。約束の書であり、神が約した神聖の書ということだ。契約の民とは神のワケミタマの民だが、それだけに神の罪も背負っていることに自覚がない」
「原罪なんて話もありましたけど」
「人類は皆原罪を背負っている。神の魂とて、罪があるものはいて、その問題や課題、テーマを解決するために人間がいるのだから、人間の心は神の罪を必ず映す」
「それが、人類に課せられた、聖書の神の十字架というものですか」
「先に聞いていたろうが、全ての民は生まれたのだ。聖書の神の約束を果たすことで、人間の闇はある程度、解決された。次は、もっと大きく深いテーマが降りてくる」
「難しい話になってきた……」
「難しくはない。簡単に話そう。神の約束というものが最初にあって、それを果たすために、二千年くらいかかるだろう、と試算が出た。だからその間は必要なものを揃えておいて、時が来たら順に使うように用意した。それだけだ」
「ある意味、一つ大きなプロジェクトが終わったし、次はもう少し難しくて大がかりなものに挑戦させてみようか、という話になるんですか?」
「物語は大きく発展し拡大する。聖書の神編が終わったので、次は宇宙の神編になる。宇宙の神編が終わったら、次はもしかしたら宇宙の意識編になるかもしれない。ただいつかは物語は終わり、本は閉じられ、世界は完成する」
だめだ。こ、これは話の抽象度が高すぎて、分かる人は分かるけど分かんない人は分かんないやつだ……!
「まぁ、話を戻すと、記紀もまた契約書なのだ。神が書かせた契約で、その間は、天照大神の物語、天津神の世界の結界が働く、という契約だ。国津神はその間国譲りをすることになった。納得しないものもいたが、従わせた。そのツケはとりあえず今代になって支払いが始まっているが、すぐ終わる」
「物語が完結すると、契約の効力がなくなって、結界が切れる。そういう仕組みなんですね」
「その通り。地の神が出たのは記紀の契約が終わったからだ。記紀の結界は曲がりなりにも巨悪を締めだしていた。それがなくなったからと喜び勇んで移ってきたハタリや大悪魔を逃がさぬように仕組みがある。記紀が終わっておびき寄せられた魔は、そこに宇津神と地津神という巨大な神々が生まれあるいは復活したことを知らなかった」
「精神学も出てきて、十合目の神としての神威を出した神々様ですものね……。……聖書の神って、なんで十合目なんですか? 日本神界は八花弁だったのに」
「それは国主と話していた別天神の話と関係している。九、十(コト。ここではコトアマツカミとコト(別)の世界にいた地の神の力を指して言っている)が足りなかったから、十ではなかったのだ。十の力を出せず、八分止まり」
「ああ、だから天地揃わないと無理だよって話があったんですね」
「その通り。聖書の神が初めから十合目の神だったのには訳がある」
「訳……? 日本神界が八分で記紀の結界を作ったのにも訳があるんですか」
「聖書の神は曲がりなりにも宇宙を知っている神だ」
「…………うん?」
「記紀の神々は宇宙を知らなかった。宇宙を知っているのは神世七代までがせいぜいのはずだ」
「えっ。宇宙を知らない……?」
彼此の知識の差が光の力の差に対応しているとしたら、それは致命的な差にならないだろうか。少なくとも聖書の神はビッグバンまでは知っていたから、聖書の文明から出た科学もそこまでは至った、ということになっていたはず。
(記紀の神話を調べてみて)
「うわ……つまり、最低でも、宇宙を知っていたのは、神世七代の最後、イザナギとイザナミが揃っていた場で生まれた神まで、ってことですか、これ。フツヌシとタケミカヅチがカグツチの系譜から生まれたことになってるってことを見ると……」
「私もそこにいる」
「……つまり?」
「知っている神は知っていた。このまま記紀の結界を結んでも、必ず日本は聖書の神に吞まれる。だが、それでよしとした」
「その敗戦の時代に、日本人のワケミタマが入れ替わっていた、という情報もあったんですが……」
「日本で克服すると決まっていたのだから、聖書の闇を招き入れるためにはそうするほかない」
「おおぉ……」
「いや、待ってくださいよ。普段何もせず黙っているのにさらっと重要なこと知ってましたよって漏らすタイプのお人だなんて、私に分かるわけないじゃないですか。今回が一番さらっと重大な秘密明かされたやつじゃないんですか、これ」
「もう終わったこと」
「……『全てが終わるまで秘す』……そうですよね……」