No.74/悪魔って、そういうやつ

~タイタニックとか、南北戦争や西南戦争とかに通じる話~

 
~ことのあらまし~
 あるプロジェクトの関連で、複数人の会員さんが集まっている中、音声を収録することになった。
 
 その時の話で、あの坂本龍馬は幕末どういうつもりで動いていたんだろうね、という話になり、実際に呼び出して聞いてみては?という話になった、ようだ。
(過去の霊は、光がない状態だと、死後は停止した状態でメモリー、記録として存在するはずなので……精神学としては、能力や適性があると、探査して、話を聞くことも一応できる)
 
 霊媒体質のYさんが向いているだろうと、お話の聞き手として抜擢されたのだが……、なぜか別の作業をしていた私の喉元にも気がつくとマイクがくっつけられていた。他人事のように過ごしていたのに、なぜか当事者になっていた。
 それで坂本龍馬の霊をYさんが呼んだのだが……、
 
「トリさんのところに来ちゃったみたいですね」
 
 どうしてそうなった。私、今別の仕事してるやん。
 その時、妙に左側の頭頂部に重たいエネルギーがかかっていて、違和感があった。
 別の存在がかぶっているので、自分のことに一枚重たいヴェールがかけられたように感じた。
 
 いろいろ質問がされて、受け答えがあった。
 その記録は別途どこかで公開されるかもしれない。
 
 その前の日にも、タイタニック号悲劇の裏で、実は……という話があって、そこに関わっていたとされる、J.P.モルガンとそこに入っていたと思しき悪魔が私のところに来てしまった、という事件があったのだが、実は、これが、なぜ龍馬の霊までもが私のところに来たのか、ということの答えだったらしい。
 
 
*帰りの飛行機の中
 
 
 そこはかとなく頭が痛い。そしてそれなりに気分が悪い。首の緊張が全く取れない。
 飛行機の座席についた後、離陸までの間、そんな感じだった。会長の隣で頭を抱えて悶々とつらさをやり過ごしていたところ、ふと、波動を宿したプラチナペンダントに拒否反応を覚えて、会長も顔をしかめていたし、ああまたこれはぞろ何かがあったようだぞとチェーンを外した。普通は守りになるはずのペンダントトップなのに、なぜか私の場合、しょっちゅう危険信号を発することの方が多いのだ。
 
 それで会長に見せたら、「悪魔が来てる。何か言いたそうだよ」と言うので、スマホにぽちぽちと、やり取りの記録を始めた。
 
 その悪魔は自分の素性を、坂本龍馬のところに取り憑いていた悪魔だと明かした。
 龍馬は近く命の書に登録されるだろうということになり、そうなれば自分は行くところがないと私のところに来たのだそうだ。それで、Youtubeのラジオか、動画番組か、に、自分も出してほしいと言い出した。
 
 それでYさんのところではなく私のところにかかったのか、と、不可解な霊のかかり方の背景を会長と私は理解した。龍馬に憑いていたというこの悪魔の波動がYさんにかかったら、下手をすれば体調を崩して寝込むはめになった可能性がある。
 悪魔がやって来たときに、頭痛と気分の悪さだけで済んだのは、私がいろいろな事情でとりわけ波動に対して頑丈にできているからに過ぎない。同じく悪魔憑きだったモルガンも同じ理由で、Yさんよりも私の方が被害が軽くなるという理由でこっちにきていたに違いない。
 
――ということで、以下が、その記録。
 
 
「あのラジオやテレビは人類の集合無意識にも蓄積される話らしいから、あまり変な話を挿入したくはないんだけど……君たちがそこに介入して何を話してくれるのかな?」
「さっき、ギャラリーで言っていた話が、いつ明確な形で公開されるか、されないかという話で、どうなるか、分からないだろう? なら、人の目に触れたり、耳に伝わる場は、キミの方がいいだろうと思ってね。キミは、そういう発信をするのが、ずいぶんとお得意のようだから」
 
 話し方を聞くなり、あ、これはそれなりに格が高い大物めの悪魔だ、と気付いた。
 
「頭痛に訴えるのはやめてほしいんだけど…」
「その方が、異常を感知しやすいだろう? 最終知識にもあるように、残念ながら、魔の波動は、君たちの体にどうしても拒否反応を起こさせるようなので、そればかりは致し方ない。波動ネックレスは、異常検知の信号としてとても優秀だ。神も悪魔も、キミに伝えたいことがあれば、そのネックレスに知らせさせることだろう」
 なにその迷惑な仕様。神だけならまだしも悪魔まで来るの?
「はた迷惑な話だ……」
 抗議の意味もこめて、そういう思いの返事を送った。
 
 
「皆、悪魔が、いかに邪悪なのか、理解しているのか、いないのか、疑わしいね。人間は、人が良すぎる。日本人は、人が良すぎる。だから騙されるし、御涙頂戴の非合理な話にも、ころりと流される。お仲間にとって、実にやりやすい話だ」
「それで?」
「そろそろ、この邪悪さを、学ばれた方が、よろしいだろうと思うわけだ。坂本龍馬が、言っていただろう? 彼は純粋に国をよくするために、戦費の調達をして、武器を融通してもらった。グラバーは彼を厚意で助けたつもりだった。でもねぇ、結果として、南北戦争の背後にいた我々は、その後の西南戦争でも、ハハ……、血を啜ることができたわけだよ。有名な言葉があるだろう? 地獄への道はね、善意で舗装されているのさ」
 みんながそれぞれに良かれと思ってやったことの裏で、悪魔の【親切な】悪意があって、全て思い通りだったわけだ。笑いが止まらなかったらしい様子がうかがえる。 
「波動が読めるのならば、君たちは、その直感で我々の正体が分かり、近づいてくる人間の正体が分かり、善意で動いていると信じている人間の背後にいる我々のことが分かるはずだろう? あまりにも、鈍すぎて、ナイーブにすぎて、敵ながら、大丈夫か? と心配になるほどの、お人好し加減だ、ハハハ。誰もが良いことと信じているのさ、我々がそう信じさせているのさ、よくよく考えたら……ほんとうに? と思うはずなのに、みんな論理的に考えずに、そうだそうだと正義に酔うのさ、そうして、血まみれの歴史が作られるのさ。滑稽、実に滑稽、笑いが止まらない。それを単純に憎んだり恨んだり、悪いやつだと憤慨している人間も、滑稽、滑稽。そうして憎むことさえ、思う壺だと気づかない」
 悪魔に簡単に煽られて、いいように操られて、対立する人間たちの姿がそこにある、と言いたいようだった。
「分かるかね、理だけが、悪魔である我々に対抗する唯一の方法なのだよ。冷静さを失ったら、終わるのさ。全体を見て、流されない視点を持っておかねばね。神たる視点を持つならば、分かるだろう? おふだに封じるだけではなく、理解せねばならぬのだ。闇を光に変えるために、君たちの頭脳があるというのに、もったいない話だ。本当ならば、我々は、もっと早くに負けていたと思ったのだがね。しっかりしてくれたまえよ、こんなことでは、悪役を張る我々が困るではないか。敵があまりに弱すぎる」
 
 遠回しに全員アホだと言いたいのか。煽ってくるじゃないか。
 
 続きはないけど、これは、一応、公開はしてほしいらしい。
 
「なぜ、キミにこんなことを伝えるのか、分かるかい。精神学は、悪魔でさえ、待ちわびていた学問なのだよ。悪魔の中にも、お役目を持った者がいて、とっとと、役割から解放されて戻りたいものがいるわけだ。本当に悪いやつもいるが、本当に悪い、なんてことを考える時点でもう、おかしい話だね。良い悪いにとらわれない方がいい。正しいか、正しくないかを考えた方がいい。それが、理を掲げるものの、キミたちの義務だろう?」