Vol.564

三十八度線

この二十九日の早朝に北朝鮮のミサイルが、北海道の上を通過して、Jアラートが発信されました。トランプ大統領のアメリカは、水面下で北朝鮮と交渉していることを伝えられていましたから、グアム島ではなく、日本の領空領海ならば、という暗黙の了解があったと推測することが、誰にでも可能になりました。
商取引の発想の大統領は、自国の安全のみを優先して、日本列島が北の核兵器の脅威にさらされることを容認するかもしれません。
この時点で、戦後この国に核兵器を開発されることを絶対に許してこなかった戦勝国アメリカの立場は崩れます。
いまトランプ大統領のアメリカでは、人種差別をテーマに、歴史上の負の遺産を排除しようとする動きが、急速に進んでいます。これは、私がかつてお伝えした通りの、スペイン帝国を無気力化させた、アメリカの戦略が自分に向っていることを示しています。アメリカ帝国によるパックス・アメリカーナは、一世紀も持たずに消滅の方向に進んでいるといってもいいのです。
南軍の司令官であったリー将軍の銅像を排除してしまうということは、再び、南北戦争のような精神状況下にアメリカが向うということを意味しています。一般の日本人は、ほとんど知らないことですが、復活した薩軍のものたちが、何らかのはたらきかけをした、ワシントンのアーリントン墓地は、実はこのリー将軍の邸宅をリンカーン大統領の政権が、税の滞納を理由に没収したところなのです。
精神界のデータでいうなら、これによって、アメリカの絶対的な優位を支えてきた、国民的な軍への信頼、または忠誠がゆらぐことになります。
戦後の日本を一貫して支配してきたのは、横田幕府という言葉があるように、アメリカ政府そのものというより、アメリカ軍でした。そのアメリカ軍が、日本を事実上支配して、知ったことは、朝鮮半島と中国大陸に対して、戦前の大日本帝国が実施した政策は、ある種の合理性を持ったものだったということだといわれています。
この国の明治維新の背景には、アメリカの南北戦争の終結によって生じた余剰の武器弾薬の処理という商取引があり、この戦争とマネーの関係は、西欧の植民地支配から今日まで続く、資本主義のテーマでもあります。
アメリカは、大日本帝国を打倒して、その帝国の領域の日本列島以外の地のほとんどを、共産中国と旧ソ連に提供しました。
それが、三十八度線の戦略的意味でした。それは、いまに続くアメリカの悩みの種となったのです。
日本が育てた、旧満州の産業基盤なしに、共産中国の建設もなかったことは、毛沢東自身が、東北部の重要性として、記録に残している通りです。その共産中国と、反日とマネーのルールで付き合ってきた米中国交正常化をはかったニクソン大統領とキッシンジャー大統領補佐官以降のアメリカの政治戦略が、ここに来て、破綻しつつあるということです。
これから、精神文化的には、いまあるアメリカの大統領選挙のシステムで当選した人物が、アメリカ軍の忠誠心をつなぎとめられるかどうかという実験がはじまるといってもいいのでしょう。
大日本帝国陸海軍は、その内にかかえていた問題によって、アメリカ軍に敗北しましたが、その学びをした日本軍が、将来のアメリカの覇権を脅かすという恐怖のシナリオが、歴史の真実のなかにはあるのです。
昭和天皇が、英米とは民主主義という国柄を同じくするという見識を持ち、独伊との同盟には反対の意をあらわしても、その方向につき進んだ政治指導層の責任を問わずにここまできた結果が、現在の日本だということに気付かないと、明治維新から今日までの学びは終わらないのです。
明治時代の清国は、現在の共産中国よりもはるかに強大な存在として、そこにあり、いまと同様の価値観で行動していました。
アメリカ軍は、朝鮮戦争を戦うなかで、戦前の日本軍の復活を希望しましたが、彼らの洗脳が成功し過ぎて、日本の再軍備が達成できなかったのです。今回の北朝鮮のリスクで、アメリカの洗脳から日本人がどこまで解放されたのかがあきらかになりますが、その進行状況とアメリカの衰退が同じペースでなければ、この国は共産中国の強欲に吸収される危険が高まります。それもまた、天の仕組みなのでしょう。

二千十七年八月三十一日 積哲夫 記