No.29

「うっかり泣いてしまった話」

 

 

仮想通貨の本をもらって、勉強をしていた時の話。

 

夜中の12時半ぐらいまで、ずっと仮想通貨の本を読んでいた。

 

EthereumとかBitcoinだとか、そういった仮想通貨の仕組みを、概要だけは知っていたのだけど、改めて知った結果の感想。

 

「なにこの馬鹿な仕組み」

 

すべての仮想通貨の取引は、ひとつの台帳に記録され、その台帳の内容は信頼性のある方法によって書き込まれる。(ちょっと前のブログは厳密に言うと若干仕組みが違ったっぽいね、ごめん)

 

で、ある程度のまとまった取引ができたら、それを書き込むために膨大なデータの処理が必要になるので、書き込み担当の人にはいくばくかの報酬が支払われる。

 

ただ、この報酬を獲得できる人――世界中のサーバーが挑戦している、最後の行を書き加える権利を、どうやって決めているか?

 

すべての出目でゼロが出るまで、18個の10面ダイスを回す、スロットゲームだ。

 

どれだけ早く、データ処理をして、スロットを回すか。試行回数を重ねてスロットを当てられるか、という運任せの賭け事で、回せば回すほど有利。

 

ただし、この試行回数を増やすために、莫大な量のマシンと電力が必要になる。

 

「こんな電力問題を放置しておいて、何がSDGs、持続可能な開発なのですか」とはシラヤマヒメの言。

 

未来の技術とかもてはやしている割に、電力問題が深刻すぎる。

 

中国やイスラエルで、電力を食いすぎるって、すでに問題視して禁止する動きが出始めている(もっとも、自分たちの権限で管理できない性質を持ってる仮想通貨を国内で潰したいだけかもしれないが。)

 

本の著者は、最後に、ベースインカムの問題について触れている。

 

ベースインカムがあれば、別の道を歩んだかもしれない親子の話が、そこで挙げられていた。

 

お金がなくて、マンションの一室を強制退去されることが決まった母と、中学生の女の子がいた。

 

強制退去の執行日になったその日、やってきた退去の執行人が部屋に入ると、母親は女の子を殺害していて、娘の体育祭のビデオを部屋の中で眺めながら、息絶えた女の子の頭を撫でていたという。

 

 

夜中なのに、たまらなくて、涙が止まらなかった。

 

ごめん。ごめん。ごめんね。ごめんなさい。

 

ここまでたどり着くまで、二十五年も、かかってしまった。

 

遅すぎた。もう少し、早く来られたら、もう少し、私がちゃんと勉強できて、前に進めていたら、もっと早く世界は進んで、結果は、違っていたかもしれないのに。

 

もう、どうすればいいかは分かっているのに。私が死なせたようなものだ。私がぐずぐずしていたら、もっとみんなが死んでいくんだ。

 

この世界には、そうやって、絶望して滅びていくたましいが、あといくつあるのだろう。

 

そのたましいに、死ななくてもいいんだよ、と言ってあげられるような世の中になるまでに、あといったいどれだけの時間がかかるのだろう。

 

私が、やらなくちゃ。ちゃんと、この時代を終わらせなくちゃ。

 

彼女たちの絶望が、重い。

できるのだろうか。やれるのだろうか。

 

私の肩に、全部、全部乗っている。

歯を食いしばりそうなほど、重くて、悲しい。

 

「あなたが悪いわけではありません」と、神さまが言う。

 

分かっている。歴史にイフなんてない。

時間は決まっていて、その通りにしか、物語は進まない。

 

だけど、涙が止まらなかった。頑張らなきゃ。

もっともっと勉強して、もっと考えて、早く、作らなきゃ。

 

「頑張るから。

神さま、私、頑張るから、絶対、絶対、こんなこと、終わらせるから。

だから、だから、神さま、お願い、私に、力を、貸してください」

 

もう、こんな世界は、嫌だ。

 

 

ぐすぐす言いながら、少し落ち着いてから、布団の中に潜った。

その夜はなかなか眠れなかった。