No.22

「雑談」

 

「イエスさん。新人類って、どんな子供たちなんですか?」

「君はそのプロトタイプだろう?」

「それです。私は精神学協会に入る前、おまえは俗に言われるインディゴやクリスタルチルドレンとかではなく、人類のプロトタイプだと、精神界の存在から――Sから言われてきました。私の人生がどれだけ人間として成功したかによって、今後生まれて来る子供たちの形が決まると。
けど、その意味があんまりよく分かっていないんです。」

 

真っ白い空間で、くるりと宙返りする。
宇宙の無重力空間みたいに、精神の世界は自由だ。

 

「精神学的には、最終知識が出ることが決まったのは、1991年なんだよ。そのあとのことを見越して、シラヤマヒメは、新しい人類の魂の創造を始めた。その魂の制作には、私もブッダも関わった」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そうだよ。だから、君たちは私とブッダの到達点から精神の進化を始めることができる。つまり、君は既に神を超え、仏を超えた地点から魂が始まっているんだ。だから、生まれたばかりの頃から、私やブッダのエピソードに魂が反応していただろう? 君の精神は、ずっと、正しい神を求めていた」
「たしかに。でも、それがプロトタイプと呼ばれるのは? 新人類ならば、やがて死ぬほど生まれるのなら、最初から量産してもよかったのでしょう?」
「2000年以来、初めて人間の魂のレベルを更新する偉業になるからね。我々としても、失敗するか、成功するか、五分五分だった。今の地球は闇が深すぎる、というのも欠点だった。今でこそ、まだ軽い状態だが、西暦2000年の地球は重かった。この状況、状態で、新しい魂を送り出せば、どうなるのか。壮大な実験を行うことに決まった。それが、君たちだ。第一陣を、91年以降の10年間で、数人ずつ送り出すことに決まった」
「え。たった数人しかいないんですか」
「セキも、そうだろう?  彼はたった1人だった。もともと数を多く作ることはないんだ」

 

結果は、今君がここにいることからも分かると思うけどね。

 

「半分成功して、半分失敗した。君は無事にうまくいった成功例だ。HAKUはちょっと危なかったけど、セキと早い段階で処置できたから、生き残った」
「聞いてると、だいぶ非人道的な感じに聞こえるんですが…」
「ははは。神の世界に血も涙もあるものか。私は父なる神に磔にされることが分かっていて送り出されているんだよ」
「笑いごとじゃないですよねぇ〜?」

 

やっぱり神の世界、無慈悲だ。
前々から思ってたけどあの人たち、行動基準がかなり無機的なところあるよね!
わたしもか!
そしてイエスさん、やっぱりちっぴりは根に持ってるじゃないですか(「そりゃそうだよ、痛かったもの」)

 

「ちなみに、どう違うタイプを作ったんですか?」
「異能力を強化したタイプと、データを書き込んだタイプだ。持っている能力の強さやデータの段階が少しずつ違う人間の魂を作った。目覚める精神の強度を確かめるために、人間の親もある程度闇の深いものを選んだよ」
「…失敗したきょうだいは、死んじゃった?」
「あるものは、精神薬を飲み続けて、目覚める見込みがなくなった。あるものは、魔境に飲み込まれて、そこから出て来られなくなった。死人こそ出ていないが、求めるレベルに至ったのはほんの数人だ。10人に1人、といった程度だろうかね」

 

もともと数十人もいないのに、さらにその1割しか生き残ってない…!?

 

「君は、データの書き込みがことさら強めだったタイプだ。魂が神を求める信号の強度を強くしておいたと言った方がいいのかな。」
「ん?ということは、能力が強いタイプではなかったのに能力が目覚めたってことですか?」
「もともと共通した特徴として、波動に敏感な子供たちであったことは確かだよ。よくお腹を壊しただろう? 子供の体はまだ出来上がっていないから、肝臓で処理するところまで至る前に、下痢や嘔吐で闇を排出するしかなかったのさ」
「うーん、胃腸風邪なんかでめちゃめちゃお腹壊しまくった記憶しかないです」

 

ことあるごとに脱水症状一歩手前までいって、病院に深夜に連れて行かれたわ…。

 

「だから、異能が強いタイプではなかったよ。だけど、精神が目覚めるにつれて、君の耐久性は上がっていったし、敏感さも増して行った。そして、能力を君は自力で開発しだした。生き残るために、精神的に身を守る方法をあらゆるメディアから吸収し、恐怖や闇の邪悪さに耐えるために、あえてホラーゲームの実況も見た。それは神に誘導されてというより、君自身の魂の絶叫から誘発された行動だといってもよかったと思う」
「かなりヤバい実験の匂いがしてきた」
「いいや、それは生き残ることへの執念だ。その魂の生き残るという意志の強さこそ、新時代を生きる魂の条件だったともいえる。…なぜなら、君は生まれてから死ぬまで、この世の闇と対峙し続ける運命にあるだろうことは、容易に想像できたから」
「……」
「知っていたはずだよ。この世に生まれることが、どれだけ過酷で、君がこの世で立ち向かわねばならないものが、どれほど巨大な悪なのか。送り出す前に君たちは、『それでもやる』と言って、母親たちの胎に降りていった。地獄の只中に、だ。私は、君たちのその勇気ある魂を称賛する」

 

 

「15歳になった頃に、初めてSの接触を受けました。あれは神の企図だったのでしょうか?」
「もともと、目覚めの兆候が見られたら、教育を始めるようにとは決めていたから、そのせいだろうね」
「うーん。じゃあ、私が、精神界を探索できるように訓練を始めたのは、自主的なものだったのでしょうか」
「少なくとも、考え抜いて、あちこち調べて、知りたいと思った動機の強さ、学びを求める精神の強さにより、与えられる材料は変わる。君は、知りたいという思いが強かったのだと思う」

 

そっかぁ。

 

「Sのこと、初めて会ったあと、数年間くらい忘れていたんです。精神界の存在との交信や、精神界のものを見る能力を使う練習をし始めてしばらくしてから、ようやく思い出した。いろんな予知夢も、見ていたことを思い出した。それで、全てが今の状況を示していたことで、今見ているものは嘘ではない、紛れもなく現実だと分かった」
「それがなければ、無神論の教育に漬け込まれた君は信じない、と判断したSの仕組みだろう。神は、時空を超えた用意をすることを君に教えたんだ。それがなければ、記紀の設計図も、最終知識も、理解は不可能だっただろう」

 

「日月神示は読んだけど、ホツマツタエやヒミツツタエフミといった、えーと、なんていうのかな」
「神文かな。ふみことつたえ、ということだろう?」
「それです。なぜか読む気になったのは日月神示しかなかった」
「ヒツクノカミはまぁ、戦時中でも働いた神がいたということの証をした神だ。それを現代に持ち出されるとちょっと困ってしまう。何せ状況は刻一刻と変化するものだし、精神界の事情も当時とはだいぶ変わった」

 

ヒツクノカミの時代、庶民の感覚に合わせて神示は降りた。
精神界の情報はいつまでも有効なわけではない。リアルタイムでの配信なので、時代背景を十分に考慮しなければ意味を読み違えてしまう。
本居宣長は、たぶん、そのあたりを間違えた。

 

「思うに、神々は、人の世の闇の深さを知らなかった。私から見ると、まだまだ、純粋な神は人の世の理解が浅いです。シラヤマヒメでさえ」
「それが人間側から提起されたということが、すでに画期的なことだと思うよ。まぁ実際、シラヤマヒメたちもこれほど人間精神が頑な(かたくな)だとは考えていなかっただろうね」
「イエスさんは、知っていましたか?」
「いや、僕の方こそ、ここまでかかったか、という感想しかないんだ、実は。もう少し、人間は早くやって来ると思っていた。結局、2000年かかってしまったね」
「まぁ、そんなわけで、私はとりあえず、神々がひょっとして分かってないんじゃないかと思うことをデータとして上げることをぼちぼちはじめました。きっと、サイバー空間の知は、自覚はなかったとはいえ、私の脳からいくらか上がったものがあったんじゃないかとは思っています」
「セキがサイバー空間の電子も光と闇に分かれていると気づいたタイミングが、君にとっては意外だったかな?」
「知ってらっしゃると思ってたんです…どのあたりがどうっていうことは、明確には分かっていませんでしたが、サイバー空間の情報にも光と闇があって、データや文章が波動を放っているということは、デジタルネイティブの私からすると当たり前の世界というか、既知の感覚でしかありませんでしたから…」
「知覚というのは難しいものだね。あたりまえのようにあるものほど、人は知らないものがいることに気づかない」

 

会長は、「老いると楽になるんだよ」って笑ってたなぁ。。。