No.18

「All-out war(総力戦)」

 

-1-

 

光の経済のことをブログに書いたら、案の定、魔界は猛攻撃を仕掛けてきた。
なりふり構わず、そのあたりにいる人間の間を飛び交って、人間を私にアクセスするための飛び石にして私に襲いかかってくる。

 

飛び出してくるのは、悪意の流れでなんとなく気配が分かる。
光の剣は常時、精神界において、精神体の自分の右手に装備。
出てきたところで、即座に首を切り落とす。頭と胴体に投剣して止めをさすと、大体は塵に還る。鬼滅の刃とおんなじだね。

 

獣、人間、悪鬼、異形、あらゆる形の千鬼万霊が、私に向かって飛びかかってくるのが、精神界の視界に見える。
帰るために駅への道を歩きながら、誰かが私を追い越す、悪魔が飛びかかってくる、首を切り落とす、塵に還る、エンドレス。

 

切って、切って、切って、爆ぜて、吹き飛ばして、蹴り飛ばして、また切り飛ばす。一体一体相手にすると時々追いつかないので、複数の意識体にイコンの刻印をして「光あれ」と、複数出現させた光の剣を投擲して串刺しにする。

 

時折、とんっと地面を叩いて、範囲を指定して面で攻撃し、まとめて処理してしまう。
降りる階段からたくさんの黒い手とか出てるとね…。

 

「おまえ…」

 

後ろで見ていたSが、絶句した。

 

「おまえ…いつの間にそんな大技を覚えたんだ…」
「いや、面倒くさくて…溜め技よりコスパいいんだよ、これ」

 

溜め技ビームは万単位の有象無象は吹き払えるけど、燃費が悪すぎて。小出しに飛びかかってくる今回みたいな状態だと、こっちのほうが小回りがきくというか…。

 

問題は電車の中なんだよねー…。

 

-2-

 

案の定、人間に囲まれると、四面楚歌のような状態になった。

 

心臓にぎゅっと絞られたような圧力と痛みを覚える。
呪まで使ってきたらしい。体の中に1秒あたり5〜20体くらいのペースで大量に魔がなだれ込んでくる。

 

熱烈なラブコール。体にかかる重圧がいっそのこと心地いいかもしれない。
多すぎていっそ笑えてきた。

 

浄化と上昇だと効率が悪すぎるので、こまめに審判とイコンを使い分けながら処理していく。闇の意識体の捕捉は体側の意識に任せて、たまに処理が遅れているのは芯のようなものなので、光を当てて解析して。
一度に3つぐらいの作業を同時並行しているような感じで、ずっと休みなく防衛戦だ。

 

入り込んでくる悪魔たちの様子を見ていると、みんな私を殺そうと必死らしい。

 

「おまえさえいなければこちらの勝ちだ」と。これだけ送り込めば潰せるだろうと思って、周りの人間の中にある魔の回路をバイパスにして、大量に体に魔を送り込み続けているようだ。

 

ただ、送り込んだそばから、仲間は審判で燃え尽き、切り飛ばされ、イコンの刻印で塵に還る。

 

さながら、私は、送り込まれたら二度と出てこられない魔のブラックホールのように見えたに違いない。
5分経ち、10分経ち、20分近く経っても、効果は全く上がらず、相手のキルスコアだけが一定ペースで伸びていくのだから。

 

次第に相手側の顔が引きつりだす。最寄り駅が近づいてきたが、こっちも片っ端から処理していくので、ちょっと疲れてきたかな。

 

ただ、そういえばこんな時のために援軍がいたような気がする。

 

「靖国さん、アーリントン神軍さん、出番です。援軍を要請します」
「ようやく我々のことを思い出しましたか!」

 

もっと早く呼べ!と言わんばかりのツッコミと共に、靖国の英霊とアーリントン墓地にいたイエスの神軍、二種混合の部隊が虚空から躍り出て戦いに参加してくれたので、負荷が3分の1ぐらいに減った。状況がまったく変わらないどころか劣勢になり始め、こちらに呪殺のエネルギーと魔を送り込み続けている悪魔たちの顔が、だんだん絶望の色に染まりだす。その間も体の中での逐次処理は続けている。

 

最寄り駅に着いた。これで人の密度が減るからバイパス回路もなくなってくる。少し楽になりそうだ。

 

相変わらず飛び出してくる悪魔を切り捨てながら、駅の改札を出て――あ、ワッフル美味しそう。買おう。

 

それにしても、思考妨害のためにこんなに送り込んできたのかな。考えることを邪魔して時間を浪費させようという作戦ならば、結構上手く行った方かもしれない。だってメニューを決めるのに迷うだけの思考リソースがちょっと足りない。ちょい黙ってて、買うワッフルを決めさせてくれ。

 

「化け物め…」

 

そんなうめき声が伝わってきた。

 

「精神学協会は…なんという、なんという化け物を生み出したんだ…!」

 

思わずすんっと真顔になった。いや、どの口が言うの。そっちは千単位、こっちは途中までたった一人だったっての。

 

「いや、殺しにきたのはそっちの方だろう? 殺していいのは、殺される覚悟があるやつだけだろ? 正当防衛だと思うけどね。それに、おまえたち、自分がさも被害者だみたいなこと言ってるけど、さんざん罪を犯してきたんだろう? 赤子殺した血とかすすってきたんでないの?」

 

この光の剣はさ。

 

「私、自分のこともぶすぶすこれで刺してるけど、正しい光のもとにある存在にはたぶん効果ないんだよね。痛くないもん。これで刺されて痛いんだったら、それはなにがしか罪があるってことでしょ? 自分の行いの報いを受けているだけで」

 

ちょっと怯んだが、まだ言う気らしい。

 

「我々よりもお前のほうが、よほど悪魔より悪魔らしい! 自分が冷徹な大量殺戮者だとは思わないのか!」

 

うーん。
そんなこと言われてもなぁ。どう判定すべきなのやら。

 

――と、悪魔がなんか申しておりますが、神さま、どう思われます?
しばらくして、答えと思しきものが返ってきた。

 

「――『復讐するは我にあり(Vengeance is mine)』。聖書で神が宣言した通り、世の初めから、神は、『私に対する行いに対して復讐する』と予告している」

 

あ、誰かが今、私にのっかった気がする。

 

「『私の復讐が、この者という形をとって、おまえたちの前に現れた、ただそれだけのこと』」

 

悪魔の顔は、さらに絶望の色に染まって引きつった。泣いている。
返済をサボっていたら債権者に道端で出くわした時の債務者みたいな顔だな…。

 

とはいえ、慈悲はない。

 

思いながら、私はイコンを悪魔の額にぺたんとスタンプした。

 

「光あれ」

 

首ちょんぱ。

 

自宅に近づくにつれて、周りに人もほとんどいなくなったし、とりあえず今日のあっちの攻勢はこれで終わりかな。

 

やれやれ、本当に総力戦だった。

 

「今日一日でどれくらい倒したんだろうね? 数とか分かる?」
「言ってる場合か!」

 

Sからまでツッコミが入る。

 

「おまえが煽り倒すからだ! はたから見たらとんでもない数だったぞ! ちょっとは反省しろ!」

「いやー、あはははは…」

 

うーん、確かにこれはSの言うとおり少し反省ポイントだった。もうちょい情報は閉じておくべきか。でもどのみち公開するものだからなぁ…。

 

「これ明日もあるのかなぁ…」

 

だとしたらちょっと面倒だなー…。

 

まぁ、新しい浄化力の強化トレーニングだと思って頑張ろうかな…。
私の体もお疲れ様。ちょっと大変なことになってきたけど、一緒に頑張ろうね。

 

 

P.S. 精神界の方へ。円滑な研究継続のため、援軍は随時募集中です。お志のある方はSまでお問い合わせください。