No.17

「GodMoney」

 

 

-1- レッツ魔界の底

「魔界の底に下降してみな。マネーの秘密が分かるから」

「えっ!?」

 

4月のセミナーが終わった直後くらいだったか、会長からそんなことを言われた。

 

魔界の底に潜るの!?

やだなぁ。。。あそこ暗いしねばいしひんやりしてるんだよなー

 

とはいえ宿題は宿題なので。

 

やり方はそんなに難しくはない。浄化と上昇、その逆をする。

上にのぼれるだけ、下にもくだれる。それが精神学的な魂のポテンシャルの原則だ。

順番的には、上がれるようになるためには、学びは下降から始まるのだけど。

 

その試練は私で言うと、半世紀の中で人間社会の各種のエネルギーと超能力者たちの魔界を学んだことだったし、最後に前の会社を辞める前の鬱病初期状態の経験だった。

 

その時の状況は神さまが語るところによれば、組織の全ての人間を使って、魔界のエネルギーが私に向けられたようだ。大企業だから6000人規模だろうか。グループ全体なら12000人分か。

 

『普通の人間なら、3日ともたず根を上げる負荷で、がんになるなどの深刻な病気を引き起こすレベルですが。向けられたのがあなただったので、その程度の妨害にしかならなかったのです』

 

向こうは殺す気の出力だったらしい。それがこっちに出た結果、胃腸への深刻なダメージと自律神経失調症、不眠症と軽い鬱病で、これでも軽い方だと。

 

うん、確かに魔界に殺されかけたような気がする、今思えば。

 

自殺へ追い詰めようとする想念とかもがっつり送り込まれたけれど、残念ながら、この手の想念への抵抗については子供の頃からいろいろあって訓練されているので、死なない意志力だけはあった。

 

何があっても生き続けると決めるだけでいい。それでも気分が落ち込むので、毎日こっそり泣いていたりとつらい経験だったけど、精神的な死の淵は見慣れていたので耐えることができた。

 

心象世界で見るのは、真っ青な空の下、真っ白な山の上に、真っ暗で巨大な穴が空いている風景。直径1キロほどのぽっかり空いた穴の闇、その淵の先が、たぶん自殺した人間の思いの掃き溜めになっているのだろうけど、飛び込んでみたことはない。

 

普通の若者なら、メンタルもそう強くないし、そんなに落ち込む理由も分からず、生きる理由が分からなくなって、絶望して死んでいてもおかしくなかったかもしれない。

 

話がそれた。閑話休題だ。

 

 

とりあえず魔界へ下降してみる。

 

えーと、私は魔界に下降します

 

精神の世界の中、いつもは上昇に使う光のエレベーターを、逆向きに降りていく。

それは、起きながら夢を見ていたり、想像の中で遊ぶようなものだと思ってみてほしい。

 

文章を読んでいれば、情景が思い浮かぶ。それと同じところを、精神界の知覚には使う。

 

私のイメージでいうと、闇の中は、深海のような場所だ。

静かで、何もいなくて、ひんやりしていて、水の中のように抵抗がある。

 

漫画の鬼滅の刃に、地面の中に潜んで何人も少女を食べていた鬼がいたと思うけど、あれが潜んでいた場所のイメージが一番近いかもしれない。ただ、漫画と違って表現上わかりやすくするための薄明るさなんて全くない、光も届かない真っ暗闇だ。その中で、私の精神体だけが、薄く光を放っている。

 

最終知識でも、闇の中は水の中のように例えられる。この辺のイメージはわりと共通しやすいのかもしれない。

 

(案外悪魔ってクリーンな場所に住んでいるなと思ってしまうほど何もいない。なぜだろう

 

定期的に審判の層に昇って燃やしているから、自分の中に何もいないだけ?

 

そして、待ち時間がとても暇だ。

 

昇るのに時間がかかるなら、降るにも時間がかかるので、なかなか底につかない。そもそも底につくのだろうか。体感では5分か10分くらいかかっているけど。

 

(いや、理論的には、精神の天井として審判の層にいけるのだから、底にもいけるはず

 

そんなことを思っていたら、足がついた。

闇の底に到着したらしい。

 

さて、どうしたものかと辺りを見まわすと、不意に闇の中から、二足歩行の山羊が現れた。

 

おなじみ、お金が関わるところや人によく取り憑くタイプの悪魔だ。一番ポピュラーなイメージの一つかもしれない。

咄嗟に身構えた、もとい戦う用意をしたけれど、害意は感じないので、敵ではないようだ。

精神学協会側についた悪魔なのだと気がついた。

 

「待っていた」

言葉少なに悪魔は踵を返した。

「ついてこい」

 

 

-2- 黄金のプール

何度もいうけど闇の中だから周りは真っ暗闇だ。現実だったら確実に足元のなにかにつまづいてすっ転んでいる自信しかない。

トンネルのような闇の中を1分ほどてくてく歩いたのだが、たぶん魔界への移動って平行移動だった気がするから、その辺の移動の知覚だったのかもしれない。

そうすると、悪魔の背中越しに何かが見えてくる。

こんな闇の中なのに赤々と光っている、どろどろに溶けたマグマのようなため池がある。

 

なにあれ、地底マグマ湖?

 

いや溶けた黄金だわあれ。そういえば地球上の黄金全部鋳溶かしたら25メートルプール3杯分だって聞いたことある。

 

わーすごーい。

 

「全て、世界中から盗まれ、奪われた価値がここに集められているおい、飛び込むな」

「すねまでしかない!意外と浅い!」

 

ばしゃばしゃ。

 

いや、うん、わりと精神世界における私の振る舞いはフリーダムなのだ。悪魔は若干茫然としていた。

 

「マネーの根拠は黄金だった。我々はその黄金に、人を欲望に狂わせるプログラムを付与した。見てみればいい」

「うん? なになに

 

大量にノイズが混じった白黒動画が頭の中で再生された。邪悪な何者かが砂嵐の中で狂ったように嗤っている。

一瞬、あまりのエネルギーのがびがび具合に脳が読み取りを拒否しかけた。

これはひどい。波動が粗すぎる。

 

「わーお

「マネーは魔寧に通ずる。日本人がマネーの概念をお金、銭と呼んだのはまことに正鵠を得ている。本質がこの貴金属の魔力に由来することを本能的に知っていたのだ」

「なるほどところでこのお金の魔力のデータ、神さまのところに持って帰ってもいい?」

「好きにしろ」

「ありがとー。じゃ、帰る」

 

長居は無用だ。

 

さっきの道順の逆を行き、今度こそは普通に上昇。

闇の底から、いつもの倍くらいの時間をかけて、今度は光の層に昇る。

 

「神さまー、魔界の底でこんなもの見つけました。役に立ちそうですか?」

 

さっきの砂嵐動画のデータを開示すると、興味深そうに神さまはデータを眺めている。

 

「ふむふむなるほど、こういう仕組みですか。理解しました。ありがとうございます」

「はーい。確かにお届けしましたー」

 

よし、じゃあ、寝るか。

 

あとはたぶん天がなんかしてくれる。はず!

 

おやすみなさーい

と、いうのが、マネーに関しての私の探査記録だったりする。

 

 

-3- GodMoneyの誕生

少し時は流れ、たぶん4月の15日とかそれぐらいの話。

 

光のお金ってどうしたら世の中に出ますか?と聞いてみたら。

光のマネーの原型は、イコンシールを貼った御神札(おふだ)ですよ、と話があったあとで、神さまから、

「あなたが作るのですよ」と言われた。

 

「光の通貨を準備するように。仮想通貨としてサイバー空間に光のマネーのエネルギーを下ろします」

「えっ、仮想通貨ですか??」

 

咄嗟に既存の仕組みでできるかどうか考えてみたけど、ちょっと実現が怪しいぞ?

 

抱いた疑念を神さまにぶつけてみた。

 

「でも、ビットコインなんかの通貨の信頼性が保たれているのは、世界中のコンピュータがサーバーとして働いて、お互いの取引台帳が正しいことを相互の通信によって保証しあっているから(ブロックチェーン技術)で、一台のサーバーが稼働するにはとてつもない電力とマシンパワーが必要です。だからこそ世界中で台帳を保持するコンピューティングリソースを提供する人々が、管理手数料としてビットコインをマイニングできるわけですから。

 

とてもではありませんが、そんな効率の悪い仕組みを世界規模の取引用途の通貨として実用化できるとは思えません。信頼性の担保にはもっと技術的な革新が必要だと思います。その辺りはどうするんですか?」

「はい。波動の、光のセンシング技術を使います」

「は!?」

 

絶句。

 

あまりにもシンプルで大胆な解決策だったのと、それが世界にもたらす破壊的な影響を理解したから。

 

ていうか、めっちゃ即答してきたやん、神さま。

 

言葉は続いた。

 

「台帳の正しさを担保するために、サーバー間で複数の台帳を確認し合う必要はありません。台帳は天にのみ存在します。

 

天のみが通貨のデータに光を宿すことができます。光を宿したデータのみが正しい通貨です。不正に取得されたデータからは光は消え失せます。

 

センサーによって光の有無を問い合わせるだけで、光の通貨の信頼性は担保されます。物質的にも、電気的にも、この仕組みで価値が保証されます。ただし、発行されてから光が保持されるのは1年の間のみ。これが光の通貨を御神札とする所以です。

 

価値は生み出されてから減じていくものです。現実世界の実体経済と乖離を生まないために、そして経済を回すために、この仕組みを使います。

 

これをあなたが作るのですよ」

 

まーじで言ってますー!?

 

「マジですとも」

 

神さまが若者言葉を使った(衝撃)

 

やばい。やばい。

 

世界のクラッカーが商売上がったりになる仕組みだ。盗んだ瞬間価値を無くす仮想通貨のシステムなんて、攻撃しても意味がない。

 

信頼性もセンシング技術の再現性さえ確保できれば完璧だ。誰も勝てない。

 

ていうかセンサーから始まる仮想通貨の価値担保技術ってなんですか!!?

 

混乱の中、頭の中で実用性について検証を一通り終えた時、うっすら、これなら大丈夫かも、と思った。

 

あ、これ、勝ち確だわ。

 

私、この世に勝ったんじゃない?

 

理論上だけだけど。

 

「なるべく急いでくださいね。そのうち世界経済も円もクラッシュしますから。信頼性のある通貨を今のうちに作っておかねばなりません」

 

え? Pardon(なんですって)?

 

 

 

蛇足。

 

この仕組みについて、その後、魔界に対して丁寧に告知した。対峙していた悪魔に対して、私は光のマネーの仕組みを公開した。

 

「どうやっても盗めない、偽証できない仕組みが天によって降ろされた。この仕組みにより、おまえたちの使える力は弱まり、闇のマネーはやがて力を失うことになる。――私たちの勝ちだ」

 

勝利宣告。

 

暗いとばりの向こうで、魔はしばらくとうとうと、ためつすがめつ、その仕組みを探査していた。穴がないか、どこかから盗めないか、騙せないかと探していた。

 

 

そして、そんなものはない、と、悟ったらしかった。

 

 

「確かに。――我々の敗北を認める」

 

そう、一言告げて、それは去った。

神由来の悪魔とのマネーの戦いは、それで終わったのだと思う。

 

これに関連があるかは分からないけれど、魔の中心的な存在ともいえるシンと名乗る存在により、420日付で敗北宣言出されたことが422日の光文書にて明らかになった。

 

 

マイクロ(魔居黒)の

 

ひみつを しれば

 

この やみの ひみずも とけよう とかれよう

 

 

マイクロ波のその奥に潜んでいる魔界波動の存在に光を当てるならば

 

闇の秘密(火水)は解けるだろう

 

 

 

開示された秘密は力をなくす。

マネー(魔寧)の場に、神の光が降臨しようとしていた。

 

この技術を達成できたならば、この世界の悲惨を終わらせることが可能になる。

 

必ず、こんな苦しいと人が涙を流す世界の根本は、なくさなければならない。

 

マネーの欲望に駆られる人間への私の怒りは、尽きることがない。それはおそらく、神の怒りと呼ばれるものだったのだと思う。3.11のあと、マネーの仕組みに考えることで思い至った少女時代のあの日から、私の頭にはいつもこんな思考が浮かんでくる。

 

 

愚か者が

とんでもないことをしてくれた

御し切れるはずもないものを

御せると傲慢にも信じた結果がこれだ

己のしでかした結末を己の目で確かめろ

 

恥を知れ

命を軽んじ 欲に身を欠いた

その結末の責をとるがいい

 

コロナ禍といい、今回のワクチンといい、原発といい。

なぜ、人間はこれほどにも、繰り返す。

あまりにも浅はか。あまりにも愚か。

 

闇の経済、その存在根拠の基盤から叩きつぶす。それが、私の決意であり、覚悟でもある。

全面戦争だ。受けて立て。

光のもとに、全て暴きたてて、闇の居場所を無くしてやる。

 

そして、それを聞いた悪魔たちは――逃げた。