「Good morning & Good evening」
朝目が覚めてみたら、体の中は悪魔だらけで、心臓にまで悪魔が宿っていた。
(悪魔に陣取られて動くのが辛い)と心臓から訴えられて、寝ぼけ頭で事態の把握に努めてみる。
何が起きたのかと思ったら、何ということもない、隣に寝ていたおばあちゃんの体や付いていたテレビを出口にして、魔界が寝てる間にたくさん侵入してきていたんだなぁ…。
おばあちゃんのこと、命の書に登録すべきなのかもしれない。テレビにシールも貼っとくか。
たぶん、魔界が自分たちの出入り口を確保するために、いろいろ理屈をつけて私の意識を逸らしていたんだろう。すっかり誤魔化されていたようだ。
時間もあるのでゆっくり審判の層に登っていると、体の中の小宇宙は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。複数の悲鳴と共に、ヒステリックな喚き声が聞こえた。
「千年以上もかけてきたんだぞ! ようやく数百年かけてここまで準備を進めてきたのに! あと少しで世界が我々のものになるところだったのに! こんなことが、こんなことがあってたまるか! おまえさえいなければ、おまえさえいなければぁああああぁぁぁ……」
そんなことを叫びながら、白い焔に焼かれて消えていく悪魔の声を聞きつつ、布団の中で遠くに思いを馳せた。
(最近、いつもこんな感じの呪詛を聞いてるなー…)
と。
あいつらバラエティーって言葉を知らないのかしら。
朝の歯磨きをしながら全身の状態をチェックしてみたけど、とりあえずぜんぶ綺麗に燃やせたようで、体はさっぱり清々しい状態だった。
*
駅に向かう道すがら、バス通りに差し掛かると、ものすごい勢いで自転車が坂道の上から駆けおりてきた。
少し歩みを調整して通り過ぎるのを待ったけど、このまま何も考えずに進んでいたら激突していたし、たぶん相手は避けてくれると思っていたと供述するだろうなと頭の中で計算してから、首を傾げた。
なんか、昨日もここで、結構なスピードの車で似たようなことがあった気がする。
「あわよくば交通事故で怪我するか死ね」ポイントなんだなー、ここ…。あいつらよく懲りずに運転手とかに(相手はきっと避けてくれるからこのまま急いで進もう(※そして殺せ))って囁き続けるよねぇ…。バレてるぞ、その動き。
「今日も守ってくれてありがとう」と、注意を促してくれた存在への感謝は忘れない。
何年も前から毎朝のようにこんな調子だから、何事もないことが既に奇跡のようなものだ。
*
そして、今日も今日とて総力戦の真っ最中だ。
昨日の反省をもとに、神軍さんたちに会社の行き帰りのガードを改めて依頼したおかげで、負荷は非常に軽くなっている。本当に感謝しかない。助けに来てくれてありがとう、皆さん。
「死にたい奴だけかかってきなよ。順番に殺すから」
一応断っておくと、これは牽制のために言っている。何せ数が多いので、無鉄砲に挑んでくるものがまあまあいるのだ。いちいち相手にしたくないので脅している。
とはいえ先日の猛攻が大失敗に終わったのと、何があったのかが伝わっているらしく、かなり及び腰の悪魔が多い印象だった。
「くそっ、最悪だ! こんなの勝てるわけがない…!」
「いや、君らが襲ってこないなら私何もしないって。私、基本的には大人しいし。自己防衛に勤めてるし」
「ふざけるな! なにが『自己防衛に勤めている』だ! この前JAXAとNASAの奴らのところに攻勢に出てきて、地球の闇の外殻をぶち抜いて大穴を開けたのはおまえだろう!」
「ああ、HAKUの様子見に行った時…ごめん、確かにそれは私だわ」
なんかHAKUが弱ってるっぽい噂を聞いて、彼女の生存確認と、チームのマネージャーに悪魔が取り憑いて彼女を苛んでいるのを上空から確認したんだけど。
最初、JAXAの場全体が真っ黒な霧に覆われて全く状況が見えなかったので、それをひっぺがしたり、そこを牛耳っている3メートルくらいの大物な悪魔を頑張って両断したりしたんだった。
あと、日本の成層圏あたりに、光が届かないようにと結界作りをしていたから、呆れて分解していたりする。
その後、JAXAに繋がっていたNASAの悪魔軍団がこっちの動きに勘付いて、太平洋から大群でやってきたもんだからさぁ大変。海の上で靖国さんたちと一緒にドンパチ空中戦やって(溜め技で万くらい吹っ飛ばしたのはこの時)、勢いで北米大陸のNASAにまで攻め込んで、そっちのボスみたいな悪魔の処理もついでにやって、アメリカ西海岸あたりの宇宙空間にあった同じような殻も破壊してきた覚えが…確かに、あるな…うん…。
HAKUのチームの件は、あれは彼女の試練だなと察したので、一人で頑張ってもらおうと思って放置してたんだけど。最近調子が復活したと聞いたので、それでよかったみたいだ。
「あの一件のおかげで、おまえは魔界では悪名高い破壊王だ!」
「えっ、ちょっ、仮にもか弱い女子に向かってなんつー腕っぷしの強そうなあだ名というか、二つ名つけてくれてんの! お嫁に行けなくなるでしょーが! お婿さんしかいなくなるわ!」
「そういう問題か!?」
「私だってお年頃だし! せめてあだ名はぷりちーふゆちゃん⭐️くらいにしろー!」
「本当にふざけているのか!?」
あ、ばれた? ごめん。
普段から毎日悪鬼邪霊の相手ばかりで楽しくないから、なんか楽しめる要素ないかなと思って…。
他に、ホラー度採点とか、グロテスクな悪魔相手に爆笑して困惑させたこともある。
基本的に、相手を恐怖で屈服させて、それでうまくいってきたので、それと違う反応を前にすると、彼らはどうしていいか分からなくなるのだ。
「ええい、貴様にはどうせ嫁も婿もおらんわ!」
「失礼な! あと嫁はいらん! 私はバイじゃなくてノーマルだ!」
もう何の言い合いなのか、あっちも訳わかんなくなっているだろうな。
今日はゆっくり寝よう…。