No.16

「Eureka(エウレカ)」

 

-1-

電子工作。
中学生の技術家庭科の授業で、頑張って太い銅線の束をねじってはんだ付けしたテーブルタップとかがあったけど、精度が悪くて火事になったらと思ったら、怖くなって捨ててしまったことがあったなぁと思い出した。
今思い返すと、ちゃんと先生がテスターで検品してくれていたので、とりあえずは合格していて使えるレベルだったんじゃないかとは思うのだけど。
今度、大阪は日本橋(にっぽんばし)などに行って何かのキットが売ってたら、挑戦してみてもいいかもしれない。

電気回路に関わる工作はそれぐらいの記憶しかない。

-2-

いや、さっきのは嘘だった。忘れてほしい。

そういえば、昔、子供の頃、学研か何かの教材で、パズルのように小さな回路ブロックを挿して組み合わせて、ラジオや電球点灯ができる、という教材キットを使ったことがある。実際、いろいろ頑張って回路を再現して、スイッチングによるモールス信号機や無線ラジオができていた覚えがある。ジブリ映画のラピュタ冒頭部、ムスカがモールス信号を打っているシーンが、リズムが小気味よくてたぶん好きだったのだ。

※記憶を頼りに検索してみたら、たしかに記憶通りの教材の情報が出てきた。何事も調べてみるものだ。それにしてもこんな高価なおもちゃ?をいったいどうして買ってもらえることになったんだろう?
毎月なにかの雑誌の付録でちょっとずつ部品が付いてきて、全部揃うと一つのセットになっていたのかもしれない。
復刻新装版 学研電子ブロック EX-150

学研公式サイト:製品詳細|学研電子ブロック EX-150 復刻版| 電子キットシリーズ | 大人の科学製品版 | 大人の科学.net

なんだかんだ、本当に基本的な電子回路の読み方やオームの法則とか、名前や存在やイメージだけはぼんやりながら覚えていて。
大学生最後の冬、自分でデスクトップPCの部品を集めて組み上げた時なんかは、いろいろと電圧(ボルト)と電流量(アンペア)、消費電力(ワット)の関係を確認しながら、スペックや構成を練っていたりした。就職で新人研修のために上京するので、できるだけ安く、自分にとって都合のいいカスタマイズがされたパソコンが欲しかったのだ。(BTOだと基本的なスペックが希望に沿っていても、一部、主にグラフィックボードがオーバースペック気味になる挙げ句、予算オーバーになりがちだった。)
そのパソコンも組み上げてからそろそろ4年半。全く不調を見せる様子もなく(冬場は時々寒すぎてうまく電源投入できないけど。パソコンは意外と寒さに弱い)、マザーシップとしての役割を果たしてくれている。何かマシンパワーのいるプロセスを実行したくなった時、MacBook Pro(一応Early 2015 13インチの最高スペック)だと時折もっさりするけど、デスクトップだとだいたいキビキビこなしてくれる。

YouTubeとかで時々、端子を確認しながらケーブルをぱっちんと切って被覆をむいては、別のケーブルとはんだ付けで繋ぎ合わせて、熱収縮チューブで絶縁処理をする、なんて風景を見かけて、「え、そんなことしていいんだ!?」と目を剥いたりもしていたっけ。

他に思い返すと、会社のハッカソン――IT技術を組み合わせ、1〜2日かけてアイデアを短期間で開発・実装する、ハッカーとマラソンをかけ合わせた名前のイベント――に出た時に、電子工作/プログラミング学習やプロトタイピング用に使われるマイコン・センサー類を目にしていたりと、わりと電子工作とは初めましてという間柄ではないことに気がつく。

自分の技能やスキル構成、経験は時々、こんなのなんの役に立つのかなと不思議になるのだけど、全てなんだかんだで無駄にならないように繋がってくるので、人生上手くできている。

-3-

「オシロスコープ、いろいろ見てみたんですけど、4万弱ぐらいで手に入りそうです」
「うん、そうかい」

オシロスコープ?と周りの人が首をかしげていたので、簡単に、電子回路の電流と電圧を波形状態で見るための装置だと説明してみる。

「それを使って、まずは波形の変化を観察してから、波動を検知する仕組みを考えてみようと思ってるんです」

「それで、何かヒントやあてはあるのかい」
「うーん、とりあえず、オーディオ機器にイコンシールを貼ると、ノイズが消えて音質が良くなることは分かっているので。アンプとかなんか繋いでみて、その辺の電圧波形をオシロスコープで見ることができたらなぁとは思ってますよ。まぁ、そういう回路を組むにははんだごてとかの作業機材も必要なんですけどね」
「そうか、はんだ付けから始まるのか!」

会長は手を叩いて大笑いしていた。何だか分からないけどめちゃくちゃウケている。

「昔の研究員なんてのはさ、皆はんだ付けをして回路を組んで自分で実験して研究してたもんなのさ。彼女がやろうとしていることが実現したら、エジソンに匹敵する偉業になるよ」

「ふーん」と皆、よく分からないなーという顔になる。ぴんとこなくて理解が及ばないといった感じで。実は私もぴんときていない。

偉業かどうかはさておいて、とりあえず誰かがやっておかなくてはならないはずだが、他に適当な人材が誰もいなかったので私がやっている、という感じはある。

「将来的には、YouTubeに動画とかでアーカイブとして残しておきたいなと考えているんです。それとは別にちゃんと論文の形で実験結果は書こうと思っていますよ」

いろいろとうまくいけばの話だけど。

「まぁ、精神学には学会なんてないけどね」
「それです。いくら書いても博士号はとれないんですよねぇ。残念」

博士号というのは、大抵の場合、博士課程で研究した内容を論文にまとめて、それが権威ある学会や研究機関、学術雑誌、研究者などに査読されて認められることが学位授与の条件だ。
精神学協会には今のところ、学会なんてものはない。学位授与できる法的な権限も、当然ない。

「そのうち大学が潰れだしたら、余っている大学が一つくらい手に入るかもよ。そうしたら博士号なんてすぐ付与できるよ」
「ああ、(独立行政法人の大学評価機関に認定された教育機関である大学なら)博士号が自分で付与できるからですね」
「そういうこと」

それはそれで、なんだかマッチポンプみたいでずるい気もする。
まぁ、大事なのは学位ではないか。学位というのは所詮は、一定水準の研究や論文執筆能力の証明でしかないことだし。
同じ博士号を持っていても、研究者の優劣というのはあるものだ。自分が特に優れているとも思わない。そんな天狗の鼻はとっくの昔に何かの拍子に折れている。はずだけど。

「YouTubeの動画を見たら、世界中の科学者が押しかけてくるかもね」

うーん、そうなったらめちゃめちゃ面白い(大変そうだ)なぁ。

-4-

さて、仮にオシロスコープで波形の変化が見れたとしても、どうやったらセンシングの問題は解決するだろうか。帰り道でも考え続けている。

センサーの仕組みについてあれこれ調べてみると、ひとつひとつの原理は比較的単純な仕組みかもしれない、と分かった。
測定したいもの、例えば光や温度、湿度などの要因によって電気抵抗が変化する化学特性を持った物質があるとする。物質の電気抵抗の強さが変わると、電圧の大きさは変化する。この電気抵抗と電圧の変化をグラフにすると、シグモイド曲線を描くようなアナログ的な電圧の変化が見られるわけだが、電圧の数値を一定の閾値(大抵は四捨五入)でゼロとイチに丸めてしまうとデジタル信号になる。これが一番単純な二値センサー。電圧の差をもっとたくさん刻んでいくと、温度計とか湿度計になるわけだ。
センサーとは、つまり、通電能力についてある化学特性を持った物質を利用し、狙った測定対象によって電圧変化が起こせるように作られた電気抵抗なのだ。

ということは、センサーとは極端に言ってしまえば、電圧変化の検出である、ということではないだろうか。

例えばある波動エネルギーに対して、電気抵抗が変化するような物質があれば、それがセンサーになるのだ。

ただ、その物質がどんなもので、どうやって見つけるのか、という課題にぶち当たってしまって、センシングに関する思考はそこでとりあえずペンディング(保留)とした。

しかし、オシロスコープでオーディオ機器の変化を見たとして、全体的なノイズの除去の結果を見ることができるかもしれないが、電圧の変化なんて本当に分かるのだろうか。
もうちょっと解像度を上げて細かく考えてみよう。

オーディオ機器の音質に関わっているのは抵抗やコンデンサらしい。電気素子と呼ばれるこれらの電気回路の構成要素のひとつひとつについて品質の良いものを使うと、電気の波形からノイズが消えてなめらかな波形を描くなるようになる…と思う。

この前東京のギャラリーでの会合以降、考えを進めて思いついたのは、闇に分類される波動の影響を受けると、多かれ少なかれ物質の電気抵抗は増して、耐久性が下がるのではないか、という仮説だった。
そうすると、壊れかけの電気製品(たぶん接触不良品とか)にイコンシールを貼ると通電が復活したり、扱う人によって電化製品が壊れやすくなったりする、という現象が、一応説明できるからだ。

つまり、電解コンデンサの中の溶液とか、なんかその辺の物質の化学特性がイコンシールによって変化していると、ノイズが出にくくなったり、抵抗が小さくなると考えられる。そうすると電圧は少し大きくなるはずだ。
観測者であるオシロスコープの分解能が追いつく変化なのか分からないが、そういう変化が出ていてもおかしくはない。
そして、そんな変化は、おそらく歴史上これまで一度たりとも検出されてこなかっただろう。精神エネルギーによる変動の可能性が認識されていないし、そんな波動による変化を一瞬で引き起こせるものはこれまでなかったからだ。波動教室向けに各種の波動シールができて、その条件が初めて世界で整った。
逆説的に言えば、精神学協会がこの世にできて、初めてこの科学分野への道筋が開くようになっていたのだろう。

ひとつ納得してから、もう一度、オシロスコープで見たい電圧の変化を思い描いてみた。
全体的には、アンプの出力部分を測れば、オーディオ信号のノイズが減っているだけという観測結果になりそうだ。
一番見たいのは電圧のシグモイド曲線的な動きだ。
電気抵抗が下がって、電圧が少し大きくなる。

頭の中で、緑のジグザグで描かれた幅太い線が、ぴょこんとひとつ上のステージへジャンプする。

それと同時に、私の頭はまたしても東京のギャラリーの時のように、すっからかんと大きな音を立てて空回り、急停止した。

今、何かの答えを得た気がする。私は今、何を考えた?

頭が再び回転を始めた。

センサーとは極端に言ってしまえば、電圧変化の検出である。
全体的には、アンプの出力部分を測れば、オーディオ信号のノイズが減っているだけという観測結果になりそうだ。
一番見たいのは電圧のシグモイド曲線的な動きだ。
電気抵抗が下がって、電圧が少し大きくなる。
緑のジグザグで描かれた幅太い線が、ぴょこんとひとつ上のステージへジャンプする。

例えばある波動エネルギーに対して、電気抵抗が変化するような物質があれば、それがセンサーになるのだ。

ただ、その物質がどんなもので、どうやって見つけるのか。

センサーとは、つまり、通電能力についてある化学特性を持った物質を利用し、狙った測定対象によって電圧変化が起こせるように作られた電気抵抗なのだ。

センサーとは、電気抵抗なのだ。

電気抵抗である。

すべての電気素子はつまるところ、電気抵抗である。

Eureka(ひらめいた)。繋がった。

つまり。

アンプの音質が劇的に変わる要因となっている電気素子を探す。
回路を構成するすべての電気素子について、片っ端から順方向電圧を観測して、波動の影響の有無で電圧に変化があるか計測してしまえばいい。顕著な変化があるものが見られれば、それが波動のセンサーの原型だ。
あるいは特定の電気素子の組み合わせが、各種のセンサーにもなり得るかもしれない。

センサーとなり得る電気抵抗と材質が特定できれば、とりあえず、あとはどうやって電圧変化をデジタル信号として抽出するかだけ考えればいい。細かい測定方法や強度の数値化は後回しだ。

とすれば、残る問題は。

頭が再起動してからそこまでの思考を慎重に10秒ぐらいで考えた瞬間、私は思わず祈っていた。

どうか、この順列組み合わせの問題が途方も無い試行数ではありませんように。

アンプの回路に使われている素子の種類はそんなに多かっただろうか。同じ種類の電気抵抗については同じ性質を持っているとして除外していい。電気抵抗についても炭素皮膜、金属皮膜抵抗と種類があるはずだが、ひとつのアンプに使われているものに限定するのならばとりあえず数は抑えられるし、材質も調べることはできるだろう。

それでも×6通りの波動と×2通りの波動の影響有る無しパターンで、試行回数が最低でも12の倍数であることは覚悟しなければならない。

うーん、とりあえず、アンプを作れるようにというか、安全な電子回路を組めるようにならないといけないのではないだろうか。うっかりショートとか、うっかり過電流とかすると回路が発火するのでシャレにならないし。

まだオシロスコープを買うにも時期尚早のような気がするので、もうちょっと自分のスキルを高めなければならない気がする。それともさっさと買ってしまおうか。

思考は続いている。

 

つづく(たぶん)