No.12

ここ最近、長らく苦痛を感じていた。

様々な体調不良の一番の原因は、おそらくは神経系にあって、ひいては、自分自身の神経質、神経症ともいうべき質に起因しているのは、分かっていたけれど、自身のこの異常ともいえる杞憂や、脳内不安の暴走を止める術が分からなかった。

ただ、浄化と上昇をすると、それが一時的に止まる。

小休止を挟みながら、だましだましのように息継ぎをして、ぜぇぜぇと、泥の上を這い回るような気分。
重苦しい毎日。

いつしか自身に問いかけていた。
心配しなければならないような病は、ひとつたりとも見つかったことがない。
血液検査を何回したって、健康体そのものだ。
私の心配は常に、100%良い方向に裏切られ続けてきていた。
なのになぜ、体は痛みを訴え、不安は再生産され続けるのだろう。
堂々巡り。

理性が、知識が、生命系の異常を否定しても、様々な痛みが体に走って、心は不安で押し包まれる。

どうしてこんなに脳が、感情が暴走しているのだろう。
どこかで、見たことがある物語だ。

ついに胃がやられた。アレルギー性鼻炎の薬が体との壊滅的な相性問題を呈した結果だった。脳の暴走による胃酸過多とストレスの堂々巡りがそこに拍車をかけた。

胃痛はあるが、食べることはできる。風邪のような体調不良も底打ちとなり、回復の途をたらたらと牛の歩みで進みつつ、胃痛と吐き気に悩ましい日々が続く中、医師に処方された胃薬をげんなりと飲みながら、ふと思った。

私は、どうしてこんなに自分を抑えつけているのだろう。
誰に責められるわけでもないのに。
どうしてこんなに自縛しているのだろう。
実際に誰かに傷つけられたこともないのに。

そこで、何かに必死に抵抗を続け、自分を恐怖に駆り立てることを、諦めてみた。

周りの情報を意識的に遮断して、冷静に、自分が自分に必要だと思う治療を紙面に書き出していくと、最初に医者にかかった時に処方された薬と同じだった。
抵抗して、賢しらになっていたのは自分だった。とりあえずそれが分かった。

なにかの記憶が、引っかかる。

医学も、一つの手段だ。
心と体の負荷を和らげることが、必要だ。

一旦、全てをストップさせる。

苦痛と恐怖と不安は、邪悪なものからの脅迫だった。
そんなもので、楽になるものか、と、頑なにさせる思考がある。
それに逆らって、ひとつ、マインドフルネスを試す。

突然のパニックや不安感への対処の仕方は、少し息を吸って呼吸を止めて、十秒数えてからゆっくり吐くこと。
経験から、焦ってたくさん呼吸をしないほうが早く落ち着くと分かっている。
分かってしまうほど不安にかられることの方が問題なのだが。

少ししてから、目を伏せて呼吸に意識を集中する。
光への浄化と上昇もせず、ただその場でじっと静かにする。
なにかの記憶が、脳裏にちらちらと閃く。

(光と闇の戦いが、三月に入ってから、本格化している――。)

もう少しだ
体は、闇に対する免疫を発揮しているのだから
意識の側で、私が、この問題を解決できたら。

――もう少しだ
あなたはあなた自身を 光と闇に分けたのだから

――まだ分からないのか

最終知識の一節が、不意に浮かんだ。

あなたを苦しめ支配している力が
イエスを殺したのだ
それは あなた自身なのだ

――私を苦しめているのは、私自身
今ここにいる、自分を痛めつけ続けている私は……

闇の自分

はたと気づいた。
私の中の闇たる側面が、人生の時間が体調不良で不毛に終わり、全てが徒労と終わるようにと、全力で抵抗を仕掛けていたんじゃないか。

この『私』は魔界のもの
魂の闇の側面

その瞬間、頭の中がクリアになった。霧が晴れたように心が軽く、気持ちも上を向いた。
やっと精神の免疫が正しく発動した気がする。憑き物が落ちた。
闇は、正体を暴かれると、その抵抗力を失ってしまう。
神秘が暴かれれば力を失うのと同じ仕組みだ。

最終知識を読もう、と二ヶ月ぶりぐらいに思った。
とりあえず、とても気分が良かったので、お風呂に入った。ここ数ヶ月で一番気持ちが良かった。

長らく戦っていたけれど、どうにかここでは、一つ、勝利。前進できたようだ。
悪魔憑きになっていると、なかなか最終知識のことが思い出せないか、読む気にならないらしい。

でもちゃんと読んでいたことが心の中にしっかり残っていたから、抵抗力が少しはついていたのか。

イコンシールが欲しかったけれど、届く前にどうにかできたようだ。
…やっぱりあとでちゃんと貼っておこうと思う。
シールでさえ手に入れようと思っても、買う気にさせない妨害っぷり。

なかなかひどい目にあった。