#68  われらが国語(日本語)に愛と感謝を ~その2 当用漢字

きわめて重要な通過点の一つである六月を間近に控えて、何度でも、繰り返し伝えたいことがあります。
今日は鈴木先生の、興味深い日本語のお話の前に、ひとつ。

日本のいまの経済状況、国民の貧困化を生み出しているもっとも大きい要因は財務省のプロパガンダと政策です。
それらが崩れない限り、大きく打つ手はありません。

京都大学教授で、第二次安倍内閣の内閣官房参与でもある、藤井聡さんのラジオ番組をご案内します。

  「日本の借金」のウソが、日本を滅ぼします。  
   https://the-criterion.jp/radio/20180507-2/  

藤井聡さんご自身による番組解説は以下。
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「『日本の借金』のウソが、日本を滅ぼします。」。世の中にはさまざまなウソがあるが、その中でも最大のものが「国民1人あたり800万円」といった「国の借金」をめぐるウソ。あたかも国民が多大な負債を背負っているかのように語る言説に騙されてはならない。
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「借金時計」を言い出したのは、財務省です。
いいかげん難しいことに騙されてくれる国民を、たぶらかすのはやめて欲しいものです。
「日本の借金」って、日本の誰が誰に借りているのか?というと、95%は、銀行、保険会社、年金などを通して、日本国民が貸し手、借り手は政府です。残りの5%の国債を外国が保有していますから、海外から日本政府が借り入れをしていることになります。
国民は貸し手ですから、いかにも「国民の支払うべき負債」であるかのような「借金時計」などの表現は不当です。
適切でないだけでなく、裏にある種の意図が潜んでいることを感じます。

「骨太の方針」が今年も六月に発表されますが、妙な日本語だなぁ、と思っていました。
三橋貴明さんの解説によると、小泉進次郎さんも研究員だったことのある米国のシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)が言い出した「Backbone Policy」、つまり「背骨の方針」だろうということですが、「バックボーン・ポリシー」なら、あまり違和感のない言葉なので、やはり元はCSIS用語かもしれません。
この日本語離れした奇妙な言葉「骨太の方針」に、プライマリーバランス黒字化目標を最初に取り入れたのは小泉政権でした。その後、リーマンショックを受けて、日本経済にてこ入れするため、麻生政権はプライマリーバランス黒字化目標を外しています。
三橋さんの解説では、これが財務省の逆鱗に触れ、財務省はマスコミを使って、麻生太郎元首相の個人攻撃を始めたのだということでした。

覚えているでしょうか?
「未曾有」の読み方とか、ホテルのバーで高いお酒を飲んでいるとか、マンガばかり読んでいてオタクっぽいとか・・・当時私はそのようなことが裏にあったとは知らないで、「みぞう」くらいは、ちゃんと読んでもらわないと困るなぁと思っていました。

もう一本、藤井さんの最新版を。

  「経済学者のウソ」が、日本を滅ぼします。
   https://the-criterion.jp/radio/20180514-2/   

経済というのは、机上の理論のとおりには動かないことが多いものです。
むしろ、人文学方面からのアプローチのほうが、正しく見ることができるのではないかと思います。

経済学部で学んで良かったなと思うのは、出会った教授が民間企業出身で「新聞は鵜呑みにするな」と入学直後に教えていただいたことと、統計学を知ったことでした。
最初はイヤでイヤで仕方がなかった統計学でしたが、必須科目でしたので、この「イヤだ」という感情から逃れるには、どっぷり浸かるしか術がないと思い、心を改め学びました。
いまは、学習した中身は忘れましたが、統計は条件を上手に変えれば、ほとんど望みどおりの結果を作ることができる、ということに驚きました。ですから、統計も根拠となる条件をきちんと理解して読み取ることが大切です。

財務省という権力権威をもって、パワーに押し切られ妙な忖度をする学者さんたちは、社会的地位などである意味守られて、発言が結果間違っていても、言いっぱなしのまま謝罪訂正することはありません。むしろ、新たなウソで固めるということも、よくあることかもしれません。これまでに起きていることから見ると、そのように見えます。
少なくとも、「景気の悪いときに増税」は、日々の庶民生活に照らして考えれば間違っていると素人でもわかります。

国の官公庁や大学など研究機関の発表は、つい信じたくなります。
そこから統計資料を取っていれば、新聞、テレビなどオールドメディアの発言も準じて同様です。
藤井さんのお話を聞いていただけると参考になると思いますが、経済学の学者さんたちも抱え込んで、日本を繁栄させない方向に追い込む政策に世論を誘導している・・・としたら、財務省は、こんなことばっかりやっているのか、とがっかりします。

ここで「光文書 (ヒカリモンジョ)Vol.592 旧大蔵省の終焉」を、もう一度、よく読み直してみてください。

財務省の権力基盤となっている国税庁を分離し、アメリカ型の歳入庁として独立させる方向へ、事務次官の不祥事も出たことですし、この際、仕切りなおすほうが良いのではないでしょうか?

文部科学省も、自国の母語教育を充実させるよりも幼少からの英語教育に走り、歴史教科書一つまともに正せず、大学をつぶさないために国費を使って海外から学生を呼んでくる、というひどい状態の教育現場が続くならば、一つの省庁として独立存在する価値はないと思います。

日本人の大学進学者の奨学金が、卒業後の新社会人にとって大きな負担になっているなか、定員割れの大学に留学生を集め、国費を投入して学費負担なし生活費支給で呼んでくる現実には、怒って当然のことだ、と思いますが、こんな現実もあります。

宮崎県えびの市にある、日章学園九州国際高等学校、今年の入校式で入場してきた百八十三名の学生たちのうち日本人はわずか十六名、残りの百六十七名は全て中国からの留学生だそうです。

  2018年4月25日(水)  留学生を確保せよ 地方の高校と自治体の試み
   https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/04/0425.html  

  【最新ニュース】マット安川のずばり勝負 三橋貴明 2018年5月11日
   https://www.youtube.com/watch?v=4CBSlsb-l0Y  

多くの国民が知らないうちに、国としての日本を弱体化させる試みが水面下で進んでしまっています。

近現代において、日本語には存亡の危機がいくつもありました。
明治維新の前後で、漢字廃止論や日本語放棄論がありましたし、大東亜戦争の後にはGHQによる占領政策があり、そこに乗じてかつての漢字廃止論や日本語廃止論を再燃させる人々の動きもありました。

日本を代表する文豪の一人、志賀直哉は、大東亜戦争の後、愚かな戦争をして敗れた原因として、日本語の持つ不完全さ不便さ、漢字学習の効率の悪さを挙げ、志賀直哉が世界一美しい言語だと思っているフランス語を国語にすべきだと提案しています。
ご本人は、フランス語ができたわけではなかったようなのですが、フランス語が世界一美しい言語だと信じていたようです。

同じ文豪でも、ロシアのツルゲーネフは、帝政ロシアの混乱期に、ロシア社会の惨状に深い絶望を感じながらも、ロシア語の持つ根源的な力がやがてロシアを救う、と信じていました。

同じく文豪とはいえ、大違いです。

政治家では、戦後、民主主義を広めるために国語を英語に変えねばならぬとアメリカで募金活動までしていた者もいました。憲政の神様といわれた尾崎行雄(号は咢堂) です。
尾崎行雄は、衆議院議員を何期も務め、文部大臣も経験しています。
立派な方々が、戦後の日本を、いち早く連合国に追いつくように成長させたいと願ってのことだとは思いますが、私から見たら、浅はかな話だと感じざるを得ません、残念です。

技術進歩や経済効率、ビジネスチャンスなど、さまざまな理由で「効率の良い世界共通語を」と望む方々は、どの時代にもいるのだと思いますが、方言一つなくなって欲しくない私は、この世界で効率だけを追求するなら「人間が絶滅すること」が、もっとも効率が良いことになるのではないか、と思います。

戦後、GHQによる占領政策が行われる中で、日本語そのものの存在に関わる危機の具体的な例は、これまで知りませんでした。

鈴木先生のプリントで、私が一番びっくりしたのは、「当用漢字」に関するお話でした。

—————————–  ここから 引用

いまから約七十年前の大東亜戦争(米国が日本政府に強制した呼称は太平洋戦争)終結直後に、日本の社会を急いで民主化(つまり米国化)する目的で、占領軍総司令部が招聘した米国教育使節団(一九四六年三月来日)も日本の国語改革に関しては、当時のアメリカ言語学界を支配していた【文字は言語の本質には全く関係のない、音声を記録する単なる手段に過ぎないものだから、なるべく簡便な方式が望ましい】という偏った言語観に従って、日本の書き文字をできるだけ速やかにローマ字化する方針であった。

そしてこれに待ってましたとばかり、勇んで協力した人々が、明治以来の長い伝統を持つ、日本語のローマ字化運動に携わってきた人々や言語学者たちだった。そこで米国使節団は、自分たちの目論む日本語改革が科学的に正しいことを裏付けるために、「漢字かな交じり」の日本語表記法が当時の日本の社会において、実際に言語としてはうまく機能していない証拠を集め、それを整理研究して公表する目的を持つ、新しい日本語研究所の設立を要望した。これを受けて文部省の機関としての国立国語研究所が設けられたのである。
そして総司令部は全国的規模での日本人の【読み書き能力の実態調査】を一九五〇年に行った、ところがこの調査があきらかにした事実は、なんとアメリカの学者たちの予測を裏切る意外な結果であっただけでなく、直接調査に携わった多くの日本の言語学者、国語学者たちをも驚かせる素晴らしいものだった。
この調査結果があまりにも予想外に良いものであったため、総司令部は予定していた日本語のローマ字化の計画を中止せざるをえなかった。しかし招聘した教育使節団はすでに予定通りの、「できるだけ早く漢字かなの使用を廃止して、日本語をローマ字で表記すること」を日本政府に勧告する旨を明記した報告書を残して日本を去っていたのである。
この勧告にいわば飛びついたのが既に当時の国語審議会の主導権を握っていた、先に触れた以前からの漢字廃止論者とローマ字論者のグループ、俗に表音派とよばれた人々で、この人々が主として文学者や国語学者からなるローマ字化に反対の立場の委員たち、いわゆる表音派の人々を圧倒して、近い将来に文部省が実施することを決めた日本語表記のローマ字化の、いわば準備段階としての漢字制限に踏み切り、当用漢字一八五〇字を国語審議会が文部省の諮問に応える形で答申(一九五八年)したのである。
そしてこの漢字廃止を前提とした当用(つまり漢字全面廃止までの当座の用を足すの意)漢字表を《日本語ある限り漢字は常しえにある》の意を込めた常用漢字表と改めたのは、私もその一員だった国語審議会においてであった。この新しい答申のもつ画期的な重要性は、もともと起源的には外国語であった日本の漢字が、もはや借り物という不安定な地位を脱して、日本語の不可分不可欠な構成要素となっていることを、政府として公式に認知したものであるだけでなく、表にある漢字の字形や使い方などは、これまでの答申のように国民すべてがそれに従うべき規範とはせず、目安という柔らかい表現で、実際の運用に幅を持たせたことである。

—————————– 引用 ここまで

「当用漢字」という言葉は知っていましたが、「漢字全面廃止までの当座の用を足す」という意味があったのか、と驚きました。漢字が常しえにある「常用漢字」となって良かったです。

鈴木孝夫研究会のまとめによる年表を拝見すると、先生は一九七二(昭和四十七)年、最年少(四十七歳)で文部省国語審議会委員となられたそうです。累計百万部の大ヒット『ことばと文化』(岩波新書)を上梓される前年の委員着任でした。
在任期間は三期(第十一期 昭和四十七年十一月二十四日から第十三期 昭和五十四年三月三十一日まで)六年間で、この間、「当用漢字」の「常用漢字」化や漢字の素晴らしさを原理的に主張し続ける、とあります。

文化庁のHP、国語施策情報には国語審議会の各期各回の審議内容が公開されています。
  http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/index.html  
  
参加されていた三期にわたって、鈴木先生のご意見も出ていました。

この期間のまとめとして、第十三期の概要には、
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 この期の審議会は,各方面から寄せられた「新漢字表試案」に関する意見を参考にするとともに,試案で残されていた問題についても審議を進め,この結果,この期の最終総会である第109回総会(昭和54.3.30)において,字種・字体・音訓・語例等を総合的に示した「常用漢字表案」をとりまとめ,中間答申として,会長から文部大臣に報告した。
 この「常用漢字表」は,6年間にわたる慎重審議の成果であるが,国語施策の重要性にかんがみ,最終答申に至るまでなお期間をおいて,各方面に公表し,次期の国語審議会に決定をゆだねることとしたものである。
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とあります。

期末に行われた第一〇九回総会で、はじめて「常用漢字」という文言が登場し、概要に反映されました。

そして、一九七九(昭和五十四)年三月三十日付けで、内藤誉三郎文部大臣(当時)あてに、「常用漢字表案について(報告)」という報告が提出されました。
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/13/tosin01/index.html 

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常用漢字表案について(報告)

 本審議会は,昭和41年6月13日付け文文国第37号をもって文部大臣から諮問された「国語施策の改善の具体策について」のうち,漢字の字種,字体,音訓等の問題について慎重に審議した結果,ここに,別冊のとおり常用漢字表案をまとめ,中間答申として報告します。
 思うに,今回の常用漢字表案は,これまでの漢字問題に関する長い議論や検討に結着がつくこととなる重要な意義をもつものです。このため,本審議会としては,昭和52年1月新漢字表試案を公表して意見を聞くなど,6年間にわたって慎重審議を重ねてきたものではありますが,この際なお慎重を期して,この常用漢字表案を公表し,正式答申に至るまでしばらくの期間をおきたいと考えます。このことによって常用漢字表案が広く国民に受け入れられ長期間にわたって使用されるものとなることを期待します。
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その後、最終答申に至るまでの期間、内容について更なる吟味と手続きを経て、一九八一(昭和五十六)年内閣告示第一号「常用漢字表」が発表されます。
平成二十二年内閣告示第二号「常用漢字表」として改定されました。

ところで、鈴木先生は先の大戦を、通常「大東亜戦争」と表現されます。
私も、それが正しい表現だと思っていますが、ときどき主催者側から言葉による「注意」がはさまれることがあります。
日本から見る歴史においては「大東亜戦争」という呼称が正確だと思います。
太平洋は、「日米」の主戦場でした。

繰り返しのお知らせになりますが、鈴木先生の講演会が、六月三日に開かれます。

講演会の主催は 慶應義塾⼤学タタミゼ プロジェクトで、テーマは「日本語と世界平和」です。
今回はほかに、カナダから金谷武洋さんをお招きなさっての講演会です。
慶應義塾⼤学⽂学部井上教授も交えて、鼎談も行われます。

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⽇時: 二〇一八年六⽉三⽇(⽇) 午後二時~五時
場所: 慶應義塾⼤学三⽥キャンパス北館ホール
   ( https://www.keio.ac.jp/ja/maps/mita.html )
⼊場無料・事前申込不要  ※どなたでもご参加いただけます。
お問い合わせ先 : 20180603@fora.jp  
主催 : 慶應義塾⼤学タタミゼ プロジェクト
共催 : 慶應⾔語教育研究フォーラム  
協⼒ : TAO LAB http://taolab.com  
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貴重な機会ですので、ぜひ、実際に足を運んで、熱いお話を直接聞いていただきたいと思います。

平成三十年五月十八日

阿部 幸子

協力 ツチダクミコ