#67  われらが国語(日本語)に愛と感謝を ~その1 

私の大好きな先生のお一人に、鈴木孝夫先生(慶應義塾大学名誉教授)という、ユニークで素敵な先生がいらっしゃいます。
私の心に映る鈴木先生は、幼少年期の純真な心を保ち続けられて御年九十一歳、人生の折り返し点をとうに越えた今では「人生下り坂最高!」を全身で体現されている、すばらしい大先輩です。

ご専門は社会言語学ですが、もともとの進学先は医学部でいらしたので、生物、生体にも詳しくておいでです。
鳥が大好きで、財団法人日本野鳥の会の顧問でもいらっしゃいますが、小学生の頃に入会された先生は、会員歴約八十年、最長記録保持者でしょう。

研究熱心でクールな、世界的学者さんでありながら、極めてホットなお人柄で、熱のこもったお話には、知識層ばかりでなく、私のような一市民を含めて、たくさんのファンがいます。

大正生まれの先生は歴史の生き証人であるだけでなく、社会学者として社会のあり方にも多くの疑問を投げかけておられ、これまでにもたくさんの課題を指摘してこられました。

昭和初期の東京、空襲後の東京、敗戦後の日本、みな、通り抜けてこられ、世界各地で研究を続けられた先生は、今に至る日本人のメンタルに対しても、大東亜戦争終戦後の爪あとにも、大いなる危機感をお持ちです。
教育現場にいらした責任感も重ねて、自虐的にすぎる日本人の作られ方は、自国の正しい歴史をもっとしっかり知らない限り、この先も脱せないのではないか、と、さまざまなご著書を通しても発信しておいでです。

歴史に疎い方々でも、鈴木先生のご著書を介して、自らのうちにある自虐史観に、おのずと気づかれることも多いのではないかと私は期待して、多くの皆さんに先生の本を読んでもらいたいと切に願います。

環境全般にも造詣が深く、「もったいない精神」も筋金入りで、エコ実践を地道にコツコツ続けてこられました。
エコ関係のご著書も数冊出されています。

学術的なご活躍はもちろんですが、さまざまな視点のユニークさ、実行力、行動力、自由闊達な存在そのものがなんとも素敵で憧れます。

数多いご著書のなかでも、岩波新書の『ことばと文化』は有名なロングセラーで、英語、韓国語に翻訳されています。新潮選書の『閉された言語・日本語の世界』は、ドイツ語に翻訳されました。

私にとっては新潮選書の三冊『閉された言語・日本語の世界』『日本人はなぜ日本を愛せないのか』『日本の感性が世界を変える 言語生態学的文明論』と、新潮新書『日本語教のすすめ』がとても興味深く、先生の脳内宇宙に入りやすかったです。今は『新・武器としてのことば―日本の「言語戦略」を考える』(アートデイズ刊)を拝読しています。

本や文章を読んで著者にお便りするという体験は、記憶の限り、積さん以外には無かった私ですが、この歳になって、鈴木先生に昨年お便りをお送りしました。
先生からは、お返事が遅れたのでと丁重なお電話を頂戴して、近々の講演会を教えていただき、昨年末には立教大学で直接、講演を拝聴することができました。

一月にも、東洋大学で先生のご講演がありましたが、私はその日関西にいたため、友人たちに参加してもらい、後から配布資料とともに録音データでの聴講が叶いました。

皇居清掃勤労奉仕を終えた節分の頃、幸いなことに、一月の講演会に参加した友人を通して、鈴木先生に直接お話を伺うチャンスをいただきました。
日ごろ感じている疑問や、社会に対する思い、歴史認識のことなど、いろいろな部分で強烈に心に響いた二時間でした。

学術中心の人生を歩んでこられた先生と、勉強については特に怠け者の私とでは、ものすごい落差があるはずですが、トコトン考えて挑戦するのが好きだった子供時代から、今も考えながら実験することの好きな私は、うれしくも意外に先生と共通の思いがたくさんあります。

エコ実践の程度をはじめとして、好奇心の対象など異なることも多いのですが、「先生のおっしゃるとおり!」という話題が山のようにあり、久しぶりに心底ワクワクした時間を過ごすことができました。

私は実践のための勉強しかしてこなかった人生ですが、実践も研究も両立されてきた鈴木先生は、まさに賢者そのものです。

一月の講演会で配布された資料について、大変興味深かったので、「引用しても良いですか?」とお尋ねしたところ、即座に「いいですよ、何か書いたらぜひ見せてね」と快くご了承くださいました。

にもかかわらず・・・先生とお話した数々のテーマ、断片を、どのように繋ごうかと考えながら、はや三カ月。
そして、その日話題に上がっていた鈴木先生の講演会が、六月三日に開催されます。

講演会の主催は慶應義塾大学 タタミゼ プロジェクトで、テーマは「日本語と世界平和」です。
今回はほかに、カナダから金谷武洋さんをお招きなさっての講演会です。
慶應義塾大学文学部井上教授も交えて、鼎談も行われます。

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⽇時: 二〇一八年六⽉三⽇(⽇) 午後二時~五時
場所: 慶應義塾⼤学三⽥キャンパス北館ホール
    ( https://www.keio.ac.jp/ja/maps/mita.html
⼊場無料・事前申込不要  ※どなたでもご参加いただけます。
お問い合わせ先 : 20180603@fora.jp  
主催 : 慶應義塾⼤学 タタミゼ プロジェクト 
共催 : 慶應⾔語教育研究フォーラム  
協⼒ : TAO LAB http://taolab.com 
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大変貴重な機会ですので「講演会にぜひどうぞ!」と皆様にお誘いの声を届けたいと思います。

鈴木先生によると、日本語は世界で唯一の「テレビ型言語」といえるのだそうです。
音声のみと文章を見て読むことの間にあまり大きな落差の無い「ラジオ型言語」に比して、聴覚による「音声」のみでなく、漢字という視覚映像を同時に活用しているためです。

そして、日本語に用いられている漢字の持つ「ヤヌス的双面性」が大きく働いているとも指摘されます。
大変興味深いお話です。

また、今回主催の「タタミゼプロジェクト」にある「タタミゼ」というそれは、日本語の作用によって日本化する心持の変化をこそ、いまの混乱を極めた世界が必要としているはずであるという推測のもととなる視点を提示してくれています。

タタミゼの具体的なお話は、多くのご著書や六月の講演で学んでいただくことにして、先生に許可していただいた講演資料のちょっと長い引用とともに、私の脳と心を刺激してくれたいくつかのお話を、引き続きご紹介してまいります。

まずは、鈴木孝夫先生のご著書と映像を、参考までに上げておきます。ぜひご一読ください。
私は購入して持っていますが、よく行く図書館には下記の本はすべて揃っていました。

    『日本の感性が世界を変える』
    鈴木孝夫著  新潮社 新潮選書  千四百四円

    『日本人はなぜ日本を愛せないのか』
    鈴木孝夫著  新潮社 新潮選書  千四百四円 

    『閉ざされた言語・日本語の世界』
    鈴木孝夫著  新潮社 新潮選書  千四百四円 

    『日本語教のすすめ』
    鈴木孝夫著  新潮社 新潮新書  七百四十円+税

    『新・武器としてのことば―日本の「言語戦略」を考える』
    鈴木孝夫著  アートデイズ  鈴木孝夫著  千七百二十八円

 <京都大学におけるご講演の動画>

   特別シンポジウム「グローバル人材と日本語」講演 -  京大OCW
   http://www.youtube.com/watch?v=ZYzdwMRbkjA  

平成三十年五月十一日

阿部 幸子

協力 ツチダクミコ