歴史から抹消してしまった国防と国益 XⅦ
-滅びゆくアメリカ社会-

2月 北京オリンピック
3月 韓国大統領選
7月 参議院選 (日本)
中国共産党大会 (習主席 3期目の政権継続かを決める共産党大会)
11月 アメリカの中間選挙

 多くの人は、いまのアメリカが国家として続くと思っていますが、アメリカ国家が10~15年後にはこの体制のまま残っているのか、わからない状況になっています。そのアメリカの「国づくり」の正体が、11月の中間選挙で全容が明らかになります。日本では大統領選ばかりが注目され、ほとんど中間選挙に目を向けることはありませんが、今回の中間選挙は、いままでの中間選挙とは違う重大な選挙になっています。その大きな要因は、議会と大統領府が共和党と民主党のねじれになってしまいアメリカ政治が機能しない状態になる可能性が高くなっているからです。中間選挙後のアメリカ政治は、2年間はまともに機能せず内政も国際情勢もワシントンの権威が効かずグダグダになっていくからです。国際情勢においては、いままで国策として世界をアメリカ化にする覇権が終わり、世界の秩序が大きく変わろうとしています。世界の均衡が、アメリカの覇権で保っていた情勢・秩序(アメリカが理想とした平和社会)がカオス化になり、世界は混沌とした時代に向かっていきます。
 冷戦以降アメリカは、1極体制で世界を覇権してアメリカン・デモクラシー(アメリカの民主主義)を世界に押し付けて国際秩序を作ってきました。それによって各国は、パックスアメリカーナ(アメリカの秩序)の価値観の中で経済・政治を回して人類を繁栄させてきました。そのアメリカの権威が薄れ「世界の警察」としてのパワーがなくなり、集団安全体制が効かない時代になってしまいました。今回のウクライナ情勢を見ても、世界の均衡バランスが壊れています。

 さらに深刻なのは、アメリカ本土で内から分断・分裂がおこり、いまの国家体制が維持できなくなっていきます。ほとんどの人は「そんなバカなことが」とか「アメリカが潰れることはない」と思っている人が大半だと思います。しかし、アメリカの内部の状況を見ていると10~15年以内に、白人至上主義が壊れ白人優越が通じない社会に突き進んでいます。右の図を見てもわかるように、白人の人口比率がどんどん落ちてきています。(この表は、18歳以下のアメリカ人の人口分布を年代によって表しています。白人・ラテンアメリカ人+スパニッシュ(南米人)・黒人・アジア人・ハーフ・ファーストネイションと分けて、人口分布になっています。)ここで、わかるように2010年の白人の18歳以下の人口は53%に対して、2020年には49%になり白人よりも有色人種の方が多くなっています。それは、何を意味するのか? 白人優位のアメリカ民主主義ができない日が迫っていることを示しています。アメリカが建国以来、神聖化してきた選挙が白人に優位な生活保障をしない時代が訪れて、白人の身分保障をしない時代が訪れようとしています。これは、すごく深刻な問題でかつてのような多数決原則にのっとったアメリカ民主主義で、白人を中心とした国づくりが出来ないことを意味します。いままで続いた白人のデモクラシーと権益が壊れ、有色人種が白人と対等の権利と権限を持つ時代が15年以内には来るということです。その状況に、白人社会は黙って見ていられるのか? 「選挙そのものが、神聖化されたものではない。」という、アメリカの国体そのものを否定していくことにもつながっています。この11月の中間選挙は、アメリカの「国づくり」の方向が決まる大事な選挙になっています。内政も国際情勢も重大な局面に来ているにも関わらず、2年間身動きが取れないアメリカ政治がはじまろうとしています。さらに2年後には、大統領選が控えていて民主党が大敗して共和党のトランプ大統領の復活という、今までのアメリカの大統領史にないことが起きようとしています。この先には、アメリカ民主主義の崩壊とともに矛盾に苦しむアメリカ人の苦悩がまっています。(トランプ氏が次期大統領になれば4年出来ることになり、さらにもう1期するならば、大統領を12年出来ることになります。権力の1極集中を避けるために、期限を設けて権力と民主政治の調和を取って独裁政治を避けてきました。その大きな仕組みが、変わろうとしています。)

 

―迷走するアメリカ―

 これからのアメリカは、日米同盟が親密になるという話しではなく「アメリカン・ファースト」というアメリカの国益を重視した方向に舵を切り、世界に展開している米軍の撤退と国内産業を重視する国づくりをしていくでしょう。そうなると、「世界の警察」としての役割はしないことを意味し、国内重視のモンロー主義にアメリカは向かっていきます。アメリカ国内ですべて循環する経済と産業構造に切り替えていき、自国の中で完結できる仕組みにしていくでしょう。そうすると、中国で生産するブロックチェーンは必要とせず、自前資源の中で賄える産業インフラを作って経済安全保障を柱にした国家になっていくでしょう。これからのアメリカは、これが大きな経済の柱になり世界の経済のけん引してきた役目に終焉をしていきます。
 さらにアメリカは、イデオロギーの面で深刻な事態になっています。それは、多様化社会を推進したがゆえに多数決原理の民主主義では、収拾がつかない事態になっていいます。今はやりの「ポリコレ」や「トランスジェンダー」や「カーボンニュートラル」という言葉でもわかるように、まっ平らな社会と綺麗ごとの理想郷に進もうとしています。これまでの社会・共産主義国家とは違う形の共産主義社会と、国民の経済的自立が出来ない社会構造に向かっています。「カーボンニュートラル」という馬鹿な政策を打ち出したがゆえに、燃料インフラであるエネルギー価格の高騰により、低所得層の生活をひっ迫して貧困層を拡大させています。
 いまアメリカは、地域の分断化が起こり内陸部は古き良き開拓時代から続いた自由経済主義を主張しています。それに対して西海岸沿いの町は社会・共産主義にしようとしています。高学歴や中間層より上の人たちは、リベラルで革新的な社会こそが次世代の社会だと信じている人が増えています。
 地域によって、産業構造の違いとイデオロギーの違いが国家を分断化しようとしています。そもそも、アメリカという国は、自由と競争の中でマテリアリズムとマネー至上主義(物質主義と至上経済主義)の中で国家を繁栄し、それがアメリカ国家の屋台骨でした。簡潔に言えば、物を持つことに喜びを持ち、経済的に成功することがアメリカン・ドリームでした。この2つの精神性が、アメリカそのものでした。過去をたどれば、奴隷経済からはじまり軍事複合体の国体を作り、マネタイズ(monetize: 無収益のサービスを、収益を生み出すサービスにすること。無料ネットサービスの収益化、無償コンテンツの有料化や広告収入モデルの確立など。)を経済の中心に置くことによって、アメリカのマネー文明を作り精神構造の柱になりました。それを付随する形で、生み出したマネーでマテリアリズム(物質主義)の相関関係でアメリカは国づくりと民族の精神を作ってきました。
 それを壊すということは何を意味するのか? アメリカ人が過去を抹消することで、アメリカという国家は生まれ変わると思っている人が若者を中心に増えてきています。アメリカの内陸部は、いまだに60~80年代の中で生きている人たちがいて、ジョン・ウェンやスティーブ・マックィーンを類似する人たちが数多くいます。それらの人たちは、「ポリコレ」「トランスジェンダー」という価値観を理解することは出来ません。いまだにアメリカでは、中絶手術を罪とする州があり聖書を基本とした社会秩序で成っている地域があります。聖書を基に忠実に生きる人たちの地区では、社会全体が聖書と開拓精神から法律・社会慣習で出来ています。それらの人たちに、いま西海岸で起きていることを受け入れることは出来ないでしょう。日本では、あまり伝えられていませんが、“Black Lives Matter”や“Me Too”運動は、すべて根っこはアメリカの国体が壊れるというところに繋がっています。日本のある国会議員は、それらの運動を真似て「男女平等」「差別ない社会」としてパフォーマンスをしていましたが、稚拙で浅知恵の何者でもありません。表面的には、差別社会を無くすという運動に見えますが、あの本質は「アメリカ社会を平らにして共産化された社会に作り変える」という運動の一環であり、いままでのアメリカ史を否定して過去を白紙にする運動でもあります。日本で考えている平等社会というレベルの浅いモノではありません。
 この価値観が広まれば、アメリカ自身の精神を否定することになり、何を柱にした国家観や民族観を持つのか迷走の時代に突き進んで行きます。その先には、アメリカン・ジャスティス(American Justise:アメリカの正義)が無くなってしまう危険があります。(余談になりますが、アメリカ人はJustiseをすごく大切にします。直訳すれば、正義・司法・公平になりますが、アメリカ人の善悪のボーダーラインがこの言葉にすべて集約されています。アメリカ人が持っている精神性の価値基準が、この言葉によって凝縮されています。)
 この価値がなくなるということは、何を意味するのか? 過去や文明の上塗りをした社会は、民族の分裂と分断を起こし、決して国を繁栄することにはつながりません。中国の文化大革命を見てもわかるように、歴史を抹消したところで新しい価値が民族の文化としては根付きません。いま、アメリカはその大きな局面の中で国づくりをしています。その分断と亀裂が、11月の中間選挙によってアメリカの行く末が見えてきます。

 

―日米安保条約の不確かさ―

 日本では、いまだにアメリカの安保条約のもとで日本の国防と防衛をしてくれると信じていますが、本当にそのロジックはいまも通用すると思っているのでしょうか? オバマ大統領時代からのアメリカを見ていて、アメリカの国家としての姿勢は日本人が抱いている日米安保の中で日本の国防にはなっていないことが、明確になりつつあります。2013年の米中の対談で、習近平氏がオバマ氏に対して「太平洋2極論」を提示し覇権国家の2極化をしようとしました。その提案をアメリカ大統領にすること自体が、日米安保の不確かな関係であり、いつまでもアメリカ依存の防衛システムでは日本の国防は出来なことを証明しています。
 さらに、北朝鮮に数回の核実験を許し独裁国家に核を持たせてしまいました。日本に対しては、徹底的に核保有をさせずに、核議論すらアメリカは許しませんでした。(日本では、日本人の選択として核保有しないことを選んでいると思っていますが。実はアメリカの工作活動によって、言論弾圧と核武装をさせない状況をアメリカが日本国内の世論誘導をしてきました。過去のアメリカの政府高官の記録を見ればわかるように、「北朝鮮に核は持たせても日本には絶対に持たせるな」というアメリカ政府の本質があります。それぐらい、アメリカは第二次大戦の後遺症があり、日本に核を持たすことを断固拒否してきました。)
 日本は、4カ国の核保有国に囲まれ、そのうち3カ国が対立国であります。同盟の1カ国は、対岸の一番遠い国の核の傘の中でパワーバランスを保っているという状況になっています。
 そのアメリカが、世界に展開した軍を撤退させ、世界の軍事バランスの均衡が極めて危険な状態になっています。それは、去年のアフガニスタンの米軍撤退を見ても解ると思います。何の戦略もなく突如撤退をして、世界各国は事前の準備が出来ないまま政府機関の退去を余儀なくしました。それに加えて、米軍基地の中にはアメリカの軍備品を置いていくという考えられない撤退でありました。
 この2月からはじまったウクライナでの出来事で、アメリカの本質や世界秩序が明確になりました。敗戦後信じられていた全文と憲法9条のような世界秩序ではないということが、レトリック(巧みな表現をする技法)として解ってしまいました。このウクライナ戦で明確になったことは以下の3つです。

  • 国連は全く機能しない現状 (常任理事国が、侵略をしたことでウィルソニア体制が通用しない。)
  • 核保有国同士は、戦争をしない現実
  • 核保有国と不保持国の戦争は、保有国が有利であるということ。

 いま、日本のメディアを含めて多くの日本人は、心情的に「ウクライナは悲劇」とか「ロシア侵略は許されるものでない」という方向に向かっていますが、この先に必要なのは、スラブ民族の大きな歴史に感情移入して深く干渉をしないことだと思っています。今回の侵略は、民族生存競争の幕開けでありウクライナの様な状況がいつでも日本でも起こりうるということです。いまは、プーチン大統領の独裁体制がもたらした残虐性をクローズアップしていますが、日本は3カ国の独裁国家が隣接しています。その独裁体制の中で、いつでも日本に侵略するシナリオが出来ています。仮に中国が、尖閣諸島を占拠した場合に、本当に米軍が協力してくれるか? 去年、アフガニスタンの事例ではありませんが、議会と大統領の判断でアメリカ軍の日本からの撤退もありえます。中国と対峙するということは、いままでのアメリカの戦争史とはまったく違うフェーズ(局面・段階)になり、戦術核兵器を使用する前提での戦いになります。中国と対峙するということは、一瞬にしてアメリカ本土の住民を20~30万を消滅することも視野にいれた上で、日本の防衛にあたるということです。果たして、アメリカの議会や大統領がそんなことまでして、日本の防衛に当たると思うのか? 根本の国益と国防の問題があります。アメリカは、戦争の絶えない国家であることは違いありません。しかし、アメリカは本土で被害にあった戦争は1度も経験したことがありません。戦術核の戦争になるということは、たった一発で20~30万の命が奪われます。米中戦になれば、一瞬にして広島・長崎のような被爆の都市を何十も作ることになり、アメリカ人はその覚悟の上で日本防衛をするのか? 常識的に考えれば、議会民主主義で国民の命を犠牲にしてまで他国を守ることは国民の同意にはつながりません。日本の有識者は、日米安保があるから米軍が日本を守ってくれると言っていますが、私には詭弁としか聞こえません。誰が他国のために、自国民を犠牲にまでして安全保障という言葉の契約を遵守するのでしょうか。
 日本人は、誠実かつ忠実な民族です。他民族が日本民族と同じように、情に厚く義理・人情で国家間の関係を見ていますが、世界は美辞麗句の民族生存の中では生きていません。思い出してもください。1941年に日本は、日ロ中立条約を結びました。しかし、一方的にロシア側は1945年に条約を破棄して、北方領土を侵略して多くの日本人が殺害され捕虜として連れ去られた過去があります。アメリカも国益のために、いつでもルールをずらして世界を覇権してきました。今日は書きませんが、今回のロシア侵攻は決してプーチン大統領だけの問題ではありません。アメリカも深く関与して、民族間の対立の下地を作ったのはアメリカです。ロシアだから信じられず、アメリカだから信じられるというレトリックは捨てるべきです。いま世界は、大きな過去の歴史を総決算する同時に来ています。そして、アメリカ本土でも国家・民族の分断が起きているという現実も見なくてはいけないと思っています。この歴史的転換は、WGIP(敗戦責任洗脳プログラム)の脱洗の離脱と日本の文化を取り返す時期であることは間違いありません。そろそろ、西洋人が作り上げてきたレトリックに、振り回されるのではなく日本独自の価値観で世界を捉える必要があります。