最終知識

第四章【魔の遺産】

  長い長い沈黙が続いた。回路は切れなかった。私に向けられる怒りのエネルギーは、わずかだった。その存在の深遠たる奥の奥に光点があることを、私は見た。それは地球でいうところの神であった。原初の神の光が、その存在のエネルギー源だった。
  私が感じた瞬間、その光は隠された。こんどは、向こうが探査される立場だった。あきらかに迷っていた。その存在のデータのなかに、私のような人間は記録されていない、と感じられた。私は、対等だと直感した。私も相手を知らない。相手も私を知らない。それを察知して、地球の主人たる存在は、回路を切ることに決めたらしかった。切れかける回路を通じて私は、思考し続けていたことを伝えた。

  そこに行く

  私の思考が伝わったらしく、前と同じ言葉が、私の頭のなかに響いた。

  「用意はできている」

  私が、意識を現実の世界に向けると、机の向こうに置かれたソファの上で、同行者が意識を失って眠っていた。腹背に敵を受けていた。神界のものたちの一部は、狂えるこのち、を反映するかのように、同行者を通じて、神界消滅後も私を使おうとしていた。悪魔は、それを笑うかのように、私に対する包囲網を強めていた。さわらぬ神に、たたりなし、という言葉がいくども、頭のなかをよぎっていった。よぎるたびに、私は神にさわった証拠なのだと、自分にいい聞かせた。
  私自身は、目覚めさせられる前に、悪魔というものの性質や、人間の魔力、魔境といったものを高い授業料を払って学習させられていた。自分は何らかの超能力的なものを持っていると信じる人間は、かなりの比率で生きている。その多くが、その能力によって、つまずき、人生を不毛なものにしていく。そうした人間は、神界のものがそうであったと同じように、私を使えると感じるらしかった。そうした人間の想念を、私の脳はキャッチすることができた。私がいくらお金を持っていて、そのうちのいくらを自分が引き出せるか、探査する人間すら、いた。子供のころから、そうだった。私は、人間のこころの闇のなかにあるデータを読むことができたのだ。しかし、それを読んだところで、私にとって得るものなどはなかった。自分の意識が闇の底に引きずり込まれ、邪悪なシミュレーションをはじめる。私の場合、この邪悪さのシミュレーションを、つきつめないと、終わりがこなかった。人間は、いくらでも邪悪になれるし、残酷にもなれる。想像力のなかでは、悪魔のなかの悪魔、天使のなかの天使、どんなものにでもなれる。あるいは、つくりだせるのが人間なのだ。

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